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世界最大のEC!? Walmartの事業開発戦略大解剖

こんにちは。Z Venture Capitalでコマース領域を担当している内丸です!
普段からコマース領域の事例研究やニュースについて発信しております。

今回は誰しもが一度は名前を聞いたことがある「Walmart」を取り上げます。

なぜ今Walmartなのか?
Walmart はもともとAmazonから大きく後れをとっていましたが、この7年で急速にキャッチアップし、ECの主役の一人となっています。
コマースの潮流を理解するためには、Walmartは今やAmazonとShopify等と同じぐらい重要な企業なのです。

EC事業が一気に立ち上がったこの7年間のM&A・出資事例を見ることで、Walmartの事業開発戦略を大解剖していきます!

Walmartの躍進

創業者 サム・ウォルトマンが1962年に第1号店をオープンしてから60年、Walmartは世界最大の企業となりました。
Foruneが毎年発表している企業の売上ランキングにおいてWalmartは堂々の1位(2022年度)。そして、Walmartは9年連続で1位を維持しているのです。
文字通り世界最大の企業です。

Fortune Global 500 (2022)

リアル店舗のイメージが強いWalmartですが、ECの売上は既に 820億ドル(2023年度)と日本のEC市場規模(物販系B2Cのみ)と同水準です。
USにおけるWalmartのECシェアは5.3%(2020年)とAmazonに次いで第2位、まだまだAmazonの背中は遠いですが確実にそのシェア差を埋めつつあります

USにおけるECシェア(2020)

EC業界の中心的な存在になりつつWalmartですが、これまで順調に成長してきたのでしょうか?
ローマは一日にして成らず。
幾多の失敗と試行錯誤の末に、今の姿に行きついているのです。

次章からは、この7年間のWalmartのM&A・出資事例を研究し、Walmartの進化の軌跡と未来を考察していきます。

Walmartの事業開発戦略:8つのポイント

Walmartの事業開発戦略を理解するためには8つのポイントがあります。

①EC事業の立ち上げ
②ロジスティクスの整備
③データ活用体制の構築
④広告事業の強化
⑤インド市場の強化
⑥フィンテック事業の強化
⑦新しい顧客体験の追求
⑧ヘルスケア事業の強化

「8つもあるのか!?」と思ったかもしれませんが、大丈夫です。
大半が「①EC事業の立ち上げ」を起点にしており、ここだけおさえれば簡単に理解できます。

①EC事業の立ち上げ(2016~2018年)

EC事業の本格的な立ち上げ。ここからWalmartの7年間の冒険が始まります。

そもそもWalmartはいつからECに取り組んでいたのでしょうか?
Walmartの社史を紐解くと2000年にWalmart.comを立ち上げて、ECに参入しています。しかし、その後15年間でAmazonに対して大きな後れを取ることになります。

その中で、2014年にダグ・マクミロンが5代目CEOに就任したことが大きな転換点でした。
就任直後の投資家向け年次総会では「店舗向けの投資を抑制し、ECへの投資を加速する」ことを宣言します。

2016年にはシリアルアントレプレナーであるマーク・ロリー率いるJet.comを33億ドルの巨額で買収し、マーク・ロリーはそのままWalmart全体のEC責任者に就任します。

そして、2017年から2018年にかけてModcloth/ Shoebuy/ Bonobos等、計7社ものD2Cブランドを買収し、EC事業の立ち上げに注力していきます。

買収したD2Cブランドの全ては後に売却し、Jet.comは2020年に事業停止しますが、このとき獲得したマーク・ロリーは2021年までWalmartのEC責任者を務め、同社のEC事業の急成長を支えました。
買収した事業自体は上手くいきませんでしたが、Jet.comの巨額買収こそがWalmartのEC事業を躍進のターニングポイントだったのです。

②ロジスティクスの整備(2017年~)

