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キッチナー・ウォータールー地域のエコシステムについての解説

こんにちは、Tezzanと申します。もともと自分のブログで書いていたんですが、note のほうが書きやすそうという印象を得たので、こちらに引っ越すことにしました。よろしくお願いします。

管理人は、かれこれ10年ほどカナダの地方都市に住んでます。トロントから西に120kmほど行ったところにある『キッチナー・ウォータールー』というところです。英語で書くと Kitchener-Waterloo。隣のケンブリッジ市もひっくるめて、3市で共同体みたいな形になっているところです。

このキッチナー・ウォータールー地域は、実は北米では結構有名な場所なんです。何で有名かというと、いわゆる IT 産業を中心としたエコシステムが発展しているからなんです。

IT 産業でエコシステムというとシリコンバレーが有名ですよね。キッチナー・ウォータールー地域も新しいエコシステムとして盛り上がってきているので、日本の皆さんにそのことをお伝えしようと思って記事にしてみました。

KW はエコシステムの要素が揃ってる

ここからは、キッチナー・ウォータールーのことを KW と略しますね。実際、地元の人たちも自分たちの街のことを『KW 地域』などと言ったりしますので。

この地域、実はスタートアップ含めて起業支援から発展・進化するためのエコシステム基本要素がすべて揃っています。その基本要素がどんなものなのかをひとつずつ紹介してみます。

なお、KW 地区は最初からスタートアップ支援等のインフラやエコシステムが整っていたかというとそういうわけではありません。また、行政が主導してエコシステム構築に動いてきたかというと必ずしもそうではない側面もあります。これはシリコンバレー含めてスタートアップエコシステムのほとんどがそういう経路を辿っているものだと思います。

KW 地区においては、1990年代の後半から2000年代初頭にかけて、徐々にエコシステム構築のためのインフラと基本部品が揃ってきた歴史があります。その後、それら部品の連携やコミュニティの発展が生み出した結果があります。

以下、エコシステム構築にあたってもっとも重要な4要素について私見ながら解説してみます。

要素1:大学・研究機関

あえて要素の1番目として持ってきましたが、やはりスタートアップの原点は大学内での研究活動などから生まれていることが多いものと思います。少なくとも KW 地区において、多くはウォータールー大学の基礎研究・応用研究を原点として持っている技術が非常に多いです。

エコシステム構築の原点としての大学という役割と同時に、大学(教育機関)はやはり人材を生み出すという観点でも非常に重要ですよね。エコシステムの中で文字通り『血』となって流れ出しエネルギーを生み出すものは、とどのつまりヒトだと思います。エコシステムの原点となる技術を生み出すのもヒトであれば、その技術を発展させたりサービスを加速させるのもヒトなわけです。

ウォータールー大学の特徴などについてはこちらの投稿にまとめてありますので、ご覧ください。

実際、KW 地区でいうと、メインのウォータールー大学のみならず、ウィルフレッド・ローリエ(Wilfrid Laurier)大学コネストガ・カレッジなど、実務教育や再教育のためのインフラも揃っていることは意義深いです。人間、いくつになっても学べる姿勢を持っていることが大事だということを、この地域にいると常々感じます。

要素2:支援組織

KW 地域では『Communitech』と呼ばれる支援組織を中心にしてエコシステムが発展してきた経緯があります。これらの活動はさらに発展・進化しており、2020年初頭現在では、Communitech のみならず以下のような形でいくつか細分化された支援組織が出来上がってきています:

Velocity
ウォータールー大学発のスタートアップ支援(インキュベーション)組織。なお、インキュベーション前の企業を支援するプログラム『Concept』も最近ローンチされている。

Accelerator Centre
大学に限定せず KW 地区での起業直後のスタートアップ支援組織

Communitech
最近はインキュベーション(起業支援)よりもスケールアップや大企業・中小起業とのイノベーション創出支援に注力

Catalyst 137
IoT やデジタルマニュファクチュアリングなどに特化した、コワーキング及びイベントハブ

WaterlooEDC
KW 地区の経済開発公社。KW 地区への進出企業に対するオフィススペースに関する相談から、従業員の居住環境や、投融資・税制面の優遇措置などの支援も含めて相談可能な公社。

手前味噌ですが、KW 地区でこのあたりの組織・団体、そして人の繋がりや経済の流れを把握している日本人は管理人です。もし KW 地域での業務展開や人材獲得などに興味ありましたらお気軽に相談ください!

