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宮尾登美子『きのね』全解説 ①高麗屋 松本幸四郎家

高麗屋から始める訳

 市川団十郎は成田屋なのに、高麗屋?松本幸四郎?と思われた方もいると思います。

 11代目市川団十郎は、7代目松本幸四郎の長男で、市川家に養子に入ったのです。当時、高麗屋には男の子が3人いて、「高麗屋三兄弟」と呼ばれていました。

 このため、『きのね』で最初に出てくる役者は、高麗屋 7代目松本幸四郎一家となります。

 長男が市川家に養子に入り11代目市川団十郎となったため、二男が松本幸四郎を継ぐこととなります。それが、平成30年に親子三代同時襲名(2代目松本白鷗、10代目松本幸四郎、8代目市川染五郎を襲名)で話題となった現松本幸四郎のおじい様。幸四郎の妹が松たか子ですから、松たか子と市川海老蔵はまたいとこ、ということになります。

 松本家は平成30年を遡ること37年前も親子三代同時襲名を行っています。市川団十郎さんや中村勘三郎さんはまだ、お孫さんが小さいうちに亡くなっています。このことを思うと、高麗屋さんの運の良さを感じます。

作中での名前

 作品中の名前は次のように変えてあります。最初が実際の名前、=の後が作中の名前となります。

 屋号 高麗屋(こうらいや)=白木屋(しらぎや)

 11代目市川団十郎の実父 松本幸四郎=竹元宗四郎

 11代目市川団十郎の養子に入る前の名前  松本金太郎=竹元銀次郎 →  松本高麗蔵=竹元桃蔵

  本名 藤間=菊間

「松」を「竹」にしたり、「金」を「銀」にしたり、なんとなくわかるように名前が変えてあります。ただし、屋号については、なぜかな?と思いますよね?これは昔の朝鮮半島の国名に高麗(こうらい)と新羅(しらぎ)があるため、「白木」としたと思われます。

 ちなみにこの小説、作家の檜舞台、朝日新聞朝刊に連載されていたのですが、当時高校生だった私は、屋号があって、本名があって、あだ名があって、芸名があって、その上、襲名で芸名が変わってゆくため、誰が誰だかわからなくなり、読むのを挫折しました。

 ただ一つ覚えているのは、「梨園」の由来の所でした。

 私も、なぜ歌舞伎界の事を「梨園」と呼ぶのか不思議でした。実はこの言葉、由来は中国にありました。楊貴妃に狂ったことで有名な唐の玄宗皇帝が梨の木の下の庭園で自ら俳優の技を教えたことに由来するそうです。不思議ですが、このシーンだけはよく覚えています。

松たか子のお母さんは、悪女小説のヒロインのモデル!?

 話は変わりますが、松たか子さん、綺麗ですよね。それも、その筈お母様の藤間紀子さんは松本白鷗さんと結婚した時、慶応義塾大学出身ということもあって「慶応の薔薇が梨園に嫁いだ」と言われるほど、美しい人でした。

 また、遠藤周作の小説に『悪霊の午後』という作品があります。この作品のヒロインは気品があって美しく、優しげだけど、実は悪魔のような顔を隠し持っているという女性なのですが、その楚々とした美しさを表現するのに「ちょっと歌舞伎の幸四郎(当時)の奥さんに、似てるでしょう。」と登場人物に言わせています。

 藤間紀子さんが「悪女」という訳ではありませんが、小説に登場するほど、人の心を捉える美しさのある人なのだと思います。


 

 

 

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