妊娠中の鎮痛薬の選択

妊婦に使用する鎮痛薬は基本的にアセトアミノフェンが選択されることが多いが, 他の選択肢としてどのようなものがあるだろうか?

そんな疑問を持った最中, とてもよいレビューを見つけたので紹介
Medication Use and Pain Management in Pregnancy: A Critical Review.
Pain Pract. 2019 Nov;19(8):875-899.
複数のデータベースより, 妊婦と鎮痛薬で検索し, 
最終的に154編の妊婦に対する鎮痛薬使用のRCT, Cohortを抽出.

時間がない人は最後の表とフローを見れば良いです.


アセトアミノフェン

■ アセトアミノフェンは胎盤を通過するものの, 妊婦に対する使用では安全性が確認されている.
■ デンマークのCohortでは妊娠後期の使用により早産リスクの上昇(HR 1.14[1.03-1.26])が認められたが, 子癇前症患者群で有意に上昇を認めたため, 薬剤よりは母体の要素の関連と判断されている.
■ 流産, 死産, 低出生体重児との関連はない.

アセトアミノフェン(精神神経発達)

■ 妊娠中のアセトアミノフェンの使用と子供の注意欠陥多動性障害(ADHD)との関連が観察されており, これは曝露の頻度や期間が長くなると関連も大きくなる.
□ ノルウェーのコホートでは, 妊娠中のアセトアミノフェンの暴露が28日間を超える乳児は運動発達の遅れ, コミュニケーション能力の低下, 行動上の問題を認める可能性が高い.
□ これらの知見は交絡因子や選択バイアスが排除しきれないため, 解釈には注意が必要. 遺伝的交絡の関与も指摘されている.

喘息のリスク

■ ノルウェーの大規模コホートでは, 出生前のアセトアミノフェンの使用は3年後の喘息リスク(RR 1.13[1.02-1.25]), 7年後の喘息リスク(RR 1.27[1.09-1.47])になり得る.

まとめると

■ アセトアミノフェンは妊婦の鎮痛薬としてよく使用されるが,
妊娠アウトカムへの影響はほぼないものの, 子供への影響は0とは言い難い.
■ 長期投与などは避けるべきといえよう.

アスピリン

■ アスピリンは動物実験において先天奇形の可能性が認められているが, ヒトを対象とした研究では証明されていない.
■ アスピリン使用と流産の関連を示す証拠はない. 逆に妊娠3ヶ月におけるアスピリンの使用は流産のリスクを低下させる(aOR 0.73[0.54-0.97])ため, 低用量アスピリンは特定の高リスク群における流産予防に使用される.

■ アスピリンは7歳時の喘息リスクとの関連が認められている(aOR 1.4[1.1-1.6])が, この研究はアスピリン≥300mgと高用量で使用されていたため, 現在の低用量アスピリンで同等かどうかは不明
■ 胎児ではアスピリンの血中濃度が母体よりも上昇するため, 使用するならば低用量が推奨される.
■ 妊娠後期での使用では, 母体および新生児の双方に止血異常が生じえる.
650mg/日を超える使用は母体の出血リスク. また新生児の頭蓋内出血リスク
■ 妊娠第3期の使用では他に動脈管早期閉鎖, 羊水過小症に関連するが, 低用量アスピリン(<150mg/日)ではリスクとはならない.

NSAID

■ 全てのNSAIDは胎盤通過性を有する.
■ また安全性については使用時期, 量, 期間に関連
■ NSAIDは黄体化未破裂卵胞症候群(LUF)のリスクとなる.

□ これは, 卵胞が正常に発育し, 血清プロゲステロンが上昇しているのにも関わらず, 卵胞壁が正常に破裂しないために無排卵周期となる状態.

□ COX-2が関連しており, COX-1, COX-2 NSAIDの双方で生じるものの, 選択的COX-2阻害でリスクが高い.
 
□ 可逆性の病態であり, 薬物を中止すると正常は排卵が認められる.
□ 慢性疼痛やリウマチ性疾患で長期のNSAID使用患者で注意すべき病態と言える.

