書くための辞書まとめ

このマガジンでは同人誌の制作にも使える校正のtipsなどについてまとめています。
このノートでは2,000~5,000円で買える『書くこと』に強い、どちらかというとやわらかめの辞書を紹介しています。ちょっと長いですが、お付き合いくだされば幸いです。

リンクは公式HPやAmazonにつなげています。

●その前に、おすすめの本
国語事典の遊び方
国語事典は各社、各ブランドによって大きな特色を持っていますが、いくつも買えるような値段ではないですし場所も取ります。
ある程度の知識がないと、書店の辞書コーナーでどれを選んだら良いか分からず途方に暮れることも多いと思います。
好きな出版社で選ぶ、
あらかじめワードを決めておいて複数の辞書を開き、語釈(言葉の説明)が気に入ったものを購入する…というのも手だと思いますが、
函入りの本を時間をかけて選ぶのもちょっと…という場合、この一冊はかなり役に立ちます。
性格診断からのおすすめ辞書や、特色ある国語事典は擬人化のページもあります。

辞書マニアの人というのはぼちぼち存在しているので、この本に載っていない辞書について解説しているブログ等もあります。
四次元ことばブログ 国語辞書の購入の手引き

わたしも学生時代は家族のお古を使っていたのですが、
辞書はなるべく最新版を使ったほうが良いと思います。
ことばは生き物であり、語釈には最新の感覚が反映されているからです。
たとえば、『恋愛』という言葉をとっても、『男女の』と書いている辞書、(まれに)同性間のものも含むと書かれている辞書、
性別が限定されていないもの…があります。
編集部の方針にもよりますが、やはり最新のものほど、感覚がアップデートされていると感じられると思います。

あと単純に、辞書は各出版社が威信を賭けてつくるものなので、売れてほしい、と願っています。


ジャパンナレッジ 小学館
多少お金が掛かってもいいからWikipediaより確実なことが知りたい、
でも専門書籍を何冊も調べるお金や時間はない…というときには
ジャパンナレッジ が便利です。
辞書・事典を中心にしたデータベースで、月1,620円から利用することができます。

ひとつの単語から複数の百科事典を引くことができます。
弱点はインターネットコンテンツという特性上、調べものをしていたはずがうっかりTwitterを見たりしてしまうことですかね…。
オフラインでも使用できるという点では電子辞書が便利ですが、この記事の予算を大幅にオーバーしてしまうので…。ここでは省きます。


■新潮 現代国語辞典 新潮社

「やわらかめ」の中の堅めです。
最新のものを、と言いつつ発売日が2000年です。

けっこう前…とお思いになるかもしれませんが、この辞書はこれで良いのです。
この辞書の特徴は言葉の用例が近代の文学から採集されていることにあります。すでに評価が定まっているもの、ともいえます。
そして出典も単語ごとに明記してあります。
実際の用例を参照しつつ、文学的な確実さに重きを置いている辞書です。

文アルジャンルの方とか楽しいし役に立つと思います。


てにをは辞典 三省堂書店

「実際の用例を採集」しており、その点では上記の『新潮 現代国語事典』に近い視点から編集されているといえます。
しかしこちらは、単語を引いても語釈はありません。単語ごとの出典の明記もありません。(巻末にまとめてあります)
それらを捨てて、単語ごとに、その単語に接続する言葉をたくさん載せることに特化した個性派の辞書です。
例:いろあざやか【色鮮やか】▲な 景色。蝶。虹。▼ひときわ。目のさめるように といったぐあいです。
「これ、日本語としてちゃんと意味が通じるのかな?」と立ち止まってしまったとき、意味や語源に遡るのではなく
実際の用例からパッと検索できる辞書です。速度重視な場合の相談役として、大いに頼りになる一冊です。
用例の採集も、『新潮 現代国語事典』より現代に近いものとなっています。やわからめのやわからめ、といえます。
続編の『てにをは連想表現辞典』もおすすめです。
語釈がないので、どちらかというと二冊目の辞書向きかもしれません。


三省堂国語辞典 三省堂書店

文章を書いていると、言葉や漢字の使い方に迷う、ということがあると思います。そういうときに頼りになるのが学生用の辞書です。
三省堂からは新明解国語辞典
三省堂国語辞典が二大ブランドとして発売されています。『新解』もよく売れています。あまり規模の大きくない書店にも置いてあるはず。
ですが、より学生向けなのは『三国』こと『三省堂国語辞典』でしょうか。
…いや、『新明解国語辞典』も持ってるんです。赤瀬川源平の『新解さんの謎』も読んでいます。
※『新解さんの謎』は『新明解国語辞典』の語釈(単語の解説)や用例が面白いぞ!?ということを発見し、『新明解国語辞典』を『新解さん』と親しみを持って呼ぶ、赤瀬川源平のエッセイです。

