どっちがおもしれえか決めようとした

 あれ知ってるか皆さん。「mbti性格診断」というやつ。用意された設問に答えるだけで自分の性格がどんなタイプに属するかわかるのだ。「起業家」とか「管理者」とか、わかりやすくタイプ名を教えてくれる。俺は「デス・サイクロプス」だった。「DESU」型。

 知らない方のために説明しておくと、16種類の、なんていうか、16種類の、その、ビタミンD? を配合した、あまりにも、美人すぎる、市議? 市議の話だっけ。つまりだから、地方議会が堕落していることの背景に日本の民主主義の退潮があるという話だったな。? なんでこんな話になった。さっきまで楽しかったのに。

 だから要するに十人十色の人間をさ、百者百様の個性溢れる人間をですよ、十把一絡げに、たった16個の、お仕着せの型に当てはめて語ろうとする、あまりにも美人すぎる、市議ですよ。だから市議なんだよな。問題は。一体どうなってるんだ地方議会は。

 俺はこのmbti性格診断には大きく分けて2リットルの問題があると思っていて、まず1リットル目としては、設問の数が多すぎるな。めんどくさすぎて途中で諦めたぞ。だから最後まで辿り着ける時点で立派だと思う。「やり遂げられるタイプ」だ。途中で諦めた人のための性格も用意しておいてほしいよな。

 第二に、16種類は多すぎる。4つぐらいだろ人間の性格なんて。たとえば「ぼく『起業家』タイプだったんですよ」って言われたとして、ほかに何があったか全く思い出せないだろ? 俺は「デス・サイクロプス」だったんだけど、言われてみるとそんなのもあったような気がするわけじゃん。実際あるんだけどさ。少なくとも堂々と言われたら否定できないだろ。否定できるとしたらそれは相手が俺だからだ。デス・サイクロプスに言われたらどうする? おっかないぜぇ。赤黒いぜぇデス・サイクロプスは。

 だいたいさ、デス・サイクロプスにだって色んな性格あるだろ。起業家タイプのデス・サイクロプスだっているだろうし、管理者タイプのデス・サイクロプスもいるだろ。人間には16種類も性格あるのにデス・サイクロプスは一枚岩だってかよ。人間の悪いところ出たな。デス・サイクロプス型のデス・サイクロプスもいるだろうけどさ。

 「THPS」っていう似たような性格診断があって、俺の高校の校長が経営してる大学(附属ではない)が独自開発したものらしい。毎年春になるとやらされるんだが、マジで150問ぐらいあって1時間かけてやるのだ。マークシートなのに何故か結果が出るまで半年ぐらいかかった。

 今でも覚えてるのは「人を笑わせるのは得意ですか?」という質問があって、これに「とてもそうだ」って答えられる奴いるか? 「ほう、じゃあ笑わせてみろよ」って奴がいるわけじゃないんだけどさ。自意識の問題として、そんなこと口が裂けても言えないだろ。「笑わせるのが好きですか?」って聞いてくれよ。

 自己申告型の性格診断はこうした問題が常にある気がする。だし、結局は予想通りの結果になるよな。自己紹介には使いやすいが、本当なら「自分にも思いがけなかった気付き」を与えてくれるような性格診断があればいいなあと思っている。

 まとめると、4種類ぐらいに絞って、たくさん設問に答えるような必要がなくて、自意識とは無関係の特性、たとえば「赤血球上の糖鎖の末端にある糖の種類」とかで診断するような性格診断があればいいんだけどなあ。

 俺は根本的に人柄の良い人が好きなんだが、人柄に関わらず面白い人も好きだ。たまに「面白いけど確実に性格が悪い人」がいるが、不本意ながら目が「❤️」になってしまう。抗えないらしい。

 そしてこれは俺の性格のはっきり良くないところなんだが、実際に「面白い人」を前にするとどうしても「俺とお前、どっちがおもろいか決めようや」ってヤンキー漫画のノリになってしまう。飲み会とかで「面白いと評判の人」が来ることになると、「ほお」と思いながらめちゃくちゃ準備して行く。普通そういうもんだと思って身の周りの面白い人に聞き取りをしたんだが、どうやらそんなことないらしい。俺だけ肩ぶん回して「仕上がった」状態で飲み会等に臨むようだ。

 中学生のときに、クラス替えの直後で結構ウケていた。授業中とか当てられると必ずボケるし、手を挙げて「わかりません!」とか言って笑いを取ったりとか。そういう奴いただろ。今思うと一部には結構ウザがられてたんだろうなあと思うが、俺は絶好調のつもりだった。ウケてるぜぇ〜、と思っていた。

 いわゆる「人気者」というやつであろうな、と思ってたんだが、ふと、休み時間に俺が全く人気が無いことに気付いた。なんでだ。授業中かなり笑い取ってるはずなのに。悠々と予習とかしてる。暇だからゆっくりロッカー行って、ゆっくり帰ってくるんだが、一切話しかけられない。

 おかしいな、と思って教室を見回すと、いつも同じところに人だかりが出来ている。10人ぐらいでワイワイしているのだ。いつもあそこが盛り上がってるな。なんだろうと思って行ってみた。

 人だかりの中心で1人で笑いをかっさらっているのが「石原(仮)」という男だった。前回の冒頭で出てきた「長男」のお父さんだ。今は大きいFM局でDJをやっている。伊集院さんを教えてくれたのも彼だった。面白くてイケメンでカリスマ性があって性格が良いという、意味がわからん奴だ。

 そこで目にしたのは信じられない光景だった。石原がボケて、回して、振って、またボケて、回して、ツッコんで、エピソードトークして、またボケて……『キーンコーンカーンコーン』。休み時間が終わる。なんだこいつ……。同い年でこんなやつがいるのか!

