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こんばんは、お夜ですね。


先日、昼間に近所のレンタル屋へ出かけました。

映画でもレンタルするか。気分でレンタルするか。という具合に店内の奥へ何気なく歩いていき、そこに並んでいたレンタル漫画本の壁を見上げて「暑いなあ。お菓子食べたいなあ」なんてぼんやりしていると左側から人影がぬるりと現れ、黒いジャンバアを着た男が、白いコットンマスクを外しながら、シルバーフレーム眼鏡の奥のするりとした一重瞼でもって、些かにぼくを見上げる様に「すみません、、、」
と声をかけてきました。

ぼくはハッとして、少し腰をくねり、まるで準備運動を始める寸前のような奇妙な姿勢になりながら「え?何?知り合い?」と頭の中で戦慄ドーナツにたっぷりとチョコレートがコーティングされる様を思い浮かべていました。

その男と目が合うと「だ、だ、だ、だーれ、ど、ど、ど、どーなたっ?」と、小さなイルカに変身したぼくは水面から大きく飛び跳ね、先刻の戦慄ドーナツがフラフープであるかの如くその中を通り抜けました。ジャボン。

「この辺よく来ますか」と聞かれたぼくは既に、ブーツを履いた案山子になっていましたから真っ白な地図でもって「まあ、、来ますけど、、」と答えました。

「おすすめの店あります?」
と質問され、“でっかいクエスチョンマーク”にポワンと抱擁されるといよいよ足元が固まり思考回路は"右脳が戦場になって一瞬で灰になった"わけです。

ぼくは彼のマブダチでもなければ、
彼の聖母でもありませんから、生まれ変わって彼の母になってぼくのいのちさえ差しだして彼を守ることはできないのです。

無視あるいは、知らぬ存ぜぬのキンキンに冷えたドライな態度でもってさらりとやり過ごせばよいものの、とっさに話しかけられて肩のワッペンが剥がれかかったジャンバアを着た案山子になっていますから、「ああ? 店ってなんぞや?
きさん、腹が減ってるからランチの店知りたいんか、それとも本屋なのか古本屋なのかCDショップなのかドコモショップなのかラーメンショップなのかペットショップなのかブティックなのかはっきりせんかい!」と彼の胸ぐらに掴みかかり吐息でもってそのシルバーフレーム眼鏡のレンズを曇らせそこに反転してアホ!と指で書き込むわけにもいかないのです。

くすぐってもいないのに、こまめに笑いながらしゃべる上に早口でどんどんしゃべるので、全く彼の欲しがっている情報が分からず、「早く帰りたい、アーモンドドリンク飲みたい」としか考えられなくなった頃には「RPGツクールっておもしろくないですか?最近だと3DSにもあるし、中古で買うと前の人のRPGツクールのデータが残ったままなんですよ」と知らない惑星の世界情勢のような話をきかせて下さっているのでした。

どうやら彼は古本で漫画を買いたいらしく
ぼくは「この辺全然ないですからねえ。隣駅まで行けばブックオフありますよ。ちょっと遠いですけど」というと彼は「ああ」とも「うんぬう」ともつかぬ返事をしてから「ぬか漬け谷(架空です。ぼくの隣の隣くらいの街です)に古本市場ありますよ」と逆にレコメンドしてくれる訳です。

彼の目をのぞき込むと、永遠とお話をしたい。なんならガストに移動しません?というような眼光をしていたので、既に展開されている別のゲームの話を中断し「やっぱりこの辺だとブックオフしかないでかねえ。それじゃあ、すみません」と右手を挙げて立ち去ろうとした瞬間、シックスセンス本社から通信がジャリリと入り、ライン交換を申し込まれるぞという内容のメッセージが届きました。

「あの、ラインとかってやってますか?」と聞かれ、ぼくは申し訳なくもたまたまスマホを家に忘れてしまったことにして断ってしまいました。
「すみません。今日すっごい家を急いで出てきちゃって今スマホ持ってないんですよ」と言って漫画の壁の反対側へ移動しました。

一体、赤の他人であるぼくとラインを交換して何を話すのだろう。と思いました。
後日ご飯に行ったりゲームセンターへ遊びに行ったり映画を観にいったりフライングタイガーでシャーペンなんかを一緒に買いに行ったりして親交を深めようということなのでしょうか?

たった数分間の一方的な漫画やゲームの話に「はあ。」とか「うんひんぬ」といったような頼りない相槌しか出来なかったぼくを、ラインを交換すべき人と見做した理由も分からない訳です。

それともぼくが考え過ぎなのでしょうか。

ラインなんて交換し得じゃね?という軟派な気持ちの方がよろしいのでしょうか?

よくわからないなあ。と思いました。

漫画の壁の反対側へ移動した後、そのRPGツクールの彼がまだその辺りをウロウロしてるかもしれないと思ったらなんだかバツが悪くなりいっそのこと帰ってしまおうかと思ったのですが、やはりDVDは借りて帰りたかったので、半ば急かされるような具合で映画をピックアップしました。

その時に何気なく上着のポケットからスマートフォンを取り出してメモ画面を開こうとしたのですが、あ、あかん。彼に見られてしまう。と思いすぐにポケットに戻しました。

もしフェレットを肩に乗せていれば、万が一彼に出会し、「スマホ持ってきてるじゃないですか、おかしいじゃないですか、なぜですか」と詰問されても、「いやこいつのスマホだからこれ」と、フェレットを指差して難を逃れることが出来る訳です。

今度ペットショップのぞいてみようかなと思います。

長々と読んで下さりありがとうございます。
セーターを編んであげたいです。
それではこのへんで。架空でした。



ボツのイルカ