【小説】コーラ雨

 てろてろのTシャツにジーンズ姿のYKNKは、すらりと背の高い、小綺麗な、白っぽい、仕立ての良いワンピースを着た女とふたり歩いていた。明るい不倫がしたい、そう吐き捨てるように、その辺に転がっていた、そのコーラの空き缶を蹴り上げた。
 サンダルの足の甲がコーラに濡れた。それはYKNKの涙だったかもしれない。

 白痴Mは振り返ると、そこにはYKNKが、背の高い女と道行くのが見えた。気づかれないことには慣れていた。むしろ望んでいた。だが彼はその瞬間、視界のすべてのものからも気づかれていないような気になって、泣いた。

 それはコーラだった。コーラの雨が街に降りしきる。彼らはそっと傘をさした。彼らは知らなかった。その瞬間、視界外れの無数の人々が、鮮やかなグレープ模様の傘に見惚れて、ファンタ味の吐息を漏らしていたのを。止まない雨はないのだ。


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