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どうする団塊ジュニア世代(#17)<慶喜殿と4人>


introduction

敗戦後の第一次ベビーブームにより誕生した世代は「団塊世代」と呼ばれ、戦後日本の復興に大きな影響を与えました。

私は戦後日本を早急に復興せさるため、何者かが恣意的に第一次ベビーブーマーを団塊化させたのではと推察します。

あくまで個人的な見解ですので、ホラ話と思って読んで下さい。

徳川慶喜

時は遡り1946年 大日本生命館にて
(完全にフィクションであり、実在の人物や団体などとは関係ありません)

新憲法草案作成の期限まで「あと6日」

新憲法の草案を10日で作成するという無理難題を押し付けられた加藤法制局部長は、GHQから新憲法作成を託された素人集団MSKの最年少シロータに寝る間を惜しんで「明治維新」について説明している。

加藤の「明治維新論」は前回、前々回で紹介。

加藤の説明を一通り聞いたシロータは、一人の人物に関心を持った。
「私が学んだ革命などによる政権交代は、為政者の悪政に対しての打倒がほとんどなんだけど、徳川慶喜には悪いイメージが無いんだよね」

既にシロータと意気投合している加藤は彼女の言わんとしていることが、よく分かる。
「歴史は勝者が敗者を貶めて記録に残すものだけど、確かに慶喜にはそんな印象はないですね」

「そうそう米森のおっちゃんも言ってた。歴史は勝者が自分の都合がいいように盛りまくるんだよね」
勝手に師匠と仰ぐ日比谷図書館で出会った初老の紳士の話を引き合いに出して、シロータは答える。

そこで加藤は思いついたように小さな声で呟いた。

「慶喜は将軍になりたくなかった。」

少し驚いたシロータを尻目に加藤に慶喜について話しだす。
「慶喜は一度、次期将軍職の争いに敗れてます。」
「当時、慶喜は強烈な尊皇攘夷思想を持つ父親の影響を受け、攘夷派の旗頭として開国派と争っていました。」

「政権抗争で敗れたんだね」
ここ数日、この手の話漬けのシロータは既に話を飲み込んでいる。

「敗れたどころではありません。慶喜の父親は政権から永久追放され、慶喜自身も謹慎を命じられました。」
「他にも尊皇攘夷派だった大名は隠居させられ、影響の大きかった藩士の殆どが処刑。その中には有名な長州藩の吉田松陰もいます。」

「粛清のレベルだね」
古今東西の政治抗争の顛末を学んだのシロータは、まあそうなるよね的な感じだ。

「安政の大獄です」
加藤は噛み締めるように答えた。

「何故、慶喜は復帰したのですか?」
政敵を政権の中枢に据える感覚が、シロータにはイマイチ理解出来ない。

「そこが幕末の複雑なところなんですが、結局は全員、敵でも味方でも無いと思います。」
加藤の言葉は意味ありげだ。
「イメージ的には親戚同士という感覚ですかね。」
「江戸幕府が開府して260年も経過してしまうと、本当の敵は淘汰されて武士達は良い意味でも悪い意味でも親族のような集合体になってしまいました。」
「それが幕末の幕藩体制です。」

「なるほど、仲が良い親戚もいれば、疎遠な親戚もいる。しかし、葬儀等があると何と無く足並みを揃える。そこには敵も味方も無いかもね」
シロータは加藤の例え話に合わせる。

及第点の例えに複雑な表情な加藤は、説明を次に進めた。
「安政の大獄後、行き過ぎた粛清の代償として井伊大老が暗殺されます。」
「そこに慶喜を推していた島津家が巻き返しを図り、過激な言動により足かせとなっていた父親も亡くなったことから慶喜は将軍就任を妨げた年下のライバルを後見するために復帰します。」

「ライバルの風下につくのは屈辱ですよね」
シロータは一般的な感情論を述べるも、加藤は首を横にふる。

「慶喜は元々将軍になりたくなかった。」
「そして後見職も敗戦処理役程度にしか思ってなかった。」
加藤は冷めた目をして推察した。
「成り行きで徳川15代将軍となりますが、神君家康公の生まれかわりと言われた青年将軍には、幕藩体制の終焉は見えていた」

「それで大政奉還なんだね」
シロータは自分の中で何かを結論づけた。

慶喜殿と4人

「大政奉還にはキッカケがあります。」
加藤はシロータの結論付けを遮る。
「キングメーカーの自負がある島津藩の国父:島津久光は四侯会議なる機関を設置しました。」

「雄藩連合で政権を運営しようっていう会議だよね。」
先ほど加藤が話した明治維新のレクチャーについてシロータが確認した。

「その通りです。」
「この四侯会議のメンバーと議題について、先ほどのレクチャーも踏まえて何か気が付いたことはありますか?」
加藤は先生口調でシロータに問いかける。

暫しの時間の後、シロータは閃き顔で話し出した。
「四侯会議のメンバーって、島津以外は安政の大獄で隠居させられた大名です。また彼らは攘夷派だったのに開国について話あってます。」

「エクセレント!!」
加藤は最大限の賛辞を彼女に送り、解説を始める。
「異国嫌いの先帝が崩御されて攘夷を唱える大義は無くなったことと、結局、慶喜推進派が実権を握ったということなんです。」
更に加藤は自らの推察を付け加えた。
「この会議で、頭脳明晰な慶喜は何かを察したと考えられます。」

「それは何?」
シロータも尋ねずにはいられない。

「鎌倉殿の13人」

加藤がぼそっと発した言葉に、シロータは呆気にとられる。
加藤は時折、突拍子の無いことを口走る。
いつもの飛躍し過ぎた展開は、本当に勘弁して欲しいとばかりに再度、尋ねなおす。
「それも何?」

加藤は落ち着いて説明し出す。
その空気の読めなさは加藤の数少ない弱点だ。
「鎌倉幕府を開いた源頼朝公の死後、北条家を中心とした有力御家人13名が合議により政権を運営することになりました。」
「慶喜はそれと雄藩連合を重ね、今後は自分が外されると察した」

「それで鎌倉殿のナントカと・・・」「最初からそう言って下さい」
迷惑そうにシロータは言い返し、更に尋ねる。
「慶喜は四侯会議をどのように乗り切ったのですか」

予想外のシロータからのダメ出しに、慣れない加藤は少し変になる。
「慶喜は自分の意見を通そうと、とにかく粘りました。」
「そして記念撮影会などを実施して、なぜか時間を稼ぎました。」
「呆れた雄藩の実力者は、1人、また1人と欠席し出しました。」
「最後は徹夜会議を実行して粘り勝ちしました。」

加藤も寝不足で変になったと感じるも粘って聞き返す。
「それも何?」

「多分、雄藩連合の思惑は慶喜にはお見通しと感じたと同時に、鎌倉殿のような傀儡は難しいことを確認したのでしょう」
加藤はマイペースを崩さない。
「四侯会議は慶喜の勝利で終了します。」
そして私見を加える。
「聡明で実直な慶喜は、正攻法による完全勝利を選択しましたが、もし老獪な家康なら痛み分けを選んだと思います。」

「なぜ?」
問いかけるシロータに被せるように加藤は結論付ける。
「家康ならトドメの刺しどころを心得ていたはずです。」
「関ヶ原の合戦後に毛利家に対して行ったように」

格好よく決めたつもりの加藤をよそにシロータは苛ついている。
「で、大政奉還はどうなるんですか?」

その話は次回で。
<続く>

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