言わずもがなECとロジスティクスと不可分です。
Walmartは、EC事業の立ち上げの直後から今に至るまでロジスティクス領域に積極投資を続けています。

特に、ラストワンマイルソリューションを提供する会社は、2017年から2022年まで継続的に投資をしています。
配送網や人員を抱えるParcel、JoyRun/、Delivery Drivers等をM&Aにより傘下に加えていきます。
一方、ラストワンマイルについて先進的な取り組みを行っているスタートアップには、出資という形でも提携を進めています。
2021年には、顧客の冷蔵庫まで直接商品を届けるサービス(!?)を開始するためにスマートロックを提供するLevel Home、自動運転ソリューションのCruise、ドローン配送のDroneUpに出資します。

ラストワンマイルだけではありません。
2022年には、倉庫自動化のためのロボット技術を持つSymboticとAlert Innovation、ベンダーによる店頭在庫管理を支援するVolt SystemsをM&Aにより傘下に加えていきます。

③データ活用体制の構築(2018~2019年)

リアル店舗からオンラインへと主戦場が変わるとますますデータ活用の重要性が増します。
Walmartも例に洩れずEC立ち上げ直後にデータ活用体制の構築を急ぎます。
2018年から2019年にかけて小規模なAI・データ分析系スタートアップであるAppsfly、int.AI、Aspectiva、DataturksのM&Aを行います。
これらはいずれもデータ活用体制を構築するためのアクハイアリングだと考えられます。

アクハイアリング以外にも、2018年には顧客データの連携・分析を可能にするサイバーセキュリティスタートアップであるTeam8に出資しています。

④広告事業の強化(2019~2021年)

Amazonの広告事業は今やEC、AWSに次ぐ第三の事業の柱となっているほど巨大であることはご存知でしょうか?
Amazonの広告事業の売上は2021年には310億ドルとなり、Youtubeの広告売上 288億ドルを超える規模となっているのです
大量の顧客購買データを持つECは、広告事業と凄く相性が良いのは直感的にも理解できるかと思います。

Walmartも長らく広告事業はパートナーであるTriadを活用して取り組んできましたが、ECの立ち上げに伴い、外部へ依存することを止めて内製化していきます。
2019年には、デジタル広告のプラットフォームであるPolymorph、2021年には広告の自動最適化技術を持つThunder IndustriesのM&Aも行います。
2021年1月には、デジタル広告関連部署を「Walmart Connect」として再編し、以降成長し続けております

⑤インド市場の強化(2018年~)

Walmartは昔から海外進出を積極的に行ってきましたが、成功したと言える事例は少なく、特にEC領域ではAmazon等の後塵を拝するばかりでした。

その中で、Amazonを差し置いてインドでトップシェアを持つFlipkartの買収という大きなチャンスが舞い込んできます。
WalmartはAmazonと競りつつも160億ドルという巨額を投じて、FlipkartのM&Aを成功させます。
この大きな投資を意思決定できたのは、2016年にJet.comを買収しマーク・ロリーというキーマンを獲得できたからだと考えています。
現に、Flipkartの買収にあたってはマーク・ロリーが大きな役割を果たしたとのことです。

Flipkartを獲得したことで、ユニコーン級のスタートアップへ投資していきます。2021年にはネットスーパーのNinjacart、2023年にはフィンテックのPhonePeへの出資を行い、その体制を盤石なものにしようとしています。

⑥フィンテック事業の強化(2021年~)

多くの小売業と同じように、Walmartは2005年から金融機関と提携することでクレジットカード等のフィンテック事業を展開してきました。
その中で、EC事業の立ち上がりとともに、フィンテック事業の取り組みを強化していきます。

2021年にはRibbit CapitalとともにHazel by Walmartという新しいFinTechスタートアップを立ち上げます。そして、Goldman Sachsのシニアバンカーを2人引き抜き、トップに据えます。Hazel by Walmartは翌年2022年にモバイルアプリのネオバンクであるOne Finance、給与前借り融資を提供するEven Responsible Financeを買収しました。

また、2023年5月にはメキシコの電子決済ソリューションを提供するTrafalgarを買収し、直近でもアクティブにフィンテック領域の開発を行っています。

⑦新しい顧客体験の追求(2019年~)

2019年には番組配信アプリのEkoへ出資、2021年にはバーチャル試着のZeekitと会話型コマースのBotmockの買収を行い、新しい顧客の購買体験を追求し続けています。

⑧ヘルスケア事業の強化(2019年~)

