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【大学入試共通テスト】何が変わる?どう変わる?対策は?【英語・数学・国語・理科】

はじめに

2019年の4月4日に大学入試センターが,第二回となる大学入試共通テストの試行調査についてのレポートを公開しました.現状の大学入試における1段階選抜過程を担っているセンター試験の後釜として,2021年度入学の大学生から実施されることが決まっている試験となります.過去の共通一次試験からセンター試験に移行して以来の大きな試験改革となるので,受験生だけでなく,受験にこれまで関与してきた様々な方々の間でも話題となっているところです.例に漏れず,私もその一員で,今回はそのレポートとその際に実施された試験問題を眺めながら,思うこと,対策すべきことなどを書き綴っていきたいと思います.

この問題については様々な意見があり,多くは試験改革について否定的なものであると認識しています.この記事は,大学入試センターに対する批判では一切なく,『どう変わるのか』,『どう対策していくべきか』といった部分にフォーカスして記します.

対象としている読者

新高校2年生,および新高校2年生を指導している塾講師の方々や家庭教師をされている先生.保護者様に読んでいただきたい記事です.

お時間のない方は,科目部分だけの流し読みでも構いません.全部で15000文字ぐらいの記事です.

自己紹介

私の簡単な自己紹介をしておきます.現在,東京大学の大学院の修士課程に通っています.大学入学以来,アルバイトとして塾講師を続けており,講師経験としても6年間ほどになります.様々な受験生を担当してきたこともあり,国公立の二次試験をはじめ,センター試験や私大の一般試験などについてもフォローをしてきた経験があります.今までの指導方針だと,来たる大学入試共通テストに対応できないと思い,この試験改革についてアンテナを張っていました.

現行のセンター試験との相違点について

まずは,現行のセンター試験との相違点から見ていきましょう.
1. 選択式の問題から記述を含む問題へ
2. 英語の試験における4技能の導入
3. 出題方式の見直しと改善
4. 採点官の設置
大きな変更点は以上の通りです.

選択式の問題から記述を含む問題へ

1番の変更点として認識されていることですが,新制度の試験からは完全マーク式だった従来のシステムから,一部,記述回答を伴うようなスタイルに変更になると公表されています.国語と数学1Aについて導入されます.具体的な問題とそれに対しての基準などは後に説明しますが,どちらについても3問程度が記述式の問題となっており,国語については短い回答が必要な問題が2問,80字~120字程度で記述するものが1問という構成で,数学については文章を数学的に書き表す問題が1問,回答を記入する問題が2問という構成で,問題解決までの途中式を求められるタイプではありませんでした.

また,記述問題が出題される2科目については,試験時間も見直されており,国語が100分(従来は80分)に,数学1Aが70分(従来は60分)に変更となっています.

英語の試験における4技能の導入

TOEICやTOEFLといった外部試験を利用した方式で点数に変換するという方式の導入が検討されていると言われています.しかし,今回の試行調査ではどういった試験が導入されるかの明言はされず,以下のような表現になっています.

①英語の資格・検定試験の活用も含め,四技能を評価する別の枠組みが設けられる方針であることを踏まえ,発音,アクセント,語句整序の問題は出題せず,「読むこと」の力を把握することを目的とした問題構成とし,

これより,英語の特に発音やアクセントについては.選択問題としてではなく,実際にSpeakingのテストとして計ろうとしている様子が読み取れます.この点から見ても,センター試験の対策と今後の対策についてはかなり方針が変わってくるような雰囲気が感じ取れます.具体的には,いわゆる単語・文法偏重の詰め込み型の勉強から,長文を理解し,短時間に適当な選択肢を選ぶような練習が従来以上に必要となってくるでしょう.

また,同じ段落に次のような記載もありました.

多くの資格・検定試験で各技能の配点が均等となっている状況を踏まえ,今回の試行調査では,「筆記(リーディング)」「リスニング」の配点を均等として実施,検証を行った.その際,センター試験と比べ「リスニング」の設問数を増やして実施した.

記述式に変わるというところに大きな注目が集まっていますが,このリスニングの比重が従来の20%から50%に変わるというところについても決して無視ができない要素といえるでしょう.

出題方式の見直しと改善

今回の試行調査では,「正答となる選択肢の個数がわからない問題」が出題されています.この点については,受験に関わる人間としては無視できない点です.従来だと,正答の個数は必ず明記されており,それぞれの回答を順不同で記入するという問題が,数学や国語をはじめとして存在しましたが,大学入試センターは,「正答となる選択肢の個数がわからない問題」の出題に大きなメリットを感じているようで,次のような考察をしています.

