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無事千字 二〇二四年五月九日 女将の所作も酒のアテになることがある

 先日のGW前半にちょっくら札幌を離れ、帯広へ行ったときのこと。まったく土地勘の無い僕は、友人たちから地元グルメ情報を募った。といっても、着いて食べに行く段階で聞いたもんだから、GWの初日ということもあって、どこもお客さんでいっぱい。

 街中を彷徨っていたら、お店の佇まいにグッドバイブスをびんびん感じる炉端焼きの店に出くわした。帯広が肉や乳製品の名産であるのは承知の上だが迷わず暖簾をくぐった。

 そのお店「炉ばた 魚千」は15人ほど座れるカウンター席はいっぱいで、唯一空いていた小上がりに通された。

 店内はカウンターの中が完全なオープンキッチンスタイル。料理人の姿を眺めながらいただくのが好きな僕は、カウンター席がいいなぁと思っていたら、1杯めのビールが来た頃にカウンターの二席が空いた。

 調理全般を取り仕切る女将と、ホールと調理のサポートをする女性二名で切り盛りしているお店はみな忙しく動いていて、空いたカウンター席に移動したいことを誰に伝えようか?とカウンターに目を向けると、女将がすぐに気づいて席を用意してくれた。

 案内された席は、J字形のカウンターのJの縦棒の真ん中に近いあたりだった。調理場全体を見渡せるから、僕にとっては最高のポジションだ。

 炭火の上に網が敷かれた焼き場は調理場のど真ん中にあって、女将は注文の入った魚や野菜の焼き加減を気にしながら、その他の調理も同時進行していた。

 カウンターの上には焼き物用の魚や野菜がざるの上に載せられ並んでいて、僕らはぎんむつのカマを注文した。

 確かメニュー表にある魚類はほとんどが時価と書かれていて、いささかビビったけれど、値段をたずねると、魚はサイズがまちまちなので、人数やこちらの腹の空き具合を聞いて、これだったらいくらと教えてくれるスタイルだった。

 そんな経験がなかったから、その心遣いにぐっときた。ほかにもいくつかの料理を注文したのだけれど、真っ先に女将が出してきたのは頼んでいない漬物の盛り合わせ。

 「魚は時間かかるから、これ食べてて。山わさびは食べられる?」

 「だ、大丈夫です。食べられます」と答えると、サービスとは思えないボリュームの漬物盛り合わせの上に、すりおろしたばかりの山わさびが添えられた。早くも心遣いにぐっときたパート2。

 トイレに入ると、名刺やお礼の手紙が壁いっぱいに貼られている。正面には名優 緒形拳と女将の2ショット写真。こりゃもう間違いない店!と確信した。

 そこからの僕は女将の一挙手一投足に釘づけ。もちろん、横にいる彼女と話しながら酒を飲み、料理を口に運んでいたけれど、女将の働く姿が一番の酒のアテだったかもしれない。

 注文の入った魚や野菜の焼き加減を見ながら、僕らが頼んだ手作りコロッケを揚げているフライヤーにも目を配り、合間にそばも茹でる女将。

 ちょっとテンポの悪いスタッフのグラスを洗う様子にも目をやり、お客には聞こえない程度の声でたしなめたりもしている。

 洗い終えたグラスを手早く冷蔵庫にしまうのも女将。かと思えば、小上がりの客には「なに?注文?」てな具合に声をかけ、カウンターでとろろご飯を食べている客にはとろろを足してやったりもしている。

 とにかくすべての客に気を配りながら、店内業務のほとんどをこともなげにこなす。その姿にぐっとくるを超えて惚れ惚れとすらした。

 帯広では名物の豚丼やホルモンジンギスカン、インデアンカレーも堪能したけれど、もし、また訪れる機会があれば外せない店のひとつになった。

 最後に、ここで焼酎やハイボールなどの割りものを頼むととにかく濃い。途中から「薄めで…」と頼んでも、女将、スタッフの誰が作ろうとも、ほかの店なら濃いめレベル。

 美味しい料理と女将の所作で、間違いなく酒が進むけれど、飲み過ぎにはかなり注意が必要なお店ではある。


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