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住友生命Vitality はエフェクチュエーションの塊だった件

はじめに

筆者は財閥系生命保険会社のデジタルオフィサーで、社内外でDX人材育成や生成AI教育を実施しています。8年前からDX商品である健康増進型保険Vitalityの開発に携わり、今日に至っております。またDXビジネス発想研修やエフェクチュエーション教育も手掛けています。

Vitalityは、加入者の健康増進活動を支援し、その成果に応じて保険料が変動する商品です。この商品の開発過程には、エフェクチュエーションの考え方が色濃く反映されています。住友生命Vitality とエフェクチュエーションの関係は深く、住友生命ではエンタープライズエフェクチュエーションを取り入れていますので紹介します。なお、Vitalityについては以下を参照ください。

エフェクチュエーションとは

エフェクチュエーションとは、起業家精神や事業創造の分野で注目されている考え方です。従来の事業計画では、目標を設定し、そのために必要な資源を集め、計画通りに実行するという流れが一般的でした。

一方、エフェクチュエーションでは、まず自分が持っている手段(資源)を見つめ直し、その手段を活用して達成可能な目標を見出していくというアプローチを取ります。不確実性の高い環境下で、柔軟に対応し、新たな価値を創造していくための思考法といえます。

ただし、企業で取り入れるには論点があり、経営者の理解とバックアップが必要です。以下住友生命でのエンタープライズエフェクチュエーションについて社長と議論した際のやりとりです。

以下、Vitality の具体的な事例を通して、エフェクチュエーションとの関係性を紹介します。

①Vitality コインの誕生

当初、健康増進活動の成果に応じてコインではなく現金でユーザに返す「キャッシュバック」を提供する予定でした。これはVitalityの世界プログラムで標準だったからです。

しかし、当時の役員(上司)から「キャッシュバックで数100円の現金をもらってもなあ。コインの方が貯められるから面白いしワクワクするんじゃないか?仮想通貨作れないか(笑)」という提案を受け、当時流行っていた仮想通貨を検討しましたが、税制面とか辛く、Vitality コインという独自のポイント制度を導入することになりました。

これは、エフェクチュエーション的な思考であり、ピポットという考え方に基づいた判断だといえます。既存の資源(キャッシュバック)にとらわれず、新たな手段(Vitality コイン)を取り入れることで、ユーザーにとってより魅力的なサービスを提供することができました。

②Vitality フレンドの導入

Vitality では、当初、加入者が個人で運動に取り組むことを想定していました。しかし、実際には夫婦や家族、友人同士で運動する加入者が多いことが判明しました。このような状況を受け、Vitality フレンド機能が導入されました。

これは、エフェクチュエーションの「柔軟性と適応力」という考え方を反映しています。当初の想定とは異なる利用実態を柔軟に受け止め、ユーザーのニーズに合わせて新たな機能を追加することで、サービスの価値を高めることができました。

③ペース設定機能の開発

Vitality では、加入者自身が運動メニューを決められないという課題が浮上しました。この課題に対応するため、ペース設定機能(1週間の運動メニューをアプリが提案してくれてユーザーが選ぶ)が開発されました。

これもエフェクチュエーションのピポット的思考を体現しています。ユーザーの抱える問題を理解し、その問題を解決するための新たな機能を開発することで、サービスの価値を向上させることができました。

まとめ

Vitality の開発過程には、エフェクチュエーションの考え方が随所に反映されています。Vitality コインの誕生、Vitality フレンドの導入、ペース設定機能の開発など、具体的な事例からその関係性を読み取ることができます。

これらの事例に共通しているのは、既存の枠にとらわれず、ユーザーのニーズや利用実態に柔軟に適応し、新たな価値を創造しようとする姿勢です。エフェクチュエーションの思考法は、保険業界に限らず、様々な分野でイノベーションを生み出すための重要な鍵となるでしょう。Vitality の取り組みは、エフェクチュエーションを実践し、新たな価値を創造する事例として、示唆を与えてくれています。

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