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相対的に球速の速い、遅い球場 〜四国アイランドリーグplusデータレポート(12月25日週号)


各球場の「球速を読む基準」をまとめておく

今回は今年の取り組みの締めに、2023年のレギュラーシーズンで取得した1球ごとのデータについて、球場ごとの球速の計測状況とデータの偏りを集計しておこうと思います。

投手の場合、まずドラフト会議の候補選手として世間に名前が知れ渡るきっかけは球速の速さでしょう。

NPBのドラフト会議で多くの選手が指名されたこともあり、四国アイランドリーグplusの各球団には2024年も有望な選手が入団を決めています。彼らの多くはまだそれほど有名ではないですが、来季の試合で速い球を投げれば一気にNPB各球団の目に付くことでしょう。

もちろん、球速だけでドラフトにかかるわけではないですが、自分の存在を知ってもらえるという意味では手っ取り早い指標だと感じます。

しかし、上のリンクの記事にもある通り、球場で球速を測る機器の関係などによって、表示される球速は本来選手が持っている能力によるものとは別の要因で偏りやばらつきが発生します。

あらかじめ偏りやばらつきの傾向を把握できれば、プレーする側も評価する側も「球速を読む基準」ができると思うので、今回は2023年のデータをまとめておこうと思います。

※記事執筆前提となるリーグでの自分の役割は、次の記事をご覧ください。

年間41411球のうち、球速が取得できた割合は40.6%

四国アイランドリーグplusでは2023年のレギュラーシーズン公式戦で、41411球が速報用途のデータの合計値として記録されています。

そのうち球速を取得できた球は16818球。全体の40.6%です。

【表1】2023年:球場別球速データ取得率

【表1】2023年:球場別球速データ取得率

球場ごとに球速の取得率を見ると上の表のような状況です。むつみスタジアムや高知市営野球場は試合を多く開催していますが、球速取得率が高くない状況があります。

むつみスタジアムは後述しますが、なぜ高知市営野球場でデータが取得できていないかについては上のnoteに記載していますので、ご確認ください。

使用球場の多さはリーグの特徴で、四国4チームとソフトバンクホークス3軍で行う公式戦を中国、四国、九州の合計29球場で試合が開催していました。

一部本拠地となる球場での球速取得率の低さや開催球場の多さのため、上のリンクにあるようなチームごとに本拠地とそれ以外でパークファクターを分析することが難しく、別の方法で比較することにしました。

対象球場以外での平均球速と、対象球場の球速の差を比較する

今回は個人のストレートを対象に、登板した球場での1球ごとの球速と、その球場以外での年間のその投手の平均球速の差を比較することで、球場ごとの球速の特徴を見ていこうと思います。

【表2】2023年:椎葉剛(徳島)の球場別ストレート投球数、平均球速

【表2】2023年:椎葉剛(徳島)の球場別ストレート投球数、平均球速

集計手法について、具体例を挙げながら説明します。

上の表は阪神タイガースにドラフト2位で指名された椎葉剛(徳島)の球場ごとのストレート投球数、球速取得数、平均球速、最高球速を表しています。

球速の取得数は多くないですが、見ての通り、坊っちゃんスタジアムとレクザムスタジアムやむつみスタジアムでの数値はだいぶ違うことがわかります。

【表3】2023年:椎葉剛(徳島)の球場区分別ストレート平均球速

【表3】2023年:椎葉剛(徳島)の球場区分別ストレート平均球速

この違いを表すため、①対象球場での球速の平均と、②対象球場を除いたときの球速の平均を比較したものが表3です。

例えば、椎葉のストレートが坊っちゃんスタジアムと他の球場でどの程度の球速差があるのかを表す時に、坊っちゃんスタジアムでの球速データと全球場での平均球速ではなく坊っちゃんスタジアムを抜いたデータでの平均球速を比べた方が、純粋に球場間の差を測ることが出来ます。

表3ではこの方法で計算しており、①で対象球場での平均球速、②で対象球場以外での平均球速を算出し、①と②の差を計算しています。「①-②」の列を見ると、例えば椎葉は坊っちゃんスタジアム以外と坊っちゃんスタジアムでのストレートの平均球速に4.6キロの差があるとわかります。

