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【詩】美しいと知っている「一月の声に歓びを刻め」れいこに寄せて(1)

灰色の街に吹く風が
この髪を
梳いても、梳いても

灰色の街に降る雨が
この街を
流しても、流しても

この街は
墨で描いたように
現実を失い

この体は
薄墨でできているように
頼りなく

光が怖くて
照らし出されるのが怖くて

でも

薄墨で滲む
ぼんやりとした感受性を
抱えながら

月は
光の影にうつしだされる月は
美しいと知っている

花は
月の明かりに浮かびあがる花は
美しいと知っている

どんな影であっても
美しいものは美しいと
感じられるなら

美しいものを美しいと
信じられるなら

わたしは
この世界で
生きていける



(作者から)
この休みの日に、三島有紀子監督の「一月の声に歓びを刻め」を観に行きました。
新聞の紹介を読み、できごとの後の生を描いていること、さまざまな立場の登場人物がどのように自分自身と向き合っているのかに関心を持って。

前田敦子さん演じる“れいこ”のシーンは、すべてモノクロです。
それは、できごとの後、世界から色彩が消えたという三島有紀子さんの経験があるから。パンフレットの中で「基本的に自分はモノクロの世界に生きているという感覚がずっとある」と語られていて、この詩もそこをベースにしています。

性暴力は
犯罪者を罰すればいいというだけでなく、
本当の苦しみは
その後の生きづらさが
いろんな表れ方をすること。

れいこが
これから新たに出会うかもしれない
好きになる人と
本当に抱きあえるようになりますように、
そう願わずにはいられませんでした。


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