20191001_フランスのジョブ型雇用

ジョブ型公務員で、生きていく

鎌倉市に引っ越してきたものの地元友達がなかなか増えません。蒲原です。積極的にコミュニティに飛び込む意欲はあるものの、どこに行ったらいいのだろう。とりあえず地元の飲み屋にでも行ってみようかと思ってます。

「地方公務員のレンタル移籍プロジェクト」その後

さて、今年の1月5日に「サッカーのレンタル移籍制度、地方公務員でもできるんじゃない?」という記事を公開しました。

有難いことに非常に多くの方にシェアしていただき、期待の大きさを感じました。また、その後実際にレンタル移籍してみたい地方公務員の方を募集したところ200人以上の方からエントリーがありました。

一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス(以下、AIA)の代表理事である木下斉さんからコメントいただいたことがきっかけで、レンタル移籍制度実現に向けた対談記事を公開したり、実績ある地方公務員の方々や生駒市の小紫市長をお招きした座談会を通じて、現在の自治体・役所が抱える問題の洗い出しを進めています。

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また、9月に行われたCode for Japan Summit2019では「令和時代の役所・公務員を考えるワークショップ」と題したセッションを開催。これまで行政組織では重視されてこなかった職員の「働きがい」「モチベーション」をテーマとした議論を行いました。

令和時代の役所・公務員を考えるワークショップ

採用・配置、給与制度、評価制度、マネジメント、コミュニケーション、業務効率、組織風土など、役所には改革しうるテーマがいくつもありますが、ここではレンタル移籍の記事を書くきっかけにもなった「地方公務員のキャリアデザイン」にフォーカスを絞ってお話させてください。

「仕事は自分で決められない」が当たり前になっている違和感

私の問題意識はこちらの記事から大きく変わっていないので割愛しますが、地方公務員は「ゼネラリスト」として3~5年に1度くらいのペースで部署異動を繰り返していきます。配属部署の希望を出すことはできますが、「揺りかごから墓場まで」と言われるように事業領域が広範な自治体では当然部署・仕事の種類も膨大で、希望が叶う率は低いです。また、配属決定プロセスがブラックボックスで、「なぜ自分がこの部署に配属になったのか?」その理由・根拠もわからないので、何を、どれだけ努力または達成すれば自分の希望するキャリアを手にできるのかがわかりません。

このように不透明で受け身なジョブローテーションでは、主体的にキャリアをデザインすることが困難です。入庁して自分のやりたい仕事に運良く出会えても、異動によって全く関係のない部署に離れてしまう。あるいはやりたいと思った仕事があってもいつ関われるのかわからない。このような状況では、モチベーションを維持して自分を高め続けるのは難しいと感じています。

もちろんゼネラリスト型のジョブローテーションにもメリットはあり、それを全て否定したい訳ではありません。ただ、今の人事のあり方は画一的過ぎないでしょうか?得意分野でプロフェッショナルな公務員として生きていく、主体的にキャリアをデザインしていく、そんな選択肢を増やすことで、公務員としての働きがいを高めることができるのではないかと思います。

フランスのジョブ型地方公務員制度

さて、先日総務省の方とご縁があり意見交換をさせていただきました。その方は国内外の地方公務員制度に精通しており、特にフランスのジョブ型地方公務員制度が参考になるだろうとのことで色々と教えていただきました。

かなりざっくりですが、私なりにその話を聞いて理解したものを図解したのが下の図です。

20191001_フランスのジョブ型雇用

その特徴は、ジョブ型の地方公務員制度であることです。ちなみに日本の多くの企業・公共団体が古くから採用している「年功序列」「終身雇用」を前提として一括採用する方式はメンバーシップ型雇用システムです。ジョブ型とメンバーシップ型の違いについてはこちらの記事で紹介されていますので気になる方はどうぞ。

ジョブ型の地方公務員制度がどのように成り立っているかというと、まずフランスにおいて地方公務員は国家資格扱いです。地方公務員試験に合格すると、全国地方公務員センター(CNFPT)に登録されますが、その時点ではまだ仕事は決まっていません。

地方公務員の資格を得た人は、その後自分で各市役所から公募されている仕事を探して、気に入った仕事にエントリーします。

各自治体からは「職務記述書(Fiche de Poste)」が公開されています。この職務記述書は日本で言うところの募集要項ですが、人事部門ではなく各部署のマネージャーが作成し、そのポストの概要、求められるミッション、具体的な活動内容、必要な経験・能力・適正、勤務条件を細かく定めています。

募集時期は日本のような一括採用ではなく、欠員が出たタイミングで随時行われます。マネージャーが自分の部下を募集するようなイメージです。

20191001_フランスのジョブ型雇用_職務記述書の公開から採用まで

そのため、採用にあたってもマネージャーの意向が最も強く働き、人事部門はあくまで従たる役割にとどまります。

フランスにおける地方公務員のキャリアデザイン

では、本記事のテーマである「キャリアデザイン」の観点ではどうなっているでしょうか。前項で記載したように、ジョブ型の雇用制度においては、あくまでも地方公務員みずからが仕事を選択していきます。

そのため、人事部門による部署異動の命令は基本的にありません。現在の仕事に満足していれば、その職で長く務めることも可能です。また、経験を積んで同一分野でより上級職の募集があればそこにエントリーしてステップアップを狙うこともできますし、他分野へチャレンジすることも可能です。

キャリアデザインの主体性という観点では、日本よりも選択の自由度が高いと言えるでしょう。

20191001_フランスのジョブ型雇用_キャリアデザイン

一方、これを雇用者である自治体側から見ると、常に競争原理にさらされる仕組みであることが想像できると思います。例えば地方よりも都心に近くて便利な自治体の方が人材獲得面で有利になりそうですよね。そのため各自治体は職務記述書を出す際に、「都市部から離れているが、経験年数が少なくても権限の大きいポストで仕事ができます」というように働くメリットを訴求することもあるようです。