【表4】2023年:球場別ストレート球速の他球場との計測差

【表4】2023年:球場別ストレート球速の他球場との計測差

表3の計算を全投手を対象にし、球場ごとに集計した結果が表4です。

この表は右から2つめの列の「球速の差の平均」の大きい順に並んでいます。ざっくりいうと、相対的に球速の速い球場順に並んでいます

平均球速は投手ごとに大きく異なるので、「対象球場での1球ごとの球速」と「その球を投げた各投手の対象球場以外での平均球速」の差を計算し「球速が計測できた数」「差の平均」「差の標準偏差(ばらつきの大きさ)」を記載しています。差の平均の集計時には各投手の平均の平均を取るということはしておらず、純粋にリーグ全体で計算しています。結果的に投手の球速計測数に応じて重み付けがある状態になっています。

複数球場でストレートが計測されていれるすべての投手を対象としているため、サンプル数の問題で個人の平均球速の信頼度が低い投手も混ざっており、各球場間での差はやや大きめに出ている可能性はあります(ただ、実際に計測数の多い投手に絞って同等のデータ算出しても差の平均はそこまで変わりませんでした)。

この結果からストレートの球速計測数が500球以上ある各球団の主要球場の球速表示の傾向を分類するならば

【球速表示が速め】
・坊っちゃんスタジアム
・レクザムボールパーク丸亀

【平均的】
・タマホーム スタジアム筑後
・高知市営野球場

【球速表示が遅め】
・レクザムスタジアム
・むつみスタジアム

という整理になります。これが今回のひとつの結論です。

また、JAアグリあなんスタジアムやむつみスタジアムでは球速のばらつきが大きいことも気になります。

原因としては前述したサンプル数の問題に加え、

・データが速報値のため、球種に間違いがある(球速の遅い変化球の一部もストレートと記録されてしまっている)こと
・登板タイミングの影響で選手の実際のパフォーマンスに差があった可能性もあること

なども考えられますが、機器の精度の影響もありそうです。特にむつみスタジアムは球速取得率自体が12.8%と低く、球速表示位置の問題で速報のデータとして収集できていない高知市営野球場とは別の精度的な問題があると思われます。

球速を安定して測れる環境はNPBへの道を広げる要素のひとつ

以上、2023年のデータを元に球場ごとの球速の差を見てきました。

近年のNPB各球場では、リリース直後のデータを計測する高性能のドップラーレーダーの計測機器や、画像解析による球速の測定が一般的になっており、どの球場も以前よりは正確に(速めに)球速が出ることが多くなっています

直接の比較はできていないので憶測が入りますが、四国での「平均〜速め」の球場と同程度の球速が一軍の本拠地では表示されていると思われます。坊っちゃんスタジアムやレクザムボールパーク丸亀はNPB基準でもやや速めかもしれませんが、少なくともレクザムスタジアムやむつみスタジアムの球速表示ほど遅いことはないのではないか?と思います。

むつみスタジアムは今年6名(内、投手4名)のドラフト指名選手を輩出した徳島が最も多く試合を行っている球場ですが、もし球速の計測がもう少し速めかつ安定していたならば、早期に各球団の調査対象に入り、指名順位がさらに上がっていた投手がいたかもしれません。

四国の場合、各球場は球団が保有しているわけではないですが、来年以降もNPBのドラフト候補が多く入団している現状を考えると、球場を管理する主体者も巻き込んでなにか方策がないか検討することは全体のメリットに繋がる気がしています。

2023年はRapsodo Stadiumを用いてトラッキングデータを取得する試みを行いましたが、現地でオペレーションをした際には、回転数や変化量などの詳細なデータだけでなく自分が投げた球のRapsodoでの球速を聞きに来る選手も見られていました。

それだけ選手自身も安定した球速データ、NPB基準のデータが気になっている状況ではあったので、来年以降に向けては球速の安定的な収集という課題に対しても、なにか改善のきっかけとなる動きができればと思います。

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