当てはまる選択肢を全て選択する問題では,これまでの択一式では十分に問うことができなかった資質・能力を問うことができるメリットがある.

今回の試行調査の中では,試験的に同じマーク欄に複数の回答を書かせる問題があり(数学1Aなど),その結果として顕出した問題なのでしょうが,同一の解答欄に複数のマークがあると従来の採点形式からして正確に採点できない可能性があるとして,工夫を凝らした出題になる旨の解説がありました.その中で,画一的なパターンになることを避けたいという点も記載されており,次のようなパターンだけであるとは限らないという注意書きのもとで,
① 『この条件を満たす回答は全部で ア 個あり,その中でもっとも数値が大きいものは イ ,もっとも小さいものは ウ .』
② 『この条件を満たす回答は,⓪1, 3, 4, 5,①1, 3, 5,②1, 4, 5,③1, 2, 3, 4, 5 である.』
というような出題の仕方が検討されているようです.

採点官の設置

そして,今回からは記述式の試験の導入に伴い,外部業者の採点官が採点を担当することが示されています.試行テストではベネッセが引き受けているとし,内部テストに合格した大学院生や塾講師が採点を担当しているとされていましたが,本番でも同様に外部業者による採点が行われるとされています.民間の模擬試験などの採点(正確性はあまり重要でない)に比べて,大学入試という非常に高い正確性を要求される試験の採点に同様の採点官を採用していいのかという問題があります.特に,国語の記述採点については,かなり採点官の裁量に委ねられる部分があり,不安・心配は拭えない点です.

採点基準について記載はされていますが,次の通りの記述でした.

正答の条件として示したもの
① 字数以内で書かれていること.
② A あるいは,Bということが書かれていること.
③ C または,Dということが書かれていること.
※正答の条件を満たしているかどうか判断ができない誤字・脱字があった場合は,条件を満たしていないこととなる.

基本的には要素採点ということになっており,例えばAがCであること.が答えな場合に,AによってCになること.と回答した場合にどういった点数がつくのか,などは採点官の裁量によるのではないかと推測せざるをえない部分が残っています.

また,※で記されている部分については,いくつかの例示もされていました.コミュニケーションをコシュニケーションと誤字をするパターンや送り仮名の脱字,共有を供有と誤字をするパターンなどについては,正答の条件を満たしていないとまでは言えない例とされています.しかし,例えば脱字によって文字制限を満たした場合にどういう扱いになるのかまでは記載されておらず,まだまだ採点基準に関しては更新が必要なんだろうなと思える部分が残っている印象です.

概ね,以上の4点が試験改革にあたって,受験生や受験に関与する方々が知っておかなくてはならない点でしょう.

試行調査で使われた問題について

試行調査において出題された問題を軽く解きながら,より詳しい相違点や気づいた箇所についてまとめていきます.もともと,私の守備範囲が理系側の科目ですので,今回対象とするのは,
① 数学
② 国語
③ 英語
④ 化学
⑤ 物理
⑥ 地学
の6教科7科目とします.

(※更新する時間と有識者がいれば追記を検討します.)

数学1Aについて

まずは,解いてみた感想ですが,一番感じたことは『読解にかかる時間が無視できない』ということです.全ての設問についてストーリー立てて構成されているので,初見で見るとどこに設問があり,何を問われているのかを掴むのに時間を要する部分が否めません.

出題5題のうち,1,2番が全員必答で,3,4,5番から2題選択というシステムは変わっていません.70分という時間設定もある程度妥当でしょう.

計算自体は,従来の数学1A通りそこまで複雑ではなく,むしろ,二次関数の範囲に至っては頂点の計算や解の配置といった問題がなかった分計算コストは下がったように思います.一方で,表計算ソフトのようなテーマで出題されている問題や,階段のステップの長さを問う問題などについて顕著なのですが,全ての問題のテーマに具体性があるので,導入で躓く受験生がいてもおかしくありません.日頃から,『数学がどう使われているのか』を考えていないと不意をつかれるような構成でした.

『思考力を問う』というテーマがあるようですが,解いていた感触はむしろ以前にも増して誘導に対する理解を要する部分が多くありました.テーマ自体には,思考力を対象にしているという意図は感じるものの,そこに至るプロセスを空欄にして問うている側面は依然残っているからでしょうか.

