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辻󠄀井伸行《楽興の時》サントリーホール

辻󠄀井伸行さんのピアノを聴きに、サントリーホールへ行ってきた。クラシックコンサートなんて物凄く久し振りだ。
先行販売チケットを購入したのが昨年9月だから約半年前。YouTubeで偶然目にした辻󠄀井伸行さんの演奏に釘付けになり、もちろん存在は前から知ってはいたけれど、彼のような天才と同時代に生きていることが奇跡なんだから生演奏を聴かなくては、と突然思い立ち、幸運にも日本でツアーが開催されると知り即購入したのだ。



プログラム


バッハ
フランス組曲第5番ト長調 BWV816

ショパン
即興曲 第1番 変イ長調 作品29
即興曲 第2番 嬰へ長調 作品36
即興曲 第3番 変ト長調作品51
即興曲 第4番 嬰ハ短調 作品66<幻想即興曲>

ラフマニノフ
ヴォカリーズ作品34-14
(リチャードソン編)

楽興の時 作品16
第1番 変口短調(アンダンティーノ)
第2番 変ホ短調(アレグレット)
第3番 ロ短調(アンダンテ・カンタービレ)
第4番 ホ短調(プレスト)
第5番 変二長調(アダージョ・ソステヌート)
第6番 ハ長調(マエストーソ)



半年も待ってる期間があったので、Apple Musicに「予習」という名前のプレイリストを作り、本人の演奏ではないが(ラフマニノフ「楽興の時」は今回のコンサートが初挑戦)プログラムの曲を全曲揃え、折に触れ聴いていた。

プレイリスト
久し振りのサントリーホール
開演前


いよいよ始まった。
予習で聴き慣れた一曲目だが、予習と全然違う(当たり前か)

なんだか柔らかい……
ふわっふわのシフォンケーキに乗っているみたい……

心地良いバッハとショパンに酔いしれる。
前半ラストは有名で人気な「幻想即興曲」。さすがのハートを掴んでくる演奏だ。

20分休憩の後、後半プログラムはラフマニノフ。
予習ではそろそろ眠くなる頃……実際いつもこの辺で寝ていたようである。
しかし!辻󠄀井伸行さんの生演奏はここからがゾーンだった!

演奏が始まると、1階の一番端の席にいた私は身体ごと辻󠄀井伸行さんに向き直り、自ずと全身で聴く体制になった。

彼の指が鍵盤を叩く。ピアノは打楽器。立ち昇る音の粒子がホールに、私に満ちてくる。
ラフマニノフ「楽興の時 作品16」は6曲で構成されている。

調性は最初の4曲が短調をとり、順に、フラット系の変口短調と変ホ短調、シャープ系の口短調とホ短調が4度の関係で組み合わせられ、後の2曲が変ニ長調とハ長調をとる。

プログラムより

短調、短調、短調、短調、長調、長調……これはもう人生である。
短調のラスト第4番 ホ短調(プレスト)を弾き切ったとき、思わず観客席から拍手が沸き起こった。わかる。クラシックコンサートでもこういうライブ感はありだと思う。

32分音符を主として織りなされる濃やかで荘厳なハ長調の終曲が、曲集全体を堂々と締め括る圧巻の構成をとる。

プログラムより

ラスト、暗雲を裂いて天使の梯子が差し込んだ。私の目からは涙が流れる。これがハ長調の力。これが音楽の力。ピアノを愛しピアノに愛された辻󠄀井伸行さんの力だ。



アンコールは4曲


ショパン
ノクターン第20番「遺作」

ラフマニノフ
「鐘」

リムスキー=コルサコフ
(ラフマニノフ編)
熊蜂の飛行

ドビュッシー
雨の庭「版画」より


途中、観客席に向かって立ち、直接肉声で挨拶されて、初挑戦となるラフマニノフについて触れていた。
観客との触れ合いを大切にする辻󠄀井伸行さんらしかった。
最後は「ここまでネ」というお茶目な仕草でピアノの蓋を閉め、客席には笑いが起こり、笑顔で手を振りながら袖に帰っていった。

彼の人柄が伝わってくる、暖かみの残るコンサートだった。



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