Singularity(宮脇健)③

「その目を知っている」


勤めていた老人ホームは「回廊式」と言われる∞(無限)の形をした造りで、徘徊する人が無限に歩き回れるという、当時は滅茶苦茶最先端でナウい造りをしていた。就職した当時は、その意味合いが何なのかさえさっぱりわかっていなかったが、時がたつにつれて先輩から聞いていた話しと、目の当たりにしている現状とが僕の中では繋がらず、どちらかといえば水族館で魚が水槽に入れられ、人間の解釈で「自由に回遊している」と言ってくれたほうがしっくりくるな、と思っていた。実際、ぐるぐると歩いてまわっていた人たちは特に何が目的でもなく、魚のような目で歩いていた。僕はそれに慣れていっていた。「歩くことで運動になるし、体力を使 うことで出ていかなくなるし」と
言っていた先輩の言葉にも。

ようやく「慣れ」だした一年で二階の特養から、「施設の都合」で一階のデイサービスに行くことになった。まぁ、その時は気にしたけど、今となっては「よくある話」だったと思う。そのデイで和枝さんと出会った。農家だったせいか、焼けた肌色だったが美空ひばりによく似ていた。施設の近くに家があり、何度か出て行ったまま帰ってこなかったり、よその家に入ったりするようになり、警察のお世話になることもしばしばあった。旦那さんは6年前に亡くなられていて、浩二さんという息子さんと二人で暮らしていた。和枝さんはよく、男の職員を見つけると「こーちゃん!こーちゃんじゃなー?えーやなぁー!」と満面の笑みで手を 握ってきて、そのまま腕を組んで顔を見つめると
いう癖のあるおばあちゃんだった。男の職員からは「ほっとけない」感じで愛嬌もあって好かれていたが、一部の女性からは疎まれていた。和枝さんは入り込んでしまった家からの苦情や、警察にお世話になる回数が多くなり、暫くして2階の特養に入所することになった。程なくして僕も、「施設の都合」で二階に出戻りとなった。

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Singularity(宮脇健)

ポエムだったりエッセイだったり動画だったり、あまり決めきらずにその時思ったこと感じたことを、ゆるく表現していきます。