従来のセンター試験で満点を取れるレベルの人たちにとって出題形式の変更が障害となることはなさそうです.しかし,時間をギリギリ使って最後は多少勘に頼るといった解き方をしてきた人たちにとっては,大きく点数を下げるような試験構成になっていると感じます.実際の点数構成についても,今回発表された資料の中にあったので,そちらをご覧になるといいかと思います.もちろん,母集団のレベルが違うためセンターと純粋な比較はできませんが.

[記述問題について]

今回記述として問われたのは,必答部分から3問です.

( 1 ) 集合と要素の文章を記号で書き直すもの.
こちらは,2018年数学1Aに引き続き,『{}と∈,⊃』といった記号の意味が理解できているかを問う問題でした.
( 2 ) 階段の踏み台の長さを不等式で答えさせる問題
こちらは,多少の引っ掛けがあり,問題文だけでなく,なぜその不等式が必要かまでを理解した上で図の中から数値を引っ張らないと正答にたどり着けない問題でした.
( 3 ) 面積の時間変化を問う問題
計算の結果,すべて関数が同じ形をしていることを確認し,それを数学的に正しい答えの書き方をさせる問題でした.

いずれも,『思考力を問うため』というよりは,『マーク試験対策封じ』といったニュアンスが強い問題群だったような感じがします.

記述式として問われている問題の難易度は極めて低く,教科書の演習問題程度のレベルですが,それを自分で構築する能力まで問われるようになったというべきでしょうか.

[対策について]

数学1A対策としては,記述の対策を考えたくなりますが,問題の難しさはむしろ,どんな問題集にも掲載されていないようなテーマ設定にあると言えそうです.問題集を解くだけでなく,それを日常に応用するような考え方を実践するというところが大学入試センターが求めている像なのでしょう.問題集ライクな問題から,教科書ライクな問題に傾向がうつったとも言えるかもしれません.それぞれの単元の学習にある程度のストーリー性を持たせる練習を積んでいくべきでしょう.

数学2Bについて

解いてみた感想は,『難しい...』でした.センターと同様の対策でこの問題に挑むと,かなり躓くところが多いんじゃないかなという印象です.まだ試行調査の段階なので,データが蓄積され,要領が定まってくれば安定するんでしょうが,このレベルの問題群だと,毎回の難易度の安定は非常に難しいでしょう.

形式は,5問構成で,1,2が必答3,4,5が選択問題で第3問に確率分布の問題がはいっているところだけ,今までと異なりますが,基本的な姿勢はセンター試験同様です.

数学1A同様に,会話文などでテーマが与えられ,それについて一つ一つ回答していくような形ですが,従来簡単な計算問題程度であった,指数対数からは,対数ものさしの問題が出題されていました.細かい部分は正直どうでもよく,いままで通りなのですが,今回もっとも頭を悩ませてくるのが,

次の⓪〜⑤のうちからすべて選べ.

というパターンです.前章において,答案読み取りの問題から本番で出題される見込みは低そうですが(使用技術ごと変わる可能性は残っています),選ばなくてはならない答案の個数がわからないのは厄介です.特に,対数ものさしの問題については,『与えられた3つのものさしで測ることができるパターンは次のうちどれか』という,まさに指数対数の本質的な理解と,それに基づいた指数対数の利用経験がないと直感で選ぶほかないといっても過言ではないでしょう.このレベルの対策をしようとすると,付け焼き刃では厳しそうです.

漸化式の問題が出題されている点も要注意です.解き方については完全にフォローがあるので,その場で対応できないこともないでしょうが,最後の一問は誘導を踏まえた上で,同じことを再現するという問題でかなり時間を割くことになるでしょう.

このレベルの問題だと,従来の問題で満点が取れていた層も,よっぽど上位層でない限り,満点の戦いはできないでしょう.実際に,統計をみても公表されている最高点は95点でした.今までをパターンで取り組んでいた受験者層にとっては大変です.

ただし,大学入試センター側も,この試験の結果から数学2Bの問題の難易度をあげすぎたことを自覚しているようで,テーマを与えた読解が必要なタイプの問題は,1問程度に抑えるということを検討しているとの記述がありました.今後の問題形式を考えても,おそらくこの試行調査の問題は最高峰の難易度を誇ると考えて良さそうです.