 それから俺は石原を中心とした人だかりに通い詰めて、石原の動きを学んだ。もう俺がやっていることとは完全にレベルが違っていた。俺なんか大きい声で変なこと言ってるだけだったのだ。中学生の笑いのレベルなんてこんなもんでいいだろうと思っていたが、回したりエピソードトークしたりする中2が目の前にいるのだ。イチから考え直さないと。

 石原が特にすごかったのはエピソードトークだった。俺もやろうとするんだが、エピソードを語って笑いを取るのは難易度が高すぎる。石原がそれを出来る意味が全く分からなかった。「面白い話」ってどうやってやるんだ? やってみてもただの長い話になってしまう。ここは一回撤退することにした。もっと「笑い」の基本から学び直さないといけないだろう。

 当時サービス始まりたてのYoutubeで、漫才やコントの動画がたくさん違法アップされていた。これを見まくった。
 なるほど、同じボケを2回繰り返す、これを「天丼」と言うのか。メモだな。ノートにメモをしていく。他のものに例えてツッコミを入れる、「例えツッコミ」か……。メモだ。なになに? ボケるときはあえて真顔で「ボケてないですよ」って表情をするとより笑いが増すじゃないか! メモだ。

 こうしてメモが溜まっていく。学校で実践する。大してウケやしないが、少しずつ基礎体力が付いていってる気がする。結局石原には全然敵わないまま、次のクラス替えになった。そのあと、石原と同じクラスになることはなかった。

 それから俺がエピソードを語りまくるようになる話はまたどっかでするとして、結局高3で卒業するまで石原には全く肩を並べられなかった。サイゼリヤでよく新ネタを披露してたんだが、やっぱり石原の方が圧倒的にウケていた。「クラスの面白い人ランキング」みたいなのだと1位になるが、石原も俺も両方よく知ってる友達の評価は決まって「石原の方が面白い」だった。

 石原本人としても、俺を「それなりに面白い奴のうちの1人」とはっきりそう言っていた。俺はライバルのつもりだったが相手にもされてないのだ。その力関係のまま石原は大学へ進学し、俺は浪人生になった。

 5月、久しぶりに石原と顔を合わすことになった。俺は代ゼミでこじんまりやっていたが、石原は「放送研究部」という数々のアナウンサーを輩出した名門サークルに入った。そのサークルの新入生歓迎会で同学年に「パックマン(仮)」という面白い奴がいた、という話をされた。

 パックマンはとにかくめちゃくちゃ面白くて、正直圧倒されたらしい。埼玉の田舎町出身で、まさにその田舎町の「エピソード」がめちゃくちゃ強いらしい。石原が他人を「めちゃくちゃ面白い」と評価するなんて聞いたことがなかった。何回聞いても俺には「それなりに面白い」としか言わなかった男だ。パックマン……。うちの大将が圧倒されるだと? どんな奴だ?

 それからパックマンと石原は親友になり、よく話を聞いた。石原はパックマンをよく褒めていた。俺のことも褒めてくれよ。俺はいつの日かパックマンと直接対決できるときを心待ちにしていた。「その日」は突然やってきた。

 2年ほど前、石原はプロのラジオDJに、パックマンは放送作家に、俺はそのへんのサラリーマンに、それぞれが社会に出てしばらく経った頃だ。石原と俺はオンラインで毎日のようにスマブラをやっていた。

 聞けばパックマンは相当のスマブラガチ勢らしい。俺も石原も結構実力が付いてきて、そのへんの「ガチ勢」とやらとそろそろ対戦したかった頃だ。パックマンをオンライン対戦に呼ぶことにした。スマブラはボコボコにされたんだが、そのあとLINE通話にパックマンが参加することになった。

 ついに来たか……、パックマン。直接対決楽しみにしてたぜ。俺とお前、どっちがおもしれえか決めようじゃねえか。

 パックマンが通話を繋ぐ。「あ、こんにちは。初めまして」

 「よおパックマン。話は聞いてるよ」
 「?」

 いきなりタメ口で来た俺に戸惑いを隠せないパックマン。

 「パックマンは埼玉出身らしいな。俺もだぜ」
 「そうなんだ〜、はは」

 「どこだっけ?」
 「〇〇町ってとこ」
 「へえ〜……」

 さあ来いよパックマン。その町におもしれえエピソードがあるんだろ? 放り込んで来い。俺も全力で打ち返すぜ。

 「……」
 「……」

 あ。あ、ミスった。なんか色々ミスったっぽい。パックマンは静かになってしまった。そのあと俺は色々ボケたりエピソード放り込んだりしたんだが、パックマンは全然乗ってきてくれなかった。さほど仲良くなることもなく、しばらく話して通話は終わった。

 そのあとパックマンと何回か通話する機会があったが、なんとなく距離を取られてる気がする。そんな感じの態度だ。ファーストコンタクトをミスった。俺はパックマンとどっちがおもしれえか決めたかっただけなのに。

 人間関係は難しい。少なくとも最初は敬語で行った方がいいよな。30代で学んだ。いきなりタメ口で行くのはよくない。態度も良くないらしい。何回か営業先で「馴れ馴れしい」と怒られたことがある。

 反省の多い4月。ファーストコンタクトはミスるもんだよな。老人ホームとかでも俺はファーストコンタクトでミスってそうだ。ほどよい距離感が全然わからん。わからん。悩ましいな。

 というわけで今回は以上! また次回。

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