門外不出の

名前は知っていた
苗字は知らなかった
声を知っていた
顔を知っていた
住んでるところは知らなかった
悩みを知っていた
痛みを知っていた
苦しさを知っていた
知っていたけどわかっていなかった
好きだった
幼稚な想いだったがそれでも好きだった
年下の自分が許せないほどだった
傍に行きたかった
行けなかった
頼りにしていた
頼りにされていた
好かれていたかはわからない
口頭の愛は貰えた
それだけで満たされていた
本心だったかは今もわからない

最期の電話を受け取った
もしかしたら最期の会話だったかもしれない
あの人の最期には自分がいたのかもしれない
確認はできない
生きてるかもしれない
墓なんて知らない
探すつもりもない
だから
彼女は

死んでいるのだ

追いかけようと思った
追いかけないでと言われた
泣きながら
泣きながら
着いていきたかった
そっちに行くから待ってくれと言った
返事はなかった
ごめんねって
ずっと謝られた
今でも
関係を切るための嘘だったんじゃないかと
現実でいい人ができたから
だから無かったことにしたかったんじゃないかと
そう思うことがある
でもあの声が
記憶に残るあの声が
ひそひそと否定し続ける
どこまでもついていくと
堕ちていくなら共にと

愚かな
愚かな
愚かな
愚かな
愚かな
愚かな
愚かな
愚かな
決意は踏みにじられた

次は
次は適切な距離を守ろう
誰かを助けるために
誰かの傷にならないために
自分の心を傷つけないために
やれることはやろう
そう決めた

ちょっとやりすぎることもあったけど
決意は守れたよ
でも結局傷ついた
心の傷に距離なんて関係ないと知った

心に人を入れないことも考えた
閉じて閉じて閉じる
心も頭も部屋も
でもそれは
なかったふりにして
覚えてないふりをして
自分を守ることだと思った
思ってしまった
だから頑張って外に出た

あの頃は
余裕がなかったけど
今はそれなりにできてると思う
好きな人もできたんだ
あの時みたいな
共依存じゃないよ
安心して
生きてるなら幸せに
もし、もし
もしそうなら
見ていてください

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