[対策について]

ベクトルと数列についての難易度はさほど上がっていないので,センター対策が使える部分は多分にあると思います.一方で,従来のような定積分の値を求める問題がなかったように,序盤の必答問題については,従来以上にそれらが使われるシーンにフォーカスした学習が必要になるでしょう.例えば,対数ものさしについては,せめて対数メモリの方眼紙を扱ったことがあればイメージはつけやすかったでしょう.

また,線型計画法の話がまるまる出題されたのも面白い点です.誘導こそ多いものの,格子点を求める問題など実際に手を動かしてみないと答えが定まらない問題も出てきており,『センター対策』が効かない部分については,やはり日頃から記述式レベルの問題に触れる必要がありそうですね.

国語について

数学ほど自信がある部分ではないので,ここに記すのは形式的な部分がほとんどになります.ご了承ください.

まずは,出題形式ですが,大きく変更されています.

第一問 二つの関連する文章が前提として与えられ,記述3題に取り組む形になります.
第二問 著作権に関わる問題でした.著作権法の条文の一部やポスター,また著作権について書かれた著作から,出題されています,従来の評論問題に比べて,具体性が高いことと,文章の他にいくつかの表が提示されており,整理がつきやすいことから,取り組みやすい問題になっています.一方で,たくさんの資料を同時に処理しなくてはならない点は,また別のスキルが求められているように感じます.『合致するような例は次のうちどれか』というタイプの出題もあまり見ないものなので元々の問題文の具体性・とっつきやすさが増しても,その中で抽象的な部分を具体例に昇華する力は求められているようです.
第三問 意外だったのが,詩とエッセイからの出題だったことです.同じ著者による別々の著作を元に,どちらかというと従来の評論に近いような問題が出題されています.
第四問 古文の出題です.形式という点で,基本的には従来と大きな変更点はありません.ただし,設問の中で,先生と生徒の会話シーンから適当なセリフを選ぶという問題があり,コミュニケーションの中から,話の理解・推測を要求されるようになっています.このタイプの問題を苦手とする受験生が意外と多そうである一方で,本文の理解の足しにもなるようなヒントが隠されているとも解釈できそうです.この辺りの設問をどのように使うのかが,受験におけるテクニックになりそうな気配を感じました.
第五問 漢文の出題です.これも古文同様にコミュニケーションタイプの問題が出題されていた部分以外については目立った変更点はありませんでした.

形式が大きく変わり,記述問題を含むようになった国語ですが,試験時間が20分のび,比較的時間に余裕ができたように感じます.とは言え,記述対策をしていないと難しいような問題も出題されていますし,読まなくてはならない文章の量も増えています.従来的な徹底的に傍線部を理解・解釈していくという解き方から,どちらかというと,スムーズに様々な文章の大雑把な部分を理解した上で,必要箇所を深めていくという解き方が要求されそうですね.

[対策について]

古文・漢文の対策は従来通りで構わないでしょう.出題内容も形式もそう大きな変更ではありません.一方で,現代文については,おそらく従来のセンター試験の過去問は参考にならないと思います.(参考にできるレベルの受験生はすでに十分に国語力がたかそうという意味です.)いい参考書が現時点で存在していないように思います.

むしろ,国家公務員の試験や,大学院の入学試験などで問われているようなことを簡単化したような問題だったりするので,意欲のある方は,そういったところを見ると参考になるのかもしれません.

英語について

内容の難易についての議論はここでは置いておきます.形式や対策についての話を進めていきます.

まず,形式ですが,今回の試行調査では前章でも述べたように『発音・文法・アクセント・語句整序』が全てなくなりました.したがって,第1問のAからいきなり読解問題になっています.内容としては,従来だと第3問あたりで出題されていた,ポスター・手紙・Webサイトなどから情報を拾う問題が第1問から第3問まで,中問にして6題出題されています.会話文の中に一つ回答を補うタイプの最近頻繁に出題されていた形式は出題されていませんでした.

第4問,第5問,第6問については従来通りの問題が出題されています.グラフを交えた問題,ポスターなどを交えた問題,評論的な内容の長文読解です.

今回気になったところは,例に違わず,

(You may choose more than one options.)

という注釈がついた問題が出題されていることです.選択肢が国語や数学に比べて単純なので,特別に難易度が上がっている箇所という様子ではありませんが,精密に理解しておかないと,問題文や選択肢によっては非常に困る部分になりうる出題形式です.