採用競争力を高めなければ優秀な人材を獲得できないという課題はメンバーシップ型の日本でも直面しているところですが、これについてはジョブ型の雇用システムを採用しても同様といえます。

20191001_フランスのジョブ型雇用_自治体間の競争原理

日本の地方公務員に、ジョブ型雇用の選択肢を

国内自治体において、要職に民間のスペシャリスト人材を採用するニュースを目にする機会が多くなりました。例えば四条畷市では、エン・ジャパン株式会社との協力により副市長公募や7職種同時公募を仕掛けられています。

また、神戸市のICT業務改革専門官として活躍されている砂川さんも民間出身です。私自身が本業でご一緒しており、大きな組織である神戸市の改革を着実に前進させていらっしゃいます。

組織を変え続けるためには、多様な視点が必要。そのためには役所に民間人材の活躍の場・機会を増やす流れは、今後さらに拡大すべきだと思います。

一方で、自治体職員の中にもスペシャルな人材は数多くいます。これらの方々をジョブ型雇用の形で採用することはできないでしょうか?また、ジョブ型の公務員として生きていく、そんな選択肢を作ることはできないでしょうか?

「地方公務員の外部労働市場」がポイント?

ここまでお読みいただいた方は結論が予測できてきたかと思いますが、フランス的なジョブ型雇用の選択肢を日本の地方公務員採用にも採り入れられないか?と考えています。

そこで、改めてフランスと日本を比較してみました。

20191001_フランスのジョブ型雇用_日本との比較

まず、フランスで地方公務員のジョブ型雇用が成り立っているのは、「地方公務員の外部労働市場」(公務員としての登録者)が存在するからです。これにより、各自治体で欠員が出た際に、一定のクオリティが担保された人材群に対して募集をかけ、効率的な採用活動を行うことが可能です。

仮にこの「地方公務員の外部労働市場」が存在せず、完全にオープンな形での募集しかできなかったとしたらどうでしょうか。エントリーしてくる方の能力チェックをより各自治体がしっかり行う必要があります。また母数増に伴い応募者数自体も増えるでしょうから、採用コストは大きくなると思われます。

20191001_フランスのジョブ型雇用_日本の場合

日本の場合には、地方公務員の外部労働市場は存在しません。各自治体に内部化されていますので、他自治体の職員を知る方法はオフィシャルには存在せず、アプローチする慣習もありません。
※「慣習」と記載したのは、「地方公務員経験に限定して募集」のような形で募集要項を作成すれば現行の仕組みの中でもジョブ型雇用を行うことはできるのですが、実際にはそういう取組をしている例がないと思われるためです。

民間事業として外部労働市場を作る

この外部労働市場、国が作るとしたら非常に大変です。公務員の採用システムを根本から変える話なので、労働文化の移行も含めて30年くらいかかるんじゃないかと前述の総務省の方も仰っていました。

だとするならば、民間の活動として実験的にスタートするのが良いのではないかと考えています。やりたいことは至ってシンプルで、地方公務員が登録できる審査制のプラットフォームを作ります。誰がどうやって審査するのか?など方法論の部分でクリアすべきポイントは色々出てきますが、目指す姿としてはプロフェッショナル志向の地方公務員かつ、既にスペシャルな実績・スキルを持っている方が登録されているイメージです。

20191001_フランスのジョブ型雇用_民間事業としての外部労働市場

一方で、ジョブ型の採用を行いたい自治体には職務記述書を作成していただきます。プロフェッショナルな人材を獲得するには権限・予算・報酬のバランスが重要となるため、既存の給与テーブルに乗せざるを得ない一般職ではなく、特別職公務員が良いのではないかと思っています。が、こちらも詳細は実証しながらノウハウを積み上げていければなと。

全体の1%でも、自分で切り拓ける選択肢を

レンタル移籍制度の構想を公開してから何人かの首長と意見交換の機会をいただきましたが、「イノベーションを起こせる人材でなければ必要ない」という正直な言葉をいただきました。

それもあって、僕の中では上述の通り「スペシャルな実績・スキル」を持った地方公務員を対象とした事業を企図しています(無論、私など対象にはなりません...笑)

例え初めのうちはその対象が地方公務員全体の1%だとしても、努力してその1%に入れば主体的なキャリアデザインができると思えるならば、それは大きな前進になる気がしています。それこそが、「ジョブ型の公務員」という選択肢を作る価値ではないかと。

また、メディアにも登場するような実績ある公務員へのヒアリングを通じて、地方公務員として働く中で閉塞感を感じる理由は「自分で決められない・変えられない」ことが多すぎることにあると思うようになりました。特にキャリアデザインの問題は大きく、最近も次々と力のある公務員が退職という道を選んでいっています。

そういった問題にアプローチする実験として、この記事に書いたようなことを前に進めていきたいと思います。

最後に

前回の記事が8000字を超えて「なげーよ!」と多くの方に言われましたが、今回もなんだかんだで5000字近くになってしまいました...。

ここまで長文をお読みいただき、ありがとうございます。誰も正解を持っていない領域だからこそ、色んなトライを積み重ねていこうというスタンスでやっております。

一人で大きな何かを達成するよりも、小さくとも思いを共有できる方と仕事をして一献やりたい(酒の種類問わず)とタイプの人間ですので、本稿に共感いただける方いらっしゃれば、お気軽にお声がけくださいませ。笑

私のノートをお読みいただき、ありがとうございます!