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BEYOOOOONS『BEYOOOOO2NDS』

セカンドアルバム発売

ハロー! プロジェクトに所属するアイドルグループ、BEYOOOOONS(ビヨーンズ)のセカンドアルバムが『BEYOOOOO2NDS』です。12人のメンバーからなる大所帯のグループであるビヨーンズは、曲と寸劇を合わせた構成、奇抜な着想や歌詞など、アイドルらしからぬ要素が多いことで知られ、ライブやミュージックビデオにもシアトリカルな演出が光っています。演劇的な路線やノベルティソングを中心とした構成は変わらず、新しいアルバムのなかにも、曲と曲のあいだにスキット(会話劇)が含まれるなど、独自のアイデアが詰め込まれていました。こうした遊びの多さは、まるでデ・ラ・ソウル『スリー・フィート・ハイ・アンド・ライジング』(1989)を連想させるような、自由な雰囲気に満ちたものでした。私自身は、メンバーのプロフィールや個性などにはそこまで詳しくないため、あくまで音源としてのアルバムを聴いた印象から、本作がどのような内容かを考えてみたいと思います。なお、サブスクリプションには音源がありませんので、盤を購入する必要があります。

アルバムを通して聴いてみてもっとも印象的だったのは、直接的なラブソングがほとんどないこと。どの曲も、若い女性が日々経験するストレスや苛立ちを肯定しつつ鼓舞する、エンパワーメントな歌詞が中心です。あまりアイドルに詳しくないため、こうした傾向が一般的なのかどうかはわかりませんが、とても新鮮に感じられました。M1「虎視タンタ・ターン」は、有名な「リライト・マイ・ファイアー」(1979)のキメフレーズを引用したダンストラック。「髪染めてる子も/大人しいあの子も/胸の内はほら/私 私 私(私〜!)/これがこれからの乙女だぃ/Yeah 時代 まかせな!/(準備OK!)」の歌詞もすばらしい。現代のポップソングにふさわしい視点があると感じました(わけても「乙女だぃ」の小さな「ぃ」がすばらしい)。また同曲を締めくくる「君もそう 本当の自分を愛したい/声を(抑えてた)/心を(隠してた)/叫べ(生き残ろう)/すべて(生き残れ)/タンタ・ターン!/がおー!」という元気いっぱいの宣言にも共感せずにはいられないのです。ここで最後に「がおー!」と本当に吠えてしまうのが実にビヨーンズ的で、この咆哮によって彼女らは、ケイティ・ペリーの「ロアー」(2013)とほとんど接続してしまっています。

怒ってる、ムカついてる!

M6「Now Now Ningen」で歌われるのは、「Na Na Naにしてたこと/ちゃんと直して進もう/Now Now Nowに生きていこう」というまっとうすぎるメッセージ。世間の価値観がようやく変わってきたのだから、私たちも Now を生きる Ningen になるべきだという骨太な歌詞がみごと。こうしたテーマは、M7「涙のカスタネット」における「おっとどうした? 昔の価値観 押しつけてさ/アップデートだ ウカウカしてられない」にも引き継がれています。かと思えば、M9「ハムカツ黙示録」は、女の子の「はぁ…ムカツく」体験を描いた怒りの表明ソングとして存在感を示し、パワフルな印象を与えます。この楽曲も実にすばらしい。「あぁなめんな なめんな/燃える命のファイアー/甘くない 塩辛い/だけど生きていく ジュワ〜」と元気に歌唱する彼女らに、もっと怒ってほしい! と頼もしい気持ちになるのです。

歌詞の話が続いたので、いったん話題を変えて、ほかに注目すべき部分について考えてみると、彼女たちの魅力のひとつである「合いの手」があります。曲のなかで、メロディとメロディのあいま、歌詞の区切り部分で、絶妙な合いの手が入るのです。ビヨーンズの個性である演劇性とも深く関わっているであろう、この合いの手がうまく行った楽曲ほど、記憶に残る作品となります。例をあげれば、ファーストアルバムに収録された「元年バンジージャンプ」(2019)には、「度胸だめしだ ビヨンビヨーン」という途方もない合いの手があり、これを初めて聴いた私は仰天したものでした。いったい何なのか。そして本作における合いの手にも、彼女らの持つ画期的な新しさが込められているように感じました。わけてもM7「涙のカスタネット」における「ヨッシャ」「へいっ」の合いの手を繰り返しながらビートの興奮を高めていく構成には圧倒されました。ビヨーンズは、すでに米ラップグループ、ミーゴスの合いの手テクニックを超えているのではないか。そう感じたのでした。閑話休題。

アルバム全体から、現代的な価値観をベースにした女性グループの楽曲にふさわしい歌詞、楽曲を収録しようという意図が伝わってきて、とても嬉しく感じた作品でした。同時に、そうしたテーマが決して頭でっかちにならず、あくまでリラックスした雰囲気で表現されているのは、彼女らの演劇性であったり、コミカルなノベルティソングとしての主軸があるからで、そのバランスのよさから、結果的にはきわめて新しくエッジの効いたグループの作品となっていると感じたのでした。ラブソングではなくエンパワーメントとシスターフッド、という選択にも現代性を感じましたし、数少ないラブソングが「AIに恋する女性」といった奇妙なねじれを見せてしまうあたりにも、ビヨーンズらしさがあると思います。アルバムのよさは語り切れないのですが、最後に、ベル・ビヴ・デヴォー「ポイズン」(1990)をビヨーンズのフォーマットに落とし込んだニュー・ジャック・スイング「HEY! ビヨンダ」を聴いていただきつつお別れです。ありがとうございました。

これは完全に余談ですが、本作のような、ノベルティソングやスキットを絡めて作られたアルバムを聴いていると、前述したデ・ラ・ソウルだけではなく、ボンゾ・ドッグ・ドゥー・ダー・バンド『ゴリラ』(1967)、あるいはゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ『アポロ18』(1992)といったアルバムと比較してみたい衝動に駆られます。ビヨーンズの魅力は、こうしたポップグループと比較して考えたとき、見えやすくなるように思うのです。

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