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人の運動システムの理解の仕方(その8)-2つの視点

 健常な人に見られる「状況性」は、状況変化に適応的に運動変化するための作動です。そしてこれは「豊富な運動リソースと柔軟で創造的な運動スキル」という仕組みによって支えられていると説明しました。
 逆に障がいを持つと言うことは、切断や麻痺、痛みなどによって身体リソースが減少することによって、利用できる環境リソースが減り、運動の多様性と量の減少によって情報リソースが貧弱になったり不適切になったりしてしまいます。その結果、適切な運動スキルが失われ、必要な生活課題達成が困難・不能になることです。
 それでCAMRでは、まずは改善可能な身体リソースはできるだけ改善しましょうと述べました。
 今回は環境リソースを増やすことについて説明します。
 学校で習う要素還元論の視点では、運動システムは「皮膚に囲まれた身体」ということになります。CAMRで言う身体リソースだけが運動システムと言うことです。
 しかしシステム論を基にしたCAMRでは、運動システムは皮膚で囲まれた身体だけではありません。歩くためには身体が大地を利用し、重力に適応しながら姿勢を保持しながら移動しなくてはなりません。身体や体を支える面、重力は常に運動システムを構成しています。
 前にガードレールと並んだ自転車で狭くなった通路を通る時は、倒れやすい自転車や汚れたガードレールに体がつかないように横向きになって通り抜けたりします。つまりその時はそれらも運動システムの内部になります。
 環境リソースはそれらが運動に影響を与えている時は運動システムの内部になります。運動を生み出し変化させるリソース(資源)だからです。
 それだけに患者さんの課題達成力を改善するためには、患者さんにどのように環境リソースを提供するかがセラピストにとっても非常大きな役割になります。
 たとえばひとりで立って姿勢を支持するのが精一杯の片麻痺患者さんがいます。ともすれば患側に重心移動が流れて倒れそうになります。そんな方にT字杖という環境リソースを提供します。
 患者さんはそのT字杖を様々に試行錯誤して、それを健側に大きく突いて健側中心に基底面を広くとって重心を大きく健側に移すという運動スキルが生まれます。これによって安心して立つという生活課題の一歩を達成できます。
 重度の四肢麻痺の方がいます。この方は非常に身体リソースが貧弱な状態です。このままでは必要な生活課題は達成できません。このような場合には貧弱な身体リソースを補うために特殊な環境リソースが必要になります。
 たとえば体幹を垂直近くに支えて頭の動きを有効に利用できる支持装置の工夫が必要です。そして顎で操作できるコントローラーを加えた電動車椅子という環境リソースを持ち込みます。
 もちろん体を支持装置に任せて、顎で思い通りに操作するという運動スキルを学習する必要があります。それによって、限られた範囲内で自ら移動するという生活課題を達成することができます。
 環境リソースは科学技術の発達に伴って様々なものが常に出現してきます。だからセラピストは常に新しい環境リソースについて学んでおく必要があります。
 一方で常に適切な最新の環境リソースが得られるわけでもありません。患者さんに取って必要な環境リソースは千差万別です。だからセラピストは身の回りに利用可能なものを見つけて工夫しては提供し、新しい運動スキルの創造を患者さんと共に生み出していく工夫が必要なのです。
 たとえばT字杖は、歩くためだけでなく起立のためのリソースにもなります。僕の父親は片麻痺になった後、握りのT字部分を柱などに引っかけて引っ張り、立ち上がるのに利用していました(^^;)シンプルな道具こそ、工夫次第で色々な課題達成の環境リソースになるわけです。
 このように身体リソース同様に利用可能な環境リソースもできるだけ増やしていく必要があります。身体リソースと環境リソースが豊富になれば、そこから生まれる情報リソースは適切になり、運動スキルもより柔軟に、多彩に生み出されるようになるからです。
 次回は情報リソースについて説明します。(その9に続く)

※No+eには毎週木曜日にシリーズの新しいエッセイをアップします。また不定期に別の記事を掲載することもあります。
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