見出し画像

足ズームは邪道

よく、「ズームレンズを使わず足を使え」という言葉がある。
いわゆる足ズームというやつで、「横着して動かず、ズームするだけのフレーミングはするな、単焦点レンズで足を使ってフレーミングしろ」という教えである。これは、初心者ではない者が行うようなことではない。なぜなら、足ズームを実用してしまうと写真がメチャクチャになってしまうからだ。

●遠近感はレンズの焦点距離で決まるか

「遠近感はレンズの焦点距離で決まる」ということを書いている写真解説書を時々見る。望遠レンズを使うと遠近感が圧縮され、広角レンズを使うと遠近感が強調されるというのだ。これは本当だろうか。

下に2枚の写真を掲載したが、確かに、200mmで撮ったほうは遠近感が圧縮されているように見える。17mmで撮ったほうは遠近感が強調されるような撮り方ではないものの、望遠レンズとの差は明らかである。

ところが上の17mmで撮ったほうの黄色い枠内をトリミング拡大してみると、200mmで撮った写真と同じものが得られた。それが下の写真。

分かりやすくなるように、改めて下に2つの写真を並べてみた。
これを見れば、完全に同じ写真であることが分かると思う。

これはどういうことかと言うと、200mmレンズで撮ったものも、17mmレンズで撮ったものも、どちらも同じ撮影場所から撮ったものだということである。
つまり遠近感というのは、レンズの焦点距離には全く関係無く、撮影距離だけの問題であるということなのだ。

●遠近感の本質

遠近感とは、一言で言うと「相対的な差」と言える。
2つの物体間の距離が不変であっても、それを撮影する距離によっては、2つの物体が離れて見えたり、接近して見えたりする。

例えば下の図のようにA地点とB地点の距離の差が7mあったとすると、100mくらい遠くに離れた場所から見ると7mの差はそれほど感じないが、1mくらいに近付くと7mの差は大きく見える。

遠近感は唯一、撮影距離だけで決まる。レンズの違いというのは像の拡大率の違いに過ぎない。極端に言えば、レンズの焦点距離はフレーミング調整のために選んでるわけだ。
広角レンズを使うと近くも遠くも一緒に写り込むため、遠くのものだけを拡大するには必然的に望遠レンズが使われるというだけのこと。

●本来の撮影手順とは

足ズームは、フレーミングで小さく見えれば被写体に近付き、大きく見えれば遠ざかるということをやる。それはつまり、撮影距離を変えていることに他ならない。これは、やってはならない。

本来の写真撮影のプロセスとしては、遠近感はカメラを構える前にまず最初にイメージしておかねばならない。カメラを構えて近付いたり離れたりするのは、遠近感のイメージが事前に掴めていない証拠である。

自分のイメージする遠近感はどれくらいの撮影距離なのかというのは、ある程度経験があれば無意識に分かるようになる。そしてその撮影距離を決定したらそこを動かず、適切なフレーミングができるレンズを選ぶようにする。
もちろん、条件ピッタリのレンズは無いかも知れないので、ズームレンズで象面倍率を調整するのが効率的。

下の作例ではマネキンを撮ったものだが、撮影距離が2mの場合と0.5mの場合とでは顔の遠近感に大きな違いが見られる。大抵の場合、ポートレート撮影では鼻が大きく写るような写真は嫌われるものだ。
そういう意味では、あまり近付きすぎるのは良くないというのが分かる。

だからこの場合、2mという距離を最初に決めておいたので、その位置からズームレンズを使ってフレーミングの微調整を行った。この場合は200mmである。
また、レンズが50mmしか持っていない場合であっても、撮影距離さえ動かなければ良い。トリミング拡大すれば同じ遠近感で撮れていることが分かるだろう。

もちろん、近い距離での遠近感を利用して臨場感を表現するということもできる。それは撮影者の表現思想によるが、いずれにせよ、撮影距離を事前に決めるというプロセスに変わりはない。

次に、下の写真はブツ撮りの例である。
ブツ撮りは商品を撮るものであるから、撮影距離はもっとシビアであると言える。何しろ、遠近感によって商品の形や雰囲気が変わって見えるのだ。
下の例では、30cmの距離で撮ったものは必要以上にレンズ前玉が大きく見えてしまっている。

こういうのはレタッチで修正できるのではないかと思うかも知れないが、遠近感というのは距離が変わることで見え角も変わり、見えていないところが見えてきたりするので、レタッチでは修正不可能なのだ。

●まとめ

結局のところ、「ズームレンズを使わず足を使え」というのは、あくまでも遠近感が撮影距離で変わるということを体験させるための初心者向けのアドバイスなのである。それをずっと引きずったままでいると、遠近感のコントロールがメチャクチャになり、撮影イメージが固まらなくなる。

もう一度書くが、撮影の基本としてまず最初に、遠近感を決定するために撮影位置を見極める。そしてその場所から適切なフレーミングができるレンズを選ぶ。
これは写真の根元となる原理的な問題だから、これを疎かにして、"感性"とか"フィーリング"とかで済ませてたら、いつまでたっても写真は上達しない。少なくともイメージ通りの写真に近付くのは相当苦労するんじゃないかと思う。無駄にトライ&エラーを繰り返すことになるから。基本さえ解っていれば最短距離で到達できるのことなのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?