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これからこれから

従兄が遊びに来たんです。会うのは四半世紀ぶりでした。びっくりするくらい太って、びっくりするくらい歳をとっていました。私より一つ年上の彼は、1年浪人してとてもいい大学に入ったので、私と同じ年に大学生になりました。あの頃の会話を思い出します。

「どんなこと勉強してるの?」
「デジタル画像だよ」
「何それ?」
「将来、写真をプリントする人はいなくなるんだ。その時のための研究ってとこかな」

1986年、春のことです。あの頃の私は、彼が言っていることが全く理解できませんでした。しかし、その10年後には、誰もが一台パソコンを持つようになり、そのパソコンではとても美しい画像を見ることができました。更にその10年後には、誰もがデジカメを持つようになり、私も名刺サイズのデジカメを買って、気づけば撮影したものを現像しなくなっていました。そして更にその10年後には、誰もがスマホを持つようになり、デジカメを持ち歩く人は見かけなくなりました。

大学を卒業した後、大手のカメラメーカーの研究員となった彼にとって、この30年は濃かったに違いありません。その濃さの分だけ、彼は早く歳を取ったようにも見えました。

「副業OKになったんだ。55にもなれば早期退職を勧められるかもしれない。その時のために、準備しておきたいと思ってね」

彼は私に事業計画書を見せてくれました。その内容をここで書くことはできませんが、彼のこれまでの経験と人脈をいかして、3年後の世の中を見据えた計画となっていました。

「個人で始めた方がいいか、いきなり法人の方がいいか、法人になるにはどんな手続きをしたらいいのか、とかね。考えてたら、いずみちゃんのこと思い出してさ。税理士の旦那さんとそういう仕事をしてるんだろ?」

そう言って笑うと、昔と同じ八重歯が見えました。応援したいと思いました。私が見聞きしてきたことで役に立つことがあるなら、なるべく沢山シェアしたいと。だって、おんなじ50代。別のことをしながらも、同じ時代を生きてきた同士なんですから。