終わりがない
轟音が響く中で、音楽を流しながら換気扇の下で煙草を吸いながら、はたと思った。
この先、わたしが求めることが叶ったとしても、満たされることがあるのか?
些細なことがきっかけだったとおもう。そのくらいの歳なら誰でも、どこにでもありふれる話だったとおもう。
中学生の時、半年くらい家を出れなくなってしまったことがある。
週に1〜2回くらい学校に行っていたような気がする。思い出すのが嫌だからなのか、10年以上も前の話だからなのか、記憶が曖昧にしか残っていない。
人の目がもう全部怖かった。外に出るのが怖かった。外に出ないことも怖かった。どうすればいいのか考えるのもしんどくて、同じ音楽を延々と聴きながら、寝て起きての繰り返しだった。
先生が優しかったような気がする。心配してくれていたような気もする。
本当に声をかけてほしかった人からは何もなかった。今思うと、将来本当に関わることがない人たちなんだから、放っておけばいい。お前のことなど、お前が思うより、ずっとどうでもいい人間だと思われてるよ、などと適当なことが言えるのだが、その時は学校がわたしの世界のすべてだった。
とにかくつらくてそれ以上の気持ちは何もなかったから、ずっと寝ていたような気はする。
半年近く経ったとき、このままわたしは外にずっと出れなくなったら、どうなってしまうんだろう。それがずっとずっと頭の中に浮かぶようになった。
このままずっと外に出ないこと、吐きそうなくら嫌だとしても、外に出れるようになること、どっちがマシなのか、を考えるようになって、ずっと外に出ないことのほうがめちゃくちゃ怖いと思って、外に出るようになった。
もう、本当に嫌だった。
それでも、気づけば普通に外に出れるようになった。普通に学校も卒業し、仕事をしている。
当時の人に対する怒りも悔しさもなくなった。私は、私の人生を生きているので、もう結構です、という気持ちでいる。というより、当事者は何も覚えてないでしょうね。そういうのも含めて、結構どうでもよくなっている。
わたしは「そこに、なにもしないでいるだけで存在がが許される」なんてどうしても思えない。「何か頑張らないと、何かを生み出さないと、存在価値がない」と思っている。
私の大事な人たちがそう言ったら、そんなことない、生きてくれているだけでいい、そこにいてくれるだけでいい、っておもう。でも、私自身には思えない。頑張らないと何にもしない人になってしまうのが分かってるから。外に出るのをやめたときみたいに。そうなるのが怖くて何か頑張らないといけないような気持ちがずっとある。
コミュニケーションで悩むことが多かった。
コミュニケーション力がないから、駄目なんだと思った。人の気持ちがわからないからこうなるんだって思った。
コミュニケーションを取らざるを得ない場所にいけばなんとかなるのでは、と思い、営業職についた。これもまたうまくいかず、何をやっても駄目で、コミュニケーションに関わる本を片っ端から読んだ。それでもどうにもならなかった。
何も生み出さない奴はご飯なんか食べちゃ駄目なんだと思って、仕事中は何も食べなかった。家に帰って泣きながらご飯を食べていた。気づいたら食べている途中で寝ていたこともたくさんある。休みは、お風呂にも入らず、なにもしないでずっと寝ていた。起きられなかった。
それから数年経ち、営業数字も達成できるようになり、普通に働けるようになった。こうすれば、こうなるなというのもなんとなくわかることもある。
数字が達成できれば、自信がつくと思っていたが、そうでもないらしい。
ずっとずっと生きていくのがしんどい。
何かが叶っても、虚しさが消えない。全部ひとつずつ出来るようにしてきたはずなのに、しんどい。
だとしたら、私はずっとこのままなのだろうかと、思ってしまった。
生きづらそう。
強いよね、向いてないことをずっとやり続けられるのって。よくやれるよね。
へへへへ。ってごまかしたけど、分かってんなら助けろ、助ける気がないなら何も知らないくせにそんな簡単に人の意思や努力を値踏みするな、私の何を知ってそんなことが言えるんだ、と口悪いことを考えてしまう。知ってもらう努力をしてから思うべき話のようにも思える。想像力の話ともいえる。
めちゃくちゃダサいしつまらないけど、
かわいそうだね、もういいんじゃない、って誰かに言われたいんだとおもう。
かわいそうだと言われるのが嫌だった。言われたくなくてやってきたこともある。
でも、もうしんどいので、誰か、かわいそうだといってほしい。何をもういいんじゃないといわれたいのかわからないけど。
駅のホームで、彼女が拗ねてひとりでかけていくのを、彼氏が追いかけていた。
ひとりで駆けていけるのは、追いかけてくれる人がいるから。追いかけてくれると信じているから。
私も追いかけてくれると信じて、誰かに拗ねてみたかった。泣き喚いてみたかった。
また、明日何食わぬ顔で仕事に行く。
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