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お夜です。こんばんは。

ポール・オースターの新作(というか最近日本語に訳され日本の本屋に並んだ)『サンセット・パーク』が発売されたことを最近知った。

SNSへの投稿は妹に任せ、SNSの閲覧自体もほとんどしてないせいか、あるいは本屋に足を運ばなくなったせいか、ポール・オースター好き好き大好き倶楽部の会員であるぼくが「なんて遅いんだ!」と叫んでしまいそうになるくらいそれに気がつくが遅かった。

たまたま、ポール・オースターについて調べたら、『サンセット・パーク』が発売されていることを知った。

『サンセット・パーク』はもうずっとずっと昔に御茶ノ水の大型書店の青空ワゴンの中にペーパーバッグ版で見かけたことを思いだした。

夕焼けに照らされた2人の男らしきシルエットが伸ばす影がピヨンとなった表紙のやつ。

サンセット・パークが発表されたのはもう10年も前のことなのか...と驚いた。
オースターの作品が翻訳されるのってこんなに長いスパンかかっていたっけ?
と翻訳することの大変さや、それにかかる膨大な時間や、知識のうずまき、手間の応酬に一瞬思いを馳せた。

それに、表紙の装丁をしているのは、西山寛紀さんじゃないか!
パッと見て分かる西山氏イラスト、あまりにも美しいイラストにハッとし、夕焼け色の赤に、掴むとぐぅんと重そうなずっしりブルー、そして品の良い黒。

はあ。とため息をついてしまう美しい装丁。
ポール・オースターのムードある世界観や、柴田元幸氏の雰囲気に非常にマッチしていて、すごい。すごすぎる。とプロの仕事に感嘆してしまった。

それから、もうもちろん、読みたい読みたい読みたいポール・オースター読みたい装丁読みたい見たいはやく単行本を実際に手に取りたい手に取りたい読みたいオースター読みたいとなり、

仕事帰りに近所の大型スーパーに隣接された書店に行ったけど、そもそも海外文学の新刊自体、ミミズの額くらいのスペースしか設けられていくて、無論『サンセット・パーク』はなかった。

そして後日、ながらくウィルスの影響で閉まっていた最寄駅の書店が開いていていよいよぼくは『サンセット・パーク』を手に入れられる!とワックンコした。
しかし、海外文学のコーナーを2200往復しても見つからない。
おかしい。

歯抜けになっている本棚の部分が、もしかして『サンセット・パーク』だったの、、、?

そうなの?そうなんでしょう?
と手が震えだし、一旦時代小説のコーナーの脇で横になろかと思ったのですが、検索しよう!となり、検索機のあるスペースへ行くと、顔面にA4サイズの紙を貼り付けられた検索機に遭遇した。

あ、そうだよね。
そりゃあそうだよね。と用紙にかかれた文面を読みに行くことなく踵を返し海外文学コーナーへ戻った。

普段なら尻尾を巻いて帰るのだけど諦めきれず、隣の棚で本の整頓をしていた書店員の方に尋ねてみた。

「お調べしますので少々お待ち下さい」

ということで、書店員の方は一旦レジの方へ。
(本屋なんかでよくあるケース、こういう時、どこで待っているのが正解なのか分からず、雰囲気でついていってしまうことがある。なぜかというと、急に声をかけられた書店員がレジに行き、戻って来る時に「あれ?どこの棚で訊かれたっけ?つーか訊いてきたやつどんな人相だったっけ?雑巾を頭にのっけたシワ鼠みたいなやつだった気がする」
などと見失われてしまってら困るからである)

ぼくもなんとなくレジ付近から見える位置で邪魔にならない程度の場所でぼんやりしていると、しばらくして書店員の方がぼくのところへ近づいて来て、

「すみません、ポール・オースターが作家名ですか?本のタイトルですか?」

と聞かれ、
「ポール・オースターが作家名です」と答えると「分かりました」と言ってまたレジへ戻って行った。

ぼくがぼんやりしていた地点からレジにある検索用のPCのある地点まで、何歩あるのかぼくには分からないけど、仮に12歩だとして、その往復した24歩はその書店員の方の生涯、少なくともその月のなかで1番ムダなステップであろうと思った。

サンセット・パークという作家は聞いたことないし、サンセット・パークという作家は『ポール・オースター』という作品を発表するだろうか?と帰る道すがら、

・オースター
・ポール
・パーク
・サンセット

の単語が頭の中をビンビカ飛び回り、パーク・オースターの『サンセット・ポール』になり、ついには、ポーク・サンスターの『オーセット・パール』になった。

『太宰治』を書いたのは斜陽という方ですか?
と尋ねられた様な気分だった。

紳士や悪ガキを通してのオースター氏のパンチラインにノックアウトされて、物語の虜になり、セリフや、比喩表現、心理描写などをパーツごとに分けて作品ごと分解してみようと試みて途中で断念した『ミスター・ヴァーティゴ』とか

登場人物たちの運命の転がる様にハラハラし、紙とインクから紡ぎ出された重厚な絶望に押しつぶされて、どってり疲れパンタリと眠りこんでしまった『偶然の音楽』とか

物語に埋没して、枕にのしかかりながら薄暗闇の中で読書していて、これまた物語の曲がり角で、思わず「オヒャア」と声を出してしまった『リヴァイアサン』とか

ポール・オースターの新作を読める。翻訳されるのを待つ楽しみ。ポール・オースターという作家と同じ時代に生きている喜び幸せ。
その書店員の方にも是非!味わって欲しいな!と傲慢めいた思いつきをその場で肩をつかみ、「読みゃあ!帰りにすぐ買ってかえりゃあ!」と宣告したい欲に駆られた。

結句、紀伊国屋書店の通販から購入し、後日我が家に『サンセット・パーク』は届いた。
どうやら『サンセット・パーク』自体品薄だったらしい。

Amazonだと定価より高い金額で売られていて、う〜ん、なんだかなあ。と天井を仰いだ。

勿体無くてまだ読めてはいないが、手に取り、中を開かず手の腕で転がしたり、匂いを嗅いだりするのにまだとどめている。