また,

The other team will oppose the debate topic. In the article, one opinion(not a fact) helpful for that team is that __________ .

という設問がありました.設問の中で,明確に"opinion"と"fact"が区別されています.従来の問題で難なく解いていた層にとっては難しくなった訳ではありませんが,「なんとなく」解いていた層にとっては,意見と事実を区別して読解し,かつ議論に整合性のある意見を選択肢なくてはならないというのは難しくなったと感じる部分なのかもしれません.

全体的に,今までの問題で満点に近い点数をとっていた層にとっては,単語やアクセントというむしろ細かく落としかねなかった問題が排除されたことによって,点数をとりやすく感じるかもしれません.一方で,単語や熟語などにフォーカスをした学習を続けてきた層にとっては,これまで以上に長文のトレーニングが必須となってくるでしょう.

また,リスニングが大きく変更になりました.具体的には,
1. 問題数が増えた
2. 問題文を読む回数が変わった.
という点です.

まず,前章でも述べた通り,検定試験や資格試験などで,多くリスニングと読解が1:1で点数化されていることから,この試験でもリスニングの比重をあげたという記載がありました.

次に,問題によって英文を一回だけ読まれるもの,二回読まれるものにわかれて存在するようです.(ここについては,各試験実施大学から様々な意見が出ているようで,変更の可能性は残っていますが,おそらく試験前に詳しいアナウンスが入るような工夫がなされると思います.)

レポートの中に,興味深い記述が存在しており,

現実に英語を使う場面に照らした適切な読み上げ回数のあり方が検討されてきたところであり,全く同じスクリプトを2回読むことが適切か,一つのスクリプトの中で重要な情報に関しては形を変えて,複数回言及するなど,余剰性のある英語を1回だけ読むことが適切かといった議論がなされてきた.

とある通り,余剰性という点で難易度を調整するようにしたリスニング問題が増える可能性がありそうです.

[対策について]

この変更だと,読解問題についてはセンター試験の過去問が有効なように思えます.もともと,非常に練られた問題として有名だったので,その辺りが継続している点は安心感があります.文法や語句整序がなくなったので,ある種小手先的な対策では対応できなくなっている節はありますが,長文読解の練習を積んだ後,センター試験の過去問の主に第3問以降に向き合ってみるのがいい方法ではないでしょうか.

化学について

出題形式や問われ方について特筆すべきような変更点はありませんでした.今まで通り,複数の選択肢の組み合わせを選ぶ問題や,誤りを含むものを指摘するといった内容の問題も健在です.

内容として気になった部分は,
1. グラフや対数表から数値を探すような問題が出題されていること.
2. 失敗を含んだ実験の様子から成功に到るまでの過程を考えるようなテーマの出題があった.
の二つでした.

化学の試験では,センターに限らず,参考になる対数の値をあらかじめ提示するタイプの問題が多かったのですが,対数表を読まなくてはならない出題がありました.当然,基本的な対数計算は学習した上で試験に挑むのでしょうが,対数表の出題があり得るとすると,pHまわりの計算をはじめ,様々な応用が考えられそうです.

また,失敗を含む実験の経過を紐解いていくタイプの問題が出題されています.類似のものとして,図書館で資料を調査したというテーマの出題もされており,『実際に化学の実験・調査をする』というところにフォーカスしているようです.

それ以外にも,出汁をテーマとしたアミノ酸からの詳細な出題があったり,小問集合でガスボンベをテーマとした問題があったりと,やや例年のセンター試験に比べて具体的な例を用いている印象はあるものの,別段,そういった部分に関する知識を必要とするものもないので,従来通りの学習で問題なく対応できそうです.

[対策について]

従来のセンター試験から大きく変わっているところはありません.先に述べたような気になるところはあるのですが,一般的な教科書傍用の問題集で対応できるような部分ですので,二次試験や私大の一般試験で化学を使うべく学習している受験生にとっては,そう難しさを感じないような問題だと思います.どちらかというと,センター試験に少ない割合で存在していた重箱の隅をつくような知識問題も今回の試行調査では出題されていなかったので,とっつきやすくなったと言えるかもしれません.

物理について

出題の形式は大きく変わらないものの,問われ方については,『日本語での説明』に特化した問題が数問出題されている点は気になりました.

2015年度から理科科目が基礎と無印にわかれ,その際にどの科目もより高度な内容を問われるようになりましたが,それ以降の傾向はそのまま引き継いでいるといって問題はなさそうです.


