地方の高齢化の問題

 今年の夏、瀬戸内海の島に展示されたアート作品の案内をしたときのこと。お金の集計と来場者数のカウントをする傍ら、訪問者の話す作品への感想にそっと耳を傾けた。現代美術に答えを求めてはいけない。感じ方は人それぞれだから。時代や作者のバックグラウンドが重要な意味を持たないから、それぞれの感受性が尊重されること、作者とのほどよい距離感が想像を掻き立てる。聞こえてくる言葉は決してアジア圏の言語に限られない。英語圏の観光客だって瀬戸内海の小さな島を旅の目的としている。


 不思議ではない。人工物が目に入らない島には多くの人々が思い描く日本らしさが確かに残っている。日本という島嶼国のさらに小さな島というとミニチュアのようなスケール感で、それがより旅の興味をかきたてる。

 瀬戸内海は昨今「日本らしさ」を感じることのできるスポットとして俄かに注目を集めている。今年に入りSetouchi Islandはニューヨークタイムズの行くべき場所ランキングで第七位に選出された。瀬戸内海に限らず、海外で火が付いた逆輸入型の観光名所が日本で増えている。観光客の大幅な増加に伴いオーバーツーリズムが取りざたされる一方、インバウンドに沸く地域経済の現場に足を踏み入れると、その盛り上がり様に驚く。観光業の可能性を感じる瞬間だ。

 期間を限定して開催される芸術祭は島の廃屋をレンタルという形で再利用するケースが多いから、島民の理解が欠かせない。私がお会いした島民の方の大半はご高齢の方である。これが地方の高齢化社会の現実かと衝撃を受けた。国民の人口に占める65歳以上の割合が30%となると試算される2025年問題。アートは地域経済を支える可能性を秘めている。