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白紙のnoteを持って

その日、俺は酒場のカウンターで目覚めた。意識の覚醒と共に違和感が湧き上がる。この状況は、おかしい。何故なら俺は酒場に来た憶えは無いしそんな予定も無い。そもそも俺は下戸だ。


「いらっしゃい」
驚いて声の主を探す。カウンター越しに壮年の男性が立っていた。店員、いや店主だろうか?


「あ、あの」
「兄さん、見ない顔だな。まぁこの時期にウチに来るってことは、目的はこれだろう?」
依然困惑する俺をよそに勝手に得心した様子で店主が指を鳴らすと、信じられない事が起こった。

俺の目の前、何も無かった筈の空間にいくつもの映像が映し出されたのだ!
夢かVR映像かと顔中を手探る滑稽な姿をしばし晒した後に幾ばくかの落着きを得て、視線は自然と映像の内容へと向かう。
それは、何らかの作品群だった。一見してジャンルも嗜好もバラバラだが、
共通項があるとすれば"冒頭部分で終わってしまう"ことだろう。様々な物語が現れて、その後をほのめかしては消えていく。


「す、すみません。これ、続きは――」
つい口から出た言葉は、しかし誰にも受け止められることは無かった。


「弾数は5発。材料、構造、製法いずれも問わず。ただし火薬の量は800。それがこのメキシコの決まりだ」

脈絡の無い店主の発言、だが一つだけ脳裏を掠める言葉があった。メキシコ。その単語が急激に俺の記憶を掘り起こしてゆく。


パルプ、CORONA、小説、note、スリンガー、招待状、冷――


「いらっしゃい」


背後から突然の声。俺と店主以外の誰かが、居る。
直接の声の主は真後ろの一人のようだが、その背後からは更に複数人の視線も感じた。


「おや、お友達かい?」
「……ええ。いってきます」
わざとらしく陽気な声で店主が問いかけるものだから、少し強がってしまった。だがこの地に来た目的を思い出した俺は、振り向かずに席を立ち、店主に軽く会釈をして店の出口へと向かう。

外に広がるのは、音に聞いたメキシコの荒野である。

【続く】

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