熱力学の分野での出題でしたが,断熱変化や等温変化,仕事と熱の吸収などについて,何となくではなく自分で何をしているかを説明できる程度には理解しておく必要がありそうです.(当然といえば当然ですが.)

選択問題ではなく,必答問題に水素原子のボーア模型の話が出題されいています.原子物理に該当する範囲は,扱いがこれまで微妙でしたが,試行調査で出題されている以上,2021年度からは原子物理の範囲も網羅しておくべきでしょう.また,この問題では,数学科目のような数字の問われ方をしており,物理でこのような問われ方が起こり始めると,今後はより複雑な計算問題が出題される可能性は否めません.

上記の2問に関しては,いずれも正答率が10%を切るような設問だったようです.

また,撃力の値を概算させる問題が出題されています.基本的に,短時間の間に受けた運動量についての問題(撃力)や,加えられた力が時間変化するタイプの運動量についての問題は,微分・積分の計算が必要とされ,一部の大学の二次試験などでわずかに出題される程度ですが,今回の試行調査ではその概念を問うような問題が出題されました.当然,誘導はついているものの,二次曲線と軸の間の面積を三角形近似して計算する問題については,初見で見たときに戸惑う受験生も多いのではないでしょうか.こちらの問題も,生徒同士の会話から実験を組み立てていくタイプの出題になっています.

全体的に,小問集合が難しく第2問以降は安定的に取れるという従来の傾向からは大きく外れていませんが,与えられた数値だけで計算して何択かに絞る,といったテクニックが通用しないようなセットとなっていることは間違いありません.物理についても,当てはまるものを全て選びなさいというタイプの出題がされており,正答率はかなり低くなっています.

とはいえ,二次試験や一般受験の対策をしている人たちにとっては,電気や波の部分の細かい向きの問題などが比較的少なくなり,計算問題が増えたことからとっつきやすくなったとも言えるかもしれません.

[対策について]

化学に比べると,変わった印象が大きい物理ですが,基本的な対策は従来までと変わらないでしょう.また,2015年以降のセンター試験物理の問題は練習問題として最適だと思います.ただ,それだけではなく,物理特有の用語の理解や,「何となくわかる」を「説明できる」という程度にまで深ぼって学んでいく姿勢が必要とされるでしょう.

地学について

センター試験においても無印の地学を受験している層は一部のマニアック勢のみなので,この部分はいかなる読者にとっても不要となるかもしれませんが,一応私がもともとこちらのマニアック側だったので,簡単に取り上げようと思います.

地学の得点分布表だけは,スッカスカだったので,おそらく統計情報はあてにならないと考えていいでしょう.また,おそらくこの程度の問題をクリアできる地学ガチ勢と言われている方々の中には,敢えて地学を選択しない(受験できる大学がかなり限られる)方もいらっしゃるようなので,本当に参考にならないでしょう.

さて,問題のセットですが,地学の範囲のメジャーな部分が網羅的に出題されており,二次試験レベルの問題に触れたことがある受験生にとっては,基本知識と考える部分も多かったと思います.とはいえ,マーク試験で出題される内容としては高度だったと捉えられるかもしれません.

いくつかのテーマをあげると,VLBIで測定したつくば市とハワイの距離の年代変化についてのグラフの問題が出題されていましたが,東北地方太平洋沖地震に関するヒントがなければ,パッと海洋プレートの沈み込みと海溝付近での歪みの解放の話だと理解するのに時間がかかった方がいるかもしれません.

クリノメーターの読み方や,ルートマップと特定の地点の地層の様子から他の地点での地層を推定する問題は,二次試験などではおなじみですが,正答率は低かったようです.

ともかく,サンプル数が少なすぎるので,難易度の安定性や得点調整に加わるかどうかなどの心配もありますし,よほど自信がある人以外は手をつけないことを推奨します.

[対策について]

昨今は,教科書が充実しているので,教科書ベースでの学習でしか網羅的に学ぶものはありません.出題形式としてさほどセンター試験と違う部分を感じなかったので,センター試験の過去問は参考として使えると思います.

多くの地学受験生がしているように,別途,地層・気象・海洋・天文などについてのより詳しい資料や文献にぶつかってみるのが最適な学習方法だと思います.

