「旅感」をもとめて パート3
「旅感」を味わうために新千歳空港から喜茂別町の宿まで、4泊5日のレンタサイクルで向かいたい私。
そして、至極のボロさをまとったシティサイクルに7,000円という法外なレンタル代を提示するタヌキジジイにめぐり遭った。
言うまでもなく交渉は決裂した。
自転車屋とリサイクルショップを5件探し回ったが、うち3件は交渉の余地もなく、残りの2件とは値段が合わず途方に暮れる。
時刻は出発のタイムリミットと決めた14時まであと30分を切っている。
「もうヒッチハイクしかないかなぁ、、、。」と考え始めた頃に、千歳川を横切った。
そう。私は喜茂別へこの千歳川のサイクリングロードを経由して向かいたかったのだ。
川幅としては5メートルほどとそんなに大きくはないのだが、その割には水量が多い。
市街地を離れだすと、両岸が草や木々に覆われはじめる。
川幅も少し狭くなり深さも増すことで、たっぷりとたたえられた豊かな山水がゆるやかに下流へと運ばれていく。
その悠然とした姿はカヌーの聖地と呼ばれるユーコン川をも思わせる。
(もちろん私は行ったことはない。)
サイクリングロードと並走するその数キロ区間を私は"リトルユーコン"と名付けた。
規模としてはおそらく本家の何十分の一というサイズだろうが。
そして、その流れと並走するサイクリングロードというのがまた素晴らしい。
車道からは隔離されているので、一人の世界でサイクリングに没頭できる。
道幅は対向車の自転車とすれ違えるくらいしかなく、その狭さも冒険心をくすぐってくるのだ。
時にはうっそうとした木々のアーチをくぐり抜けたり、木漏れ日を浴びたりしながらのんびりとペダルを漕いでゆく。
悠々と流れる"リトルユーコン"に視線をうつしては、その雄大な流れにうっとりしたり、「マス釣りなんかできるのかしら。」と妄想してニヤニヤしてみる。
色々あって私はその道を5回くらい通っているのだが、自転車で日本一周をした中でも特に印象に残っている場所の一つなのだ。
私がどうしても喜茂別町の宿まで自転車で行きたかったのは、そのサイクリングロードをまた走りたかったというのが理由の一つなのである。
しかしタイムリミットはやってきた。
町はずれにもう一軒リサイクルショップを見つけたが、不発に終わった。
観念して100円ショップで画用紙とマジックを購入して、大きく”キモベツ”と書き込む。
北海道には旅人慣れしている方が多いのか、10分ほどで止まってくださった方の車に乗り込み喜茂別の宿に到着した。
到着すると、玄関から出てきた宿のお母さんが、車から現れた僕を見てめっちゃ笑顔で迎えてくださった。
「今日来るって言ってたアイツは飛行機でくるらしいけど、空港からいったいどうやって宿まで来るのかしら!?」と心配していたらしい。
そうして優しい方の善意によって、15時30分頃には宿に到着した。
宿に併設されたカフェの卓を3人で囲みコーヒーをいただきながら談笑する。
乗せてくださった方の風貌や雰囲気、背格好が父親と似ていて親近感をおぼえた。
聞くと、年齢も私の父と同じだった。
お礼に僕の漆器ブランド”erakko”の新商品の試作品を送りますと言って、外でお見送りをする。
私の場合、ヒッチハイクで乗せてくださった方には自分の作ったものを送る。
新商品の開発ではのちに安くで売ったりするほどの量を試作品として作るので、それをお礼として進呈するのだ。
そして、win-winのコミュニケーションだなぁ、なんて一人で納得するのである。(お礼の品を喜んでもらえればだけれど。)
そういえば、会社員を辞めて自転車旅をしていた時は、「お世話になった人に自分の作ったものでお礼を返せたらいいなぁ。」などと考えたことが何度となくあった。
あの時から5~6年が経って、自然とそういうことをするようになってたんだなとしみじみ。
ともかくおかげさまで、夕暮れ時をゆっくりと味わえる時間の余裕もいただけた。
思い出の千歳川サイクリングは叶わなかったけれど、これもまた貴重な時間である。
なんとも心地いい、ひんやりとした秋の風を感じながらその日はのんびりと過ごした。
はてさて、今回は野球友達と遊べるかしらん。
つづく
みなさまのご支援で伝統の技が未来に、いや、僕の生活に希望が生まれます。