NSAIDと流産リスク

■ 妊娠初期のNSAID使用と流産リスクは複数の研究がある.

□ 初期の妊娠維持におけるプロスタグランジンの合成を阻害することが流産のリスクとなる可能性が示唆.

NSAIDと流産リスク

NSAIDと奇形リスク

■ 奇形のリスクは複数Studyがあるものの, リスクとするものもあれば, 有意差を認めない結果まで様々.
■ NSAIDは胎児奇形のリスクがあるとするには十分とは言い難い.

NSAIDと奇形リスク

NSAID その他のリスク

■ 妊娠30週以降のNSAIDの使用は動脈管早期閉鎖, 羊水過少症, アスピリンと同じ止血異常の関連から禁忌である.

■ 喘息との関連は不明.

■ 基本的に妊娠初期に不注意でNSAIDに暴露した場合, 
それが問題となることはまずないものの,
使用するならばアセトアミノフェンが優先される.

オピオイド

■ オピオイドはその小分子性, また脂溶性から, 妊娠により強く影響をうけ, クリアランスの増加, 半減期の短縮, 急速な胎盤通過が認められる.
■ 高頻度の使用や長期作用型オピオイドの使用は胎児蓄積をきたし, 新生児薬物離脱症候群(Neonatal abstinence syndrome: NAS)を来たす.

■ オピオイドと奇形との関連を評価した報告は限られている.

□ 二分脊椎や胃壁破裂, 心奇形との関連が示唆されているが,
 絶対リスクの上昇は軽微のみ.
□ 流産との関連は認められていない.

■ トラマドールなどの低親和性オピオイド作動薬は, 他と比較して乱用や中毒の可能性は低いと認識されており, 処方は増加している.
 
□ スウェーデンのCohortでは, 妊娠中のトラマドールの使用は主要な先天奇形リスク(aOR 1.33[1.05-1.70]), 心血管奇形リスク(aOR 1.56[1.04-2.29])に関連. ただし投与期間や量などの詳細は不明.

オピオイドと先天奇形リスク

抗てんかん薬

■ フェニトイン, カルバマゼピン, バルプロ酸は先天性奇形リスクの増加が認められているため, 妊娠中は避けるべき薬剤.
■ 一方で新世代の抗てんかん薬であるプレガバリン, ガバペンチン, トピラマート, レベチラセタム, ラモトリギンなどは妊娠中にも広く使用されている.
□ ガバペンチンによる奇形リスク上昇は認められていない.
□ プレガバリンはさらにデータは少ないが, 1件の前向きコホート研究では主要な先天奇形リスクとなる(OR 3.0[1.2-7.9])結果であったが, Nが少なく, 他薬剤暴露の調整がされていないため注意が必要.
□ トピラマートの催奇形性は他の新世代AEDと比較して高い可能性がある
. 小頭症, 低出生体重児と有意に関連しており,
 主要な奇形リスクの上昇(RR 3.8[1.4-10.6])が認められる.
 
□ ラモトリギンとトピラマートでは口腔裂のリスクが上昇.
■ 妊娠中の使用にはそれらの説明が必要. また1ヶ月前から妊娠初期にかけての葉酸の増量(5mg)が推奨される.

抗うつ薬

■ 妊娠中の抗うつ薬の評価は大半がSSRIであり,
 鎮痛に使用されるTCAやSNRIを評価した報告はあまりない.
■ SSRIでは奇形との関連は認められない
■ SNRI(ベンラファキシン, デュロキセチン)を評価した少数の研究では, 重大な催奇形は認められなかったが, 妊娠後期の使用により離脱症候群を含むいくつかの周産期合併症リスクと関連していた.
■ TCAも催奇形リスクの増加は認められていない. 一部で二分脊椎リスクとなる報告もある.
 妊娠後期の使用により早産リスクの上昇(RR 1.67[1.25-2.22]), 呼吸窮迫症候群や内分泌/代謝障害リスクが報告.

まとめ

妊婦の疼痛に対する鎮痛薬選択フローチャート


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