要素3:大企業

エコシステム構築の際、実は欠かせないのは大企業というスポンサー。2000年代初頭頃、KW 地区で大企業といえば、ブラックベリー(BlackBerry)で有名だった RIM 社(Research In Motion、現 BlackBerry 社)でした。管理人がはじめてウォータールーに来た2003年頃は、すでに企業向け携帯電話市場で圧倒的存在感を誇っており、ガラケー持ちの日本人のワタクシは、小さなキーボード付きブラックベリーを持つ大柄なカナダ人を不思議に眺めておりました。

2010年に管理人たちがウォータールーへ移住した当初でも、家電店に行けば「RIMで職を得たの?」と聞かれ、スーパーでも(日本人とわかると)「RIM?それともトヨタ?」と聞かれるほど有名企業だったわけです。

その後、iPhone や Android 含めたスマホの登場によりその役目を終えた RIM 改め BlackBerry 社ですが、大幅なリストラを経て現在はセキュリティソフトウェア&サービスの会社へときちんと生まれ変わっていることはすごいことです。なお、KW 地区には元 RIM 社従業員だった人間がたくさんいます。エコシステム構築において、企業の成長〜収斂〜再構築を経験している人材がいるというのは実は非常に重要な点とも言えます。やはりその過程でのノウハウって、普通に存在しているものじゃないですからね。

RIM 社同様に存在感ある KW 地区の大企業というと、OpenText 社があります。買収を繰り返してきていて、いまや12,000名を超える大企業になった OpenText 社の本社は Waterloo に拠点を構えています。同様にエンタープライズ分野でいうと、Manulife や Sun Life Financial などの保険関連企業も KW 地区では存在感が大きいです。彼らは KW 地区において、保険商品の開発のみならず IT 技術&サービスへの投資を活発化させています。

そして、現在もっとも KW 地区で存在感を発揮している大企業というと、Google です。2000年代はじめ頃からウォータールー大学との連携は進めていて、当初大学の外部キャンパスにあったオフィスをキッチナーの中心部に移して人員も拡大。最近では北米の技術開発本部としてさらに人員拡大を図り、Communitech 含めて地域経済への貢献も率先して進めています。

これら大企業が直接、間接な形で新興企業を生み出し、ある時は買収し、ある時は育て上げていく、という仕組みのあることがエコシステム構築の源泉でもあると思います。

なお、KW 地域では次のユニコーンとなる噂のある企業4社が存在しています。元大企業経験者、若手のみならずシリアル起業家、そして豊富な知識を持ったベテラン技術者が KW に揃うことで、さらなるイノベーション創出が生まれるという好循環が、エコシステムをさらに強固にする流れになっているわけです。

要素4:ヒトとコミュニティ

管理人が実は不思議に思っているのが最後の要素である「ヒト」であり「コミュニティ」です。

いま現在、KW はとっても住みやすいと思います。トロントのように住宅価格も高騰しておらず(確実に住宅価格は上昇してますが)、物価も緩やかな上昇基調。

そしてマルチカルチャーを謳うカナダを体現するほどの多様性を享受できるコミュニティやイベントがいろいろあります。

管理人は家族持ちですので、子供や家族が過ごしやすいことが一番の重要要素として考えるわけで、その観点では KW 地区は本当に素晴らしい場所という思いです。(ほどよく田舎でありつつ、都会への近さもある)

一方、若手(20代〜30代半ば)にとってはいろいろな意見があります。正直言って、KW 地区ではトロントほどの娯楽があるわけでもなく、またエンターテインメントも限られているのが実情です。

それもあって、管理人がこれまでに知っているいくつかのスタートアップの中には、事業が軌道に乗り始める前にトロントやミシサガなどの都会地域へと拠点を移す、という事例もたまに見聞きします。

KW 地区の人口は確実に増えてきているので、今後はこの地域においても幅広い年代の人材に住みやすい&魅力ある街として認識してもらう必要性もあるかもしれません。

結論:KW 地区のエコシステムは発展中

以上、簡単ではありますが、可能な限り最新、平易かつ包括的に KW 地区のエコシステムをまとめてみました。現地に住む日本人だからこそ、日々変化する KW エコシステムの近くで感じる変化を楽しく見つめています。ぜひこの変化をもっと多くの日本人・アジア人に感じてもらいたいところです。


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