今後の修正の可能性について

今回の試行調査が大々的な試行調査としては最後のものだったという発表がありました.したがって,本番までは大学入試センターが提供するいわゆる『ホンモノ』は公開されないものだと考えられます.ですので,今回公開になった試験を元に,各予備校で実施されると考えられる大学入試共通テスト模擬試験のようなテストで対策をしないといけなくなるわけですが,前章で述べたように,難しすぎる箇所があるなど,本番には到底使えないと思われる部分があるので,公開された試行調査と同じような問題が出題されるとも考え難いです.

大学入試センターが公表した,今後の問題作成の指針について最後に触れていこうと思います.

数学の問題作成指針

今回の試行調査は,期待していた正答率よりは低かったらしく,1A/2Bともに,本番ではさらなる変更があると想定されます.

大学入試センターの分析では,それぞれの大問が力作だったために.
1. 問題文の読解量の多さがネックになった
2. 解決過程の全過程を重視した問題を多く出題したために,時間が足りない受験生が多かった.
3. 出題意図を掴めなかったために構想や見通しを立てられなかった.
というあたりが,点数の低さに影響しているとしています.

それを踏まえ,数学1Aでは,
1. 大問構成は,数学1の大項目を網羅し,数学Aについては確率・整数・図形の3大項目のうちの2問を選択問題とすることは決定している.
2. 回答の全過程を問う問題は大問で1個あるいは中問で1個程度とする.
3. 文章量は試行調査よりも少なくする.試行時間を増やすために,最低1題は日常生活や社会の事象を題材とした問題を出題することとする.
4. 現行のセンター試験のような段階的に回答の過程を問う問題も出題する.また,意図的に問題文中で変数を設定しないような出題の仕方をする可能性がある.
という表現がされています.

数学2Bについてもほぼ同様ですが,項目3の最低1題という記述はないので,出題がされない可能性も考えられます.

したがって,今回の試行調査よりは,センター試験に近づくことが想定されるので,従来のセンター試験の過去問を解くことは依然大事な要素だと思います.

国語の問題作成指針

第一回の試行調査では,記述式の問題の難易度が非常に高く,無回答率が高かったという結果が出ていましたが,今回の第二回の試行調査では無回答率も少なく,センター試験と比較しても,平均・標準偏差・分布ともに遜色ないぐらいのバランスになっているということから,今回の試行調査から大きく外れないような問題が出題されるものだと考えられます.

詩やエッセイの出題があったり,著作権に絡んだ問題があったりと,対策は難しいですが,試行調査の問題を精査した上で学習していく他ないでしょう.

英語の問題作成指針

英語については,ぜひこちらの資料の100ページをご覧いただきたいです.

従来のセンター試験のような問い方(話すことや書くことを間接的に問うような問題セット)について一定の効果があったことを認めつつも,学校教育が単語や文法偏重になってしまっており,文脈やコミュニケーションにあるべき本質が見失われつつある現状と,外部試験を含めた四技能の評価をする別の枠組みが用いられる方針であることを踏まえ,読むことのみを目的とした問題構成としたと書かれています.

作問者の経験や知識だけでなく,CEFR関連研究によるエビデンスを取り入れた出題にしたことによって,従来のセンター試験並みの識別力があるとして,今回と同様の方針で「リーディング」の試験とするというように明言しています.ただし,問題のレベルや分量については,CEFRや得点分布などを考慮した上で検討すると公表されました.

理科の問題作成方針

理科の問題については,いずれの科目も一定の効果が検証されたとしており,試行調査から大きな変更を行う可能性については述べられていません.したがって,今回の試行調査を元に,試験対策をしていくことが必要だと考えられるでしょう.

最後に

今回は,新しく実施される大学入試共通テストについての試行調査について,検証し重要な箇所の抜粋をしてきました.

特に採点官の問題について賛否が残ってはいますが,新システムに移行することは決まっています.また,その該当学年が高校2年生になり受験を意識し始める年代になってきており,当該の受験生や,指導にあたる講師,保護者などもこういった知識をある程度つけておく必要があると思います.

より詳しい資料に当たりたい方は,この記事を書いた参照元である,

こちらを読んでみてください.分量は非常に多いですが,情報収拾としてはこれ以上に正確なものはないでしょう.

また,実際に問題や解答も公開されているので,気になる方は触れてみることをお勧めします.

ご覧いただきありがとうございました.この記事を読まれた皆様に少しでも貢献できていれば幸いです.

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所属している塾において,塾講師としての経験をまとめた書籍の執筆にも関わりました.


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