M蛋白血症とループスアンチコアグラント

症例: 高齢女性, APTTのみの単独上昇での相談.
 別疾患で入院中の検査にてAPTTは70-100秒と延長が認められた. 特に出血症状や出血の病歴はなし. PT, D-dimerなど他の検査は正常であった.

・クロスミキシング試験ではインヒビターパターンではなく, LA(ループスアンチコアグラント)を示唆する結果であった.
・他検査の結果, LA 3単位と陽性. しかしながら他の抗リン脂質抗体症候群(APS)に関連する検査は陰性であった.
・ANA陰性, 直接クームス試験陽性(溶血なし), 血小板減少ありITP疑い.
・骨髄検査では明らかな異常は認められなかった.
・梅毒, ウイルス性肝炎検査も陰性

SLEとは言い難く, APS関連抗体も陰性. しかしながらAPTTは顕著に延長している.

免疫グロブリンを評価すると, IgGは抑制(<500)されており, IgMが上昇(700-800)を認めていた. 
FLCではκ/λ比が2-3と開大あり, IgMκのM蛋白の存在が疑われた.


まず, LA検査ってどうやっているのだろうか?

LAの測定原理; dRVVT(希釈ラッセル蛇毒時間法)

・ラッセル蛇毒はVII, VIII因子の存在と関係なくV因子をを活性化させる作用がある.
・このとき, 抗リン脂質抗体が存在すると, リン脂質に作用しX因子以降の凝固反応がすすまない.
・さらに過剰なリン脂質を混ぜると, 凝固反応がすすむ現象が生じる.

https://www.sekisuimedical.jp/business/diagnostics/blood/la/measure.html より

この原理を利用して,
・試薬はスクリーン試薬とコンファーム試薬を用いる.
 
それぞれにラッセルマムシ毒, リン脂質, CaClが含まれる.
 
 スクリーン試薬ではリン脂質量が少なく, 抗リン脂質抗体存在下では凝固反応が進まない.
 コンファーム試薬は過剰に多く, 抗リン脂質抗体を無効化して凝固反応が進行する
・其々の試薬を使用した際の凝固時間を患者と健常者で測定し, その比をとり,
 それを其々スクリーン比, コンファーム比とする.
・LA検査結果(dRVVT比)は [スクリーン比]/[コンファーム比]より求める.

また, dRVVTにおいては中和前と中和後の数値(秒)も表記され,
中和前: スクリーン試薬使用前
中和後: コンファーム試薬使用後 である.
抗リン脂質抗体が多い場合, 中和後も延長していることがあり, その場合は「リン脂質中和法」を使用するとよい(リン脂質中和法は過剰なリン脂質を混ぜて中和し, 評価する)

つまり, LA陽性とは ”なにかしらリン脂質を阻害するものがある” ということを示唆する.
・それがAPS関連抗体かもしれないし, そうではないかもしれない.

M蛋白血症を認める患者において, リン脂質関連凝固検査異常を認める症例報告がいくつか報告されている.

古い論文報告が多いが, オンラインで読めるものをまとめてみた

・M蛋白はIgG、IgM、さらにκ, λと特に偏ったものはなさそうである.
・APS関連抗体も陽性となる例もあれば, 陰性のことも多い.
・出血や血栓症も認める例/無症候性と様々.

APS関連抗体「陰性」のM蛋白症+LA陽性の場合, 
・異常免疫グロブリンや遊離軽鎖を精製し, 健常血漿に作用させるとAPTTの延長が生じ, M蛋白自体にLA様作用が認められることが示唆されている.
 またこれらの症例の場合さほど血栓症のリスクにはならないかもしれない(MMやWM自体が血栓症リスクとなるため, さらにLA陽性による上乗せ効果はよくわからない)

APS関連抗体「陽性」のM蛋白症+LA陽性の場合,
・必ずしも一定はしないが, 血栓症や出血リスクとの関連が認められる可能性.

前述のStudy(表の2番目〜4番目の症例)における

・3症例のIgとリン脂質への影響を評価 (Br J Haematol . 1989 Oct;73(2):221-7.)
 
Col: IgGκ MM, 

 Lan:IgGλ MGUS,
 
Mar: IgMλ CLL

 Coc: Control

・リン脂質は3種類評価され,

 其々の免疫グロブリンで抑制されるものが異なっている.


他の報告など

・LAが陽性となったIgMλ型のWM患者より,
 IgMλを精製し,正常血漿に反応させたところ,
患者IgMλはプロトロンビンと第X因子のリン脂質へのCa依存性結合を完全に阻害した報告 (J Clin Invest . 1980 Sep;66(3):397-405.)

1980年〜1985年に単一施設で診療したリンパ形質細胞疾患, 多発性骨髄腫症例を後ろ向きに評価し, LA陽性例を評価
(Klin Wochenschr. 1987 Sep 15;65(18):852-9.)
・リンパ形質細胞疾患99例(このうち35例でM蛋白陽性)

 MM93例(89例でM蛋白陽性)を評価.

 LA陽性例は3例であった(MM2例)
・この3例を同時期に診療されたSLEや他免疫疾患に関連したLA陽性例と比較.

・M蛋白はIgGκが2例, IgMκが1例.

・IgG関連(MM)では2例とも静脈, 動脈性血栓症を呈した
・
ANAは3例とも陰性, 抗DNA抗体は2/3が陰性(陽性は弱陽性で一過性).

WMやMMは後天性血友病Aの背景疾患でもあるため, 両者の合併の可能性も考慮せねばならない.

・現状インヒビターはELISA評価ではないため, LA存在下における検査結果は当てにならない.
・実際そのような報告(MMやWMを背景とした後天性血友病とLAの混在)はあり, ミキシング試験の解釈や各種凝固因子の評価, 臨床症状との関連など多角的に見る必要がある(Clin Appl Thromb Hemost . 2015 Mar;21(2):149-54.)

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