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電話越しのあいつに

ちょうど3年前の話になる。
受話器の向こうのあいつは、その日、6日前に13歳になった。
俺が電話をかけると、あいさつもそこそこに、「悲しいお知らせがあります」とあいつの方から言ってきた。「誕生日パーティ、なかった。プレゼントもケーキも」
そりゃ不運だったな、と笑ってやった。
しょうがないから、桃太郎を話してやることにした。
「聞きたいか?」
「別に聞きたくない」
断られたが、話し始めた。
緑の公衆電話の上に10円玉を山にした。


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こりゃ、最近の話だ。
金中(金潮中学校のこと)の近くにな、ばばあとじじいが住んでたんだよ。

ーー(笑)

ばあさんは、洗濯物を持ってな、洗濯に行って、じいさんは、近所のパチンコ屋に行ったんだ。

ーーそれってコインランドリー?

そう。コインランドリーに、洗濯物を持って行ったんだな。でかいドラム式の洗濯機で、150円って激安で、乾燥までやってくれる。
ばあさんが洗濯機に洗濯物を入れてな、ちょうどお金を入れようってときに、外の道路をどんぶらこ、どんぶらこって、桃が転がってきた。

ーーどんぶらこじゃなくて、ごろごろじゃん

桃太郎は、桃が来たらどんぶらこって決まってんだよ。
でな、ばあさんはこりゃすごいってんで、洗濯物のことは放り出して、急いで道路に出た。んで、桃を拾ったわけだ。
その桃ってのが、けっこうでかい。ばあさんの身長の3分の2ぐらいある。

ーーでか

大体1mちょっとくらいだな。
とりあえず家に持って帰ると、ドアに挟まって中に入らない。まあ、とにかくちっちぇーアパートだからな。ドアの幅もちっちゃいんだよ
んで、ちょうどそのとき、パチンコで勝って、上機嫌のじいさんが帰ってきた。

ーーじいさんろくでもない人だな

いつの時代も、ダメ親父ってのはそんなもんだ。

ーー酒とか好きそう

酒とタバコが好きだ。

ーー(笑)

じいさんが言った。ばあさん、こんなもん、うちに入らねえよ。じゃまでしょうがねえ。ここで切っちまおうぜ。
そうねえ。
そんでもって、ばあさんは、台所から包丁を持ってきた。真っ二つになる桃、すると中から、赤ちゃんが出てきた。
まあ、二人の間には子どももいなかったんで、育ててやろうってんで、桃から生まれたから、桃太郎と名付けた。

ーーそこは原作どおりなんだね

じゃなきゃ、桃太郎にならないからな。
えーーーと、桃太郎は3日で成人になった。

ーーはや

『竹取物語』方式だな。

ーー今、ぜったい適当に思いついたでしょ。えーとが長かった

さて! えー、成人になった桃太郎は、じいさんとばあさんに突然こう言います。
おじいさん。おばあさん。ぼくはこれから、近所の悪いヤンキーをやっつけて来ます。

ーーなんかしょぼいな

現代に鬼はいないからしょうがねえだろ。この辺でこらしめるやつと言ったら、ヤンキーぐらいしかいないんだよ。

ーー平和なんだね

まあな。現代に桃太郎はいらん。

ーー(笑)

まあ、というわけで、桃太郎は仲間を探しに行くんだよ。
おばあさん。仲間を連れていくために、きび団子を作ってください。と、桃太郎はお願いした。近所のスーパーに買い出しに行くばあさん。しかし、きびは売ってない。

ーーだろうね

仕方なく、白玉粉を買ってきて、白玉を作った。で、白玉を風呂敷で包んで、桃太郎に渡すと。

ーーなんか衛生的によくない気がするけど

動物に食わせるんだからいいだろ。

ーーそうかなあ

そんで、桃太郎は近所に仲間を探しに行く。
しかし、近所にキジはいない。猿もいない。犬は、まあいる。
とりあえず、近所のおばさんが散歩させてたペットの犬に声をかけた。
この白玉を1個あげるから、いっしょにヤンキーを倒しに行こう。

ーーけちだな。というか、飼い主のおばさんの方に許可がいるんじゃ……

飼い主のおばさんにも白玉を1つあげた。

ーー白玉配りの不審者だ

こうして、近所のおばさんのペットの犬が快く仲間になった。
で、キジはいないので、代わりにカラスを仲間にすることにした。
白玉をあげると、カラスも仲間になった。
で、猿はいないので、代わりにその辺にいた小学生を仲間にすることにした。

ーーひどっ

白玉をあげると、小学生も仲間になった。

ーーぜったい小学生、ヤンキーとけんかするのに役に立たないでしょ。ていうか、動物しか食べないから衛生的によくなくてもいいって言ってたのに、思いっきり人も食べてるじゃん

まあ、そういうこともある。腹壊さなきゃ大丈夫だ。
そして、ついに、桃太郎は金属バットを手に、金中ヤンキーの根城に乗り込んだ。敵の数なんと50人。

ーー桃太郎も武器ヤンキーじゃん……。絶対勝ち目ないって

まず、先陣を切ったのはカラス。仲間のカラス、100羽を引き連れて、ヤンキーに襲いかかる。
小学生は役に立たず。入り口で震えて座ってたんだな。
犬は、ヤンキーの足に噛みつき、1人ずつ地面に倒していく。
倒れたヤンキーを桃太郎がバットで殴る。

ーーなんか桃太郎のやり口が一番汚い……

英雄と悪魔は紙一重じゃ。
で、激闘の末、ヤンキーは降参。今までカツアゲやら万引きやらで稼いだお金を桃太郎に渡した。その額20万。
桃太郎は、手に入れた20万円を手に、じいさんとばあさんのところへ帰った。
めでたしめでたし。

ーーそしてそのお金は、パチンコ代に消えていったと

あと、酒代とタバコ代な。

ーーぜんぜんめでたくない(笑)

昔話なんてそんなもんだ。


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その後、俺はあいつとたわいもない話をして、笑った。
今度また話そうと約束した。
そして、受話器を置くと、電話は切れた。

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