独自の視点を持つ相談役、ちょっと変わった友人を机の上に求めるなら『新解』はおすすめですが、小説の執筆にはわたしなら『三国』を推薦します。
「生きた言葉」を捉えることに力を注いでいることが主な理由です。
『三国』は用例採集の鬼と呼ばれた見坊豪紀によって編まれ、現在の編集委員飯間浩明さんも膨大な用例の採集から、「従来誤用とされているが、よくよく探してみると誤りとされるものも古くから使われており、誤用とも言い切れない」例などを拾い上げ、それが辞書に反映されています。そういう意味で、柔軟な辞書といえます。
校閲をするときには「クレームがくるかもしれない言葉の使い方」を把握しておく必要がある場合もありますが、書き手としては「証拠をもって鷹揚に構えてくれている」相談役も頼りになると思います。
アプリ版も出ていて、個人的に愛用しています。(『新解』もアプリ版有
飯間浩明さんのTwitter
飯間浩明さんの著書『三省堂国語辞典のひみつ


明鏡国語辞典 大修館書店

『明鏡』は『ことばの映し鏡であること』を目指した国語辞典ゆえに名付けられました。かっこいいでしょ。
こちらも「生きた言葉」を捉えることに注力した辞書です。
学生向け(大修館書店は参考書などを多く出版しています)、「生きた言葉」…『三国』とは少し似たところもありますが、こちらはわりと誤用を指摘してくれるタイプです。辞書を買うと『問題なことば索引』という小冊子が付いてきます。そういう意味では『三国』とは真逆の立場ともいえます。
『明鏡』では誤用だけど『三国』では誤用とは言い切れない、と記されている語も。
とはいえ、この表現は日本語的にオッケーなのかな?と思ったときに、まずはっきり返事がほしいなら『明鏡』といえます。
たとえば、しょう【省】という言葉を引くと、「一〔名〕政府の中央行政機関の一つ」という語釈に続いて、「さまざまな『省』」というコラムがあり、「現在の省」「以前の省」が並べて記されています。間違えやすいこと、注意すべきことを先に教えてくれる、転ばぬ先の杖
どう言いたいのか分からないときや校閲するときのガイドを求めるなら、『明鏡』は頼りになる辞書です。

アプリ版もあります。

編集長が審査委員長となり、全国の中高生から辞書に加えてほしい言葉を募る「もっと明鏡!」というイベントも催されており、それについての書籍もシリーズで出版されています。

みんなで国語辞典!―これも、日本語 「もっと明鏡」委員会


角川必携国語辞典 角川書店

…わたしは校正の仕事をするまで角川が漢和辞典に強いということを知りませんでした…。ご存じでした?
中村祐介さんの手による改訂新版『新字源』の特装版表紙を思い出して、「なるほど…」と得心した方もおられるのではないでしょうか。
そういうわけで、漢和辞典的な国語辞典です。
漢字の書き順も載っており、漢字の読みから熟語を引くこともできます。
たとえば『サク』を引くと、語釈の隣に「一①作曲(さくせい) 作成(さくせい)」…などと続きます。
言葉の使い分けについても、用例というよりも漢字の発生や語義にしたがって解説してくれます。
言葉の使い分けに迷ったとき、言葉を何をもって正しいか考えるとき、即座に答えを欲するのではなく語源を説明してほしい、
そういうことは自分で考えたい!という書き手にとっては、よき相談役となる辞書です。
また、百科事典的な強みもあります。
国語辞典には歴史人物の項がない辞書も少なくないなど、知りたいことが載っていなくて物足りないと思っていた方にも、おすすめの辞書です。


集英社国語辞典 集英社

…すみません。この辞書は持ってないです。
でも収録語数が多いです。95,000。この記事で紹介している辞書の価格帯は~5,000円(『新潮』と『てにをは』を除くとだいたい~3,500円)なのですが、
この辞書は3,000円+税で95,000と収録語数が圧倒的に多いです。
ホームページによると国語+漢和+百科を謳っており、
編集の傾向としては角川必携に近く、より百科を重視しているもののようです。
角川必携の発行が95年、こちらは2012年です。
大型辞書を買うほどではない、使いにくい、と思われていて、とにかくたくさんの言葉を知っている辞書をオフラインで使いたいときには、
いちばん向いているかもしれません。


現代例解国語辞典 小学館(第四版)

ここまで読んでいただいて、辞書といっても各社各ブランドによって大きな違いがあること、自分が必要としている辞書のイメージがなんとなく掴めてきたかと思います。
でも、各ブランドでエッジが利き過ぎてて、「それとこれの中間はないの」と思った方もいるのではないでしょうか。
この辞書は『例解』とある通り、言葉のイメージを捉えるための例が豊富です。
かつ、漢和辞典的な要素も兼ね備えており、情報の密度がとても濃いです。
欄外にアクセント、巻頭に色名ガイド、文末に文法や擬態語・擬音語の解説、敬語表現の要点…など、全部乗せです。

人名などはぐぐれば分かるから、とにかく国語について全部教えてほしいひと向き。
ただね~わたしが持ってるのは四版なんですけど、最新版の五版がちょっと見づらいらしく…。四版は全部乗せだけど見やすい奇跡の書なんですが…。
六版の発売が待たれます。リンクは四版に貼ってます。

