見出し画像

『トップをねらえ2!』をめぐって

その「切なさ」はどこからやって来るのか

『トップをねらえ2!』はとても切ない。

 ……というと、違和感を持たれる方もいるかもしれない。貞本義行がデザインを手掛けたキャラクターは、華やかさと軽やかさを振りまきながら、しっかりとした実在感を持って迫ってくるし、「バスターマシン」と呼ばれるロボット群が繰り広げるバトルは、壮大な宇宙をバックに圧倒的な迫力で目を楽しませてくれる。しかも、そうしたポップなビジュアルとは裏腹の、SFマインドに満ちた世界観設定とストーリー。宇宙パイロットに憧れを抱く少女・ノノは、身体がナノマシンによって構成されたアンドロイドという設定で、一方、そんなノノから「お姉さま」と慕われるバスターマシンのパイロット、ラルクは物質を量子化して転送する超・能力の持ち主。対する宇宙怪獣たちが「変動重力源」と呼称されていたりと、いかにもSF的な仕掛けが随所に仕込まれている。

 華やかな見た目と、それを裏から支えるハードSF的な世界観。それだけで十分に魅力的な『トップをねらえ2!』だが、その物語を通して語られることになるのは、大切な相手を思い続ける「気持ち」だったり、思春期という季節に別れを告げる、身を切るような「想い」だったりする。切なく胸を焦がし、人をやむなく突き動かすエモーション(感情)が作品の中核にあって、そこに『トップをねらえ2!』の面白さがある。

『フリクリ』と『トップをねらえ2!』

 監督を務めたのは『新世紀エヴァンゲリオン』にメインスタッフとして関わったのち、初めての監督作『フリクリ』を発表。その斬新なビジュアルとユニークな作風で注目を集めた鶴巻和哉。脚本は『美少女戦士セーラームーンSuperS』、そしてなにより『少女革命ウテナ』のシリーズ構成を手掛けた榎戸洋司。鶴巻監督とは『フリクリ』で初めてタッグを組み、この『トップをねらえ2!』にも、引き続きの登板となった。

 もちろん、続編を銘打っているだけあって、本作が庵野秀明監督の名作『トップをねらえ!』から引き継いだ要素は大きい。それについてはまた後ほど触れたいのだが、それと同時にこの『トップをねらえ2!』はある意味、鶴巻監督と脚本家・榎戸洋司が組んだ前作『フリクリ』を、また違う角度、違うアプローチから発展させた作品のようにも見える。

『フリクリ』は、小学生にも関わらず大人ぶる主人公・ナオ太が、破天荒な自称宇宙人・ハル子との出会いを通して、自分がどうしようもなく「子供であること」と向き合う話だった。一方、この『トップをねらえ2!』は、超・能力の全能感に酔いしれていた少女・ラルクが、人間を越えた存在であるノノと出会い、本来の自分を受け入れる――その葛藤を描く物語になっている。それはある意味、「諦念を受け入れる物語」でもあるのだが、だからといってその結論は決してシニカルではない。むしろ、諦念の先に未来があること、その先にある希望こそが描かれることになる。

 かけがえのないものに拘泥するのではなく、大切なものを手放した先に本当の未来が待っている。そう語る『トップをねらえ2!』は、だからとても切ない。しかも面白いのは、その「切なさ」が、真正面からストレートに語
られるわけではないところだ。

『トップをねらえ2!』のジグザグな語り口

 語りはいくつものレイヤーによって重層化され、画面はその端々まで――本筋に直接関係ないノイズも含めて、多彩な情報で埋め尽くされる。聞き慣れない単語と専門用語が観る者を攪乱し、畳みかけるように切り替わるカットとカットの隙間に大事なことがそっと忍ばせてある。例えば第1話。物語は、火星の辺鄙な田舎に住むノノが上京する場面から幕を開けるのだが、この場面だけを切り取ってみると、まるでノノが『トップをねらえ2!』の主人公のように見える。しかし前述した通り、本作の本当の主人公はあくまでラルクなのだ。そんなふうに、決して真っすぐではないジグザグな語り口で『トップをねらえ2!』の物語は進んでいく。

 あるいは、第5話のどんでん返し。敵だと思われていた宇宙怪獣の本当の正体が明らかになり、それまで信じていた物語の構図がコペルニクス的転回を迎える。それは前作『トップをねらえ!』第5話の展開を踏まえつつ、前作と本作が共通の世界観に則っていることを明らかにするのだが、そのアクロバティックな急展開に驚く人も多いだろう。

 そして、先ほど軽く触れた通り、この『トップをねらえ2!』は、前作と合わせて観ることで、より一層インパクトが増すように設計されている。世界観が共通しているのはもちろんのこと(例えば、第5話に登場する敵は、前作で自沈した宇宙戦艦を取り込んだ宇宙怪獣だ)、ノノとラルクの関係は前作の主人公、ノリコとカズミの関係を踏まえたうえで、さらにひとヒネリが加えられている。それは全6話のストーリー展開もそう。『トップをねらえ2!』の後で前作を観れば、その見事な演出手腕にきっと唸らされることだろう。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?