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北野武監督「首」/美しい男・光秀

「首」の初見レビュー②です。
①を読まなくてもわかる仕様になっています
がっつりネタバレするので注意⚠️


⚠️追記:今日(11月29日)、2回目を観てきました。初回の感想は勘違いや記憶違いがいくつかあり、間違った部分だけ取り消し線を引いておきます。最後に2回目の感想のリンクを貼っておくので、よかったら読んでみてください。(追記ここまで)


さて、「首」は戦国武将たちの男色にもメスを入れていると聞いて、観に行く前驚いた。さすが北野武だ。歴史オタクには常識だったとはいえ、戦国時代の男色を映画で描くなんて、結構すごいことだ。
信長と蘭丸か?程度に考えていたのだが、さすが北野武、本能寺に至る重要なプロセスとして、男三人の三角関係と痴情のもつれがあるとは恐れ入った。しかもメンバーが信長、光秀、村重である。これにはひっくり返った。
そしてこの三角関係、頂点にいるのは信長かと思いきや、光秀である。皆さんが明智光秀にどんなイメージを持っているのかはわからないが、西島秀俊が演じる「首」の明智光秀は、美しく気骨のある男として描かれている。西島秀俊の演技プランによってそうなったのかもしれない、とインタビュー等を見て想像している。
信長と村重は美しい光秀に魅かれている。この3人は男同士で性愛混みで結びついている。
信長は村重を寵愛しており、この2人は当然寝ている。村重はかつて信長に身も心も捧げた、とハッキリ言っている。一方で村重は光秀とも関係を持っている。作中で光秀と村重のベッドシーンがあるので、これは憶測でもなんでもない。光秀は村重に「俺はお前ひとすじだ」と言っている。こう言ってはなんだが、おじさん2人のベッドシーンは特に色っぽくもなく描かれており、ヘンテコで不思議な気持ちになる。そして愛を囁きあう2人は滑稽である。
美しいBLを期待すると肩すかしをくらうと思う。
光秀は信長と寝ていたのか、この辺が一回観ただけではよくわからなかった。
信長は光秀を手に入れたくて、光秀の目の前でわざと蘭丸を抱いたりする。光秀は内心嫉妬してはらわたが煮え繰り返っており、その日の夜に蘭丸に見立てた罪もない人間を斬り殺しているのだが、そんな感情は信長には見せない。
また、信長の特徴として、愛してほしい人間に暴力を振るうというものがある。試し行為なのだろう。信長はスターリンのように人間不信で孤独な独裁者である。

信長は村重の口に刀で刺した饅頭を入れて食べさせる。村重が死を覚悟で饅頭を食べると、可愛いやつだ、と感激して村重を抱きしめ、血だらけの村重の口にキスをする。村重は嬉しそうである。SとMの関係である。しかしその後、自分への待遇を不満に感じた村重は、信長を裏切って反逆してしまう。村重からすれば、裏切られたのは自分であり、あんなに尽くして愛してきたのに、自分を捨てたのか、という思いである。簡単に言うと痴情のもつれである。
性愛こみで愛していたからこそ、破局してそれが憎しみに変わることもあるだろう、そういったドロドロした感情が戦国武将にはあったはずだ、という監督の解釈にはうなってしまう。実際の信長と村重がそうだったのかは置いておいて、確かにそういうことはあるだろう、と思う。

さて、それをずっと見てきたのが光秀である。信長に簡単になびいても不幸になる、と思っていたかもしれないし、信長よりも優位に立つために体を許さなかったのかもしれない。その辺の光秀の感情はわからない。信長は光秀を気に入っていて、手に入れたくて、すぐ暴力を振るう。しかし光秀はやられっぱなしではあるが、決してひるんではいない。恐れられている信長に堂々と意見をするのは光秀だけなのである。俺は信長に愛されている、という自信があるのだと思う。「お館様の暴力は愛情表現のようなものですから」と秀吉に語るシーンがある。
光秀はその辺の身分の低い人間を捕まえさせて、縛り上げて毎晩斬り殺している。銃で撃ち殺す日もある。信長に見立てて殺しているのだ。
光秀は気位が高く、尾張弁丸出しの田舎侍の信長をどこか馬鹿にしている。それと同時に畏怖し、慕っている。自分に暴力を振るい、目の前で他の男を抱いて見せつけてくる信長に強い憎しみも抱いている。性愛の対象として見ているからこのように複雑で強い感情を抱くのだと思われる。
光秀は裏切り者の村重を見つけるが、信長に差し出したりその場で殺すことが出来ず、自分の城にかくまってしまう。恋人だからだ。
光秀を主君と慕う部下の斎藤利三はそれを苦々しく思う。
村重はかつての信長との蜜月を忌々しく語り、俺にはお前だけだと光秀にべたべたする。信長に惚れてるんだろうと嫉妬もする。村重はいまや罪人で後ろ盾もない。光秀に捨てられたら終わりだ。しがみつくしかないのだ。かつての村重からはほど遠いその姿を、光秀はだんだんと憎むようになる。だがその内面の変化は、あるシーンまで一切描かれない。
ある時光秀は信長を怒らせ、信長は宣教師に光秀の首を斬れと刃物を渡す。いよいよ殺される、という段階になって光秀は「お慕いしておりました」とぼそりと言う。信長は感激して光秀に抱きつく。光秀は放心状態である。キスをしようとする。光秀はそれを嫌そうによける。
秀吉は、「あの三人をつつけば何か出てくるぞ」というスタンスである。
彼は衆道など興味ないので、三人をハメるいいネタだくらいにしか思っていないのである。
秀吉は密かに手に入れた、信長が息子に送った書状を見せ、その内容に光秀は激怒する。
俺より息子が大事なのか、息子に家督を譲ったあとは俺を討ってよいと書いてあるではないか、ということである。これも痴情のもつれである。
光秀はもともと相反する強い思いを信長に抱いているのだ。それが憎しみに振りきれた瞬間である。
光秀は信長を討つことを決意し、村重を口封じのために殺してしまう。
切腹でもなく首を斬るわけでもない。檻に閉じ込めて崖の上から落とすという、非常に残虐な方法をとっている。かつて愛した村重のことを、実は段々と憎むようになったという事がここでわかる。
光秀が最後に村重にかける言葉と表情が怖い。「侍の契りなんかより、天下はずっと重いものなんだ」とにっこり微笑みながら言う。この光秀がいい笑顔をするときはいつも怖いセリフをいう時である。彼の内面の狂気を示している。普段理知的で常識的に見えるので、狂気が際立つ。
以上がこの三角関係の顛末である。
痴情のもつれや男同士の愛憎のドロドロを、うまく利用したのが秀吉である、という解釈で映画は進んでいく。
西島秀俊がとにかくいい。美しく高潔で、だがそれだけではない豪胆さもある。彼の演技プランによって「首」の光秀はあのような人物になったのだと思う。彼でなければ、もっと情けない光秀だったのではないか、と思う。アクションもいける俳優なので、人の斬り方も鮮やかだし、信長から暴力を受けるシーンもとてもうまい。
光秀の最期、茂助とのシーンもとても良い。茂助演じる中村獅童も素晴らしいので、ぜひ観ていただきたいと思う。


⬇️2回目の感想です。よかったら読んでみてください。

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