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【詩】うすらひ(薄氷)

溶けるよりも
砕け散りたかったのです

冬は陽の当たらぬ
この場所で
堅く戒めていたのに

柔らかな気配に
いつの間にか
とけはじめていたようです

凝っていた時間が
動き出し
身がさざなむまま

このまま
とけるに任せても
良かったのです

そうしたら
知らぬ間に
消えていたことでしょう

そうしたら
あなたを悲しませることも
なかったでしょう

わたしは冬の名残で
あなたは春の使者なのです

すれ違ういっときに
互いのまなざしに
触れてしまっただけなのです

でも、わたしの最期は
こうありたかったのだと
今、知りました

わたしの戒めを解き
遠い空へ還すのが
あなたの務め

薄日のなか
初めての光に
あなたが映し出されます

わたしからは
砕け散った
レンズを通して

いくつもの
いくつもの
あなたが見えます

いくつもの
いくつもの
あなたに

ひとり
ひとりの
あなたに

それぞれ
たったひとつの
さようならを伝えましょう

消えてしまうまで
何度でも
何度でも

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