新選国語辞典 小学館
(2019/02)辞書が増えました。小学館の新選国語辞典 です。
百科事典の要素があるという点では『角川必携』に近いですが、
こちらは最新版の9版が2011年に発行されており、
百科事典としても使いたいから新しい方がいい…というときにはこちらもお勧めです。
外来語や数字に強いです。見返しには「この語に収録した語の内訳」「総語数90,320」のうち「固有名詞」「慣用句」「古語」などの割合が図表つきで記されています。
小学館の辞書は巻末の付録が充実しており
(上で紹介した『現代例解国語辞典』も助詞や擬音語などにページが割かれています)、
『新選国語辞典』には送り仮名の付け方、現代仮名遣い、敬語の種類や使い方、季語一覧、年表、地図つきの日本の旧国名…など、
学生の便覧としても使えるものとなっています。
敬語が合っているかちょっと確認したいときなどに役に立ちます。
学生の頃使っていた辞書がなくなってしまったので、改めて買い直したいときなどにも良いと思います。

ベネッセ表現・読解国語辞典 ベネッセ

ここから下は類語辞典や、それに近い特徴を持つものを紹介します。
『表現読解国語辞典』名前にもあるとおり、表現と読解に力を入れている辞書です。
言葉の使い分けについて、『てにをは辞典』や『三国』が用例の実際から迫るのであれば、『角川必携』やこの『ベネッセ表現読解国語辞典』は言葉のイメージを伝えてくれる辞書です。
『角川必携』は言葉のイメージを伝えるときに、強みである漢字を起点にしますが、この辞書は現場主義だといえます。図解も多いです。
(現場主義という意味では『てにをは辞典』や『てにをは連想表現辞典』にも近いです)
たとえば「心配する」という語を引けば、「相手のことを考える」ときの言葉、「どうしてよいか考え込む」ときの言葉、などをそれぞれ図解しています。
伝えたいイメージが先にあって言葉を探しているときに相談に乗ってくれる辞書を探しているならこの一冊です。
類語辞典の中では個人的に『感情類語辞典』も愛用しているのですが、翻訳された辞典ということから、動作が少し大きいところがあります。
例えば「後悔」で「片手で全体を擦る」など。
動作で感情を伝えたいキャラクターの創作、身振り手振りの大きいキャラの二次創作ならば役に立つ本なのですが、
もっと日本語の表現に強いものを探しているならばこの『表現読解国語辞典』をおすすめします。

■『感情類語辞典はシリーズ化されており、
性格類語辞典―ポジティブ編』『性格類語辞典―ネガティブ編』『場面設定類語辞典が発売されています。
公式HP
熟語や慣用表現よりも、動きで感情を示すべきキャラクターが推しにいるとき、文章に動きがないことに悩みがある…その場合にはこのシリーズがおすすめです。


新版 日本語使いさばき辞典 東京書籍

類語辞典ならばこちらもおすすめです。『てにをは』と同じように、語釈は載っていません。
文章を書いていると、「言う」や「思う」など、決まった言葉を頻出させてしまい言い換えに頭を抱える、ということがあると思います。そういう悩みの相談役のために類語辞典がありますが、『使いさばき辞典』は『表現読解国語辞典』の語釈をさらに省き、『感情類語』より日本語表現に強みがある一冊です。
季語についてもまとめられています。短歌・俳句クラスタにおすすめです。


※おまけ
官能小説用語表現辞典 ちくま書房

その名の通り、エロに特化した表現辞典です。
官能小説独特の表現を、男性器や女性器や、行為のどのタイミングか など、に分類して掲載しています。
掲載されているのは男女の官能小説ですが、行為の最中の表現がマンネリになりがちなことを悩んでいるときには、
BLGLにもヒントをくれる一冊だと思います。


有名どころなのに、好きなのに載っていない辞書があった方はすみません。
校正・校閲の実務の際に、辞書は最低三冊引いて確認するようにしているのですが、その三冊はなるべく異なる視点を持っている方が良いと考え、意識的に編者や出版社、編集方針をばらつかせているため…すみません。投げ銭いただけましたらレポできるかもしれません…。

とりあえず、手持ちの辞書を中心に、同人誌制作に役立ちそうなものをまとめてみました。
机の上に頼りになる相談役がいてくれると、執筆や校正・校閲の際に心強いと思います。
辞書を持つと戦闘力が上がります。あの感じをぜひ、味わってほしいです。


9/22追記:『新潮 現代国語辞典』の、リンクを切りました。

2019/02/02 小学館『新選国語辞典』の紹介を追加しました。


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椿

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コメント3件

はじめまして。いい類語辞典はないかなと探していたので、助かりました。ありがとうございます!
コメントありがとうございます。お役に立ちましたら幸いです!
サポートをいただきました。
直接被害の出た地域ではなかったのですが、相次ぐ災害で気分が沈んでいたところに元気を頂けました。ありがとうございます!少しずつ更新していきますね。
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