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泣きたくなるような優しい音がする 〜炭治郎のこと〜

※原作ネタバレあります


鬼滅の刃の炭治郎が好きだ。

アニメの鬼滅の刃は国民的コンテンツであり、原作よりもエンタメに特化している印象があるので、ここでは原作の炭治郎について話をしたい。

炭治郎は心が美しいニューヒーローだ。今までの少年漫画に彼のような主人公はいなかった。
鬼のやったことは許さない彼だが、鬼退治の最後は鬼に寄り添い、その死を悼む。
彼の鬼退治の旅は、鎮魂の旅だ。
彼と関わった鬼だけが過去の自分を思い出している。記憶を無くしている鬼で、炭治郎以外の人間が退治した鬼は、人間だった頃の自分を思い出さない。
炭治郎は鬼たちの心の底にあった罪悪感や後悔や美しい感情を想起させる存在だ。
また、鬼側だけではなく、死んだ仲間や戦えない仲間、色んな人間たちの願いを背負っている。
彼は最初は自分の個人的な理由で鬼を退治していたが、段々と彼個人のエゴは薄くなっていく。人間離れした、清らかな存在となっていく。
それとともに、次第に儚さを身にまとうようになっていく。
炭治郎が儚い、というセリフは一切出てこないのだが、作者自身が段々と彼を儚く透明な存在として描いていっていることは、作画から伝わってくる。
彼はどんどん透明になり、ついに自分の命を使い切ってしまう。
最後はなんとか生き延びるが、体力も落ち、片腕と片目は使えない。
そして自分の寿命がもう長くないことを自覚している。
子供も読む漫画であるので、炭治郎が短命であったことは直接言及されていないが、ちゃんと読めばわかるように描かれている。
自分が逝った後、みんなが困らないように、幸せであるように、そんなことばかり考えている炭治郎を思うとなんとも言えない気持ちになる。
人々の祈りを一身に受け、鬼となった人々の魂を鎮めた聖なる人炭治郎だが、最終決戦の後はその短い生涯を家族のような仲間たちと楽しく穏やかに過ごしたのだろう。
無限列車で彼の心の核に触れた青年のように、炭治郎はこれからも読者の心を洗い清めていくのだろう。
炭治郎の清らかな魂、短くても悔いなく生き切った人生、その儚い美しさを思うと、少し泣いてしまうのだ。






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