ここまで語ったきた「EC事業の立ち上がり」とは全くの別軸から、Walmartはヘルスケア領域も強化していきます。

2018年にAmazonが10億ドルでオンライン薬局のPillpackで買収し、ヘルスケア領域に本格参入したことは大きな話題となりました。
Walmartは以前から店舗併設の薬局販売等のヘルスケア事業に取り組んでいましたが、Amazonから後れをとらないように追随していきます。

2019年にWalmartはヘルスケア事業として「Walmart Health」を立ち上げを行い、2019年9月にはWalmartの店舗に隣接するヘルスセンター(簡易診療所)を開設します。

2020年にはオンライン薬局ケアゾーン(CareZone)の処方箋管理テクノロジーと関連する特許権を取得し、2021年にはオンライン診療を提供するMeMDをM&Aすることで、ヘルスケア領域を更に強化していきます。

今後はどうなるのか

2016年頃からEC事業に注力して以降のWalmartの事業開発戦略を見てきました。怒涛のM&A・出資によって、一気にオンライン領域のサービスを拡充していったことがわかったと思います。
世界最大規模のリアル店舗とECの両方持つ「唯一無二のオムニチャネルネットワーク」を構築しつつあります。
今後も変わらず、リアル店舗とECの購買体験をより強化し、シームレスに繋げる領域へ投資を行っていくと思われます。

特に、2023年の投資家向け年次総会では、「2026年度末には、Walmart店舗の約65%、フルフィルメントセンターの約55%を自動化する」と発表されています。
店舗・ロジスティクスに限らず、「オートメーション(自動化)」は今後のWalmartの事業開発のキーワードになるかもしれません。

また、M&Aや出資は行っていないもののWalmartは新しい購買体験を常に模索しています。いくつか興味深い動きを見せているので、紹介します。
メタバース・ソーシャルコマース・生成AIも今後Walmartにとって重要なテーマになる可能性があります。

メタバース

22年9月にWalmartは、Robloxのメタバース上で「Walmart Land」と「Walmart Universe of Play」の2つの空間を発表しました。

「Walmart Land」では、アバター向けのバーチャルストアやインタラクティブな音楽フェス・DJブース等を体験できます。

Walmart Land

一方で、「Walmart Universe of Play」はオモチャをテーマにした空間であり、オモチャの探索をしたり、ジュラシックワールドをテーマにしたゲームを体験することができます。

Walmart Universe of Play

「Walmart Universe of Play」は半年後に未成年プライバシー問題で閉鎖にされますが、WalmartはRobloxと今後も新しいコンテンツを作ることを発表しています。

ソーシャルコマース

Walmartはソーシャルコマースの取り組みも拡大しております。

2022年10月にはクリエイターが自由にWalmartの商品を販売するためのプラットフォームである「Walmart Creator」を立ち上げ、同年12月にはSNSとWalmartのECを写真で繋ぐ「TrendGetter」も発表します。

TrendGetter

ライブコマースの領域では、矢継ぎ早に事業提携を発表していきます。
2020年にはTikTok2021年にはTalkshoplive2022年にはFireworkと提携することで、ライブコマースを検証し続けています。

生成AI

今まさに大いに盛り上がりを見せている生成AIについて、「モバイルと同じぐらい大きなシフト」であるとWalmartの新興技術担当副社長デシレ・ゴスビーは語っています
具体的な取り組みは明らかにされていませんが、GPT-4をベースとした会話型コマース体験を準備中とのことです。

Walmartは2022年12月にチャットベースで購買体験ができる「Text to Shop」の機能をリリースしており、GPT-4を使ってこの機能を更にアップデートしていくと考えられます。

Text to Shop

おわりに

いかがだったでしょうか?
試行錯誤を繰り返しつつ、たった7年でWalmartはコマース領域の最先端まで駆け上がっております。
Amazonを一強の時代を終わらせるのはWalmartなのかもしれません。
今後もWalmartの動向には注視していきたいと思います!

最後になりましたが、
ZVCは積極的にコマース領域へのスタートアップへ投資しておりますので、この領域でチャレンジしたい・している起業家がいましたら、是非ともディスカッションさせて下さい。
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