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年金の繰り上げと繰り下げ、どちらが得? 幸せに生きるために考えたいこと

コミュニティ活動の一つとして、定年女子トーク実行委員会を運営しているのだが、そこでいろんな人のいろんな意見を聞くのはとてもおもしろい。
そんななかで、すでに定年したある女性から、年金についてのの意見があった。
その意見とは
「つらいこともいろいろあったけれど、しっかり定年まで働いたので貯金がしっかりできました。でも退職後は異次元の世界。現役の人はしっかり貯金を!年金は繰り下げしないで!しっかりもらおう!」というもの。
うーん、そうかなあ。
これを読んで、私の中ではもやもやが膨らんでいったのだ。

老齢年金の繰り上げと繰り下げの仕組み

本来、年金が出るのは、65歳から。
でも、少し金額が少なくなるけどそれより早めにもらうこともできるし、逆にそれより遅くもらうようにして、月々もらう金額を多くすることもできますよ、というのが年金の繰り上げと繰り下げの問題。
65歳より早くもらうようにするのが繰上げ受給で、65歳より遅くもらうようにするのが繰下げ受給だ。

日本年金機構の「年金の繰上げ・繰下げ受給」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/index.html

たとえば60歳からもらうと(=繰上げ受給)24%も低くなるし、70歳からもらうと(=繰下げ受給)42%もアップする。その額は一生変わらないから、果たして何歳まで生きるかでもらえる合計額が変わる。
一度繰り上げると、元に戻すことはできない。
これを個人がいつからもらうことを「選択」するかが、年金の繰上げ繰下げ問題だ。

よく聞く「早く死んじゃうと損する」は、誰が損するの?

どちらが得なんだろう?という議論はあちこちでされている。ネットでもそういう記事が多いし、60歳前後の人たちが集まるとしばしば話題にも上る。そこで言われているのは、生涯にもらえる金額(合計額)がいくらになるか、何歳まで生きると合計いくらもらえるか、という試算だ。
要は損益分岐点は何歳か?ということ。
おおよその年金額はわかっているのだから、自分が何歳まで生きるかによって、生涯に受け取れる年金の合計額がわかる。
それを計算し、さあ、私は何歳まで生きるだろう?と考えて、繰上げするか、繰下げするかどうかを決める、というのだ。

人によってもらえる年金額が全然違うので、単純化するのは難しい。
そこで一例として、本来65歳で年額180万円の年金を受給する人の場合で試算してみる。

・もし60歳から繰り上げ受給するとしたら、
繰上げ受給しない場合と比べて24%少なくなるから、年額43万2000円の差が出る。
60歳から受給する場合の合計額と、65歳から受給する場合の合計額は、76歳でほぼ同じくらいになり、77歳を超えると、60歳に繰り上げ受給しない場合(=65歳からもらう場合)の方がどんどん大きくなる。

・もし70歳まで待って繰下げ受給するとしたら
繰下げ受給しない場合と比べて増額率は42.0%。年額75万6000円増額するので、65歳だと年額180万だったところが255万6000円になる。
65歳から受給する場合の合計額は、80歳までは、70歳から受給する場合の合計額よりも多いが、81歳を超えると70歳から受給(繰下げ受給)したほうが多くなる。

つまり、生涯もらえる年金の総額は、
75歳で人生が終わるなら、60歳からもらう方が多いけれど、
81歳より長く生きるなら70歳まで待って繰下げ受給したほうが多い、というわけだ。
どっちが得か?という話は、自分がいつ死ぬかわからないなかで、生涯の合計額が高くなるためにはどっちがいいか?自分は何歳からもらうのが得なのか?という理屈だ。
そういうなかで「早く死んじゃったら損する」みたいな話が出てくるのだ。

しかし、「損する」って、誰が損するのか? どういう損なのか? 
死んじゃう自分がどんな損をするのか? 
いや、子どもなど相続を受ける人が損をするのか?
それ以前に、本当に総額が多い方が「得」なのか?

損得よりも大事なのは、入るお金と出るお金のバランスだと思う

損得というと、一般的には金額の計算だ。
しかし、総額のお金がたくさんもらえることが、果たして本当に「得」なのだろうか。

とにかくできるだけ年金をもらい、使わなくても遺産をたくさん残したい、という人はそう思うのかもしれないが、私にとって最も大事なことは、一生楽しく安心して生きて行けるかどうか、が最重要課題だ。
そのために、自分がお金を使いたいと思うものにお金が使えるかどうか、が大事だと思うのだ。

50歳前に会社を辞めた私は、厚生年金があるとはいえ、定年まで働いてきた人に比べれば明らかに少ないし、大した貯金もない。今や貯金の金利などゼロに等しいから、貯金がこれから金利で増えることはたぶんないだろう。

お金は、あればあるだけいい、たくさんあればいい、というのは、たしかにそうなんだろうけど、貯金がたくさんあるかどうかよりも、恒常的に使いたいこと(もの)にお金が使える状態かどうかの方が、私にははるかに大事な気がする。そこでポイントになるのが年金だ。年金は生きている限り恒常的にもらえるお金だから。

お金を考えるときに大事なのは、出るお金と、入ってくるお金とのバランスで、そのバランスさえとれていれば、必ずしも手元にたくさんある必要はないのだ。バランスがとれていれば、仮にたくさん貯金がなくても、そう心配することではない。
けれどもこのバランスが取れていないなら・・・。

中には、不動産収入とか、昔入った民間の年金型保険などの収入がある人もいるかもしれないが、年金以外に収入ゼロの場合は入ってくるお金は年金だけ。でもこの老齢年金は、生きている限りほぼ一定額でもらえるお金だ。
あとはどれくらい出るお金があるか。つまり何にお金を使いたいか、だ。
入るお金と出るお金のバランスで、もし出るお金の方が多いなら、貯金を取り崩していく、ということになる。

バランスをとるために、出るお金を減らす(お金の使い方を変える)のも手だし、不足分をカバーする程度に少し働くという方法もある。
若いころのようにガツガツ働かなくても、バランスをとるための不足分を補えばいいのだ。
もちろん、もし貯金が潤沢にあるなら、収支のバランスが崩れたなら、心置きなく貯金を取り崩せばいい。
しつこいようだが、要はバランスなのだ。

定年が視野に入り始めた定年女子たちから
「お金が不安」
「年金だけで暮らしていけるかどうか不安」
という声はとてもよく聞かれるけれど、自分の入るお金と出るお金をよくご存じない方が多い。
中には、自分がもらえる年金額すら知らない人も少なくない。
知らなければ、そりゃあ不安でしょう。

損得の話だと金額の計算が優先されるけど、金額の総額よりも幸せに生きていくために「得」な方がいい

どんな暮らしをしたいのか。
何にお金を使いたいのか。
もし働くならいつまで働くのか。
カラダのリズムや社会とのつながりのために、週に1日だけでいいからいくつになっても働きたいという人もいる。
カラダが元気なうちに世界を飛び回りたいという人もいる。
このように人によって、入るお金と出るお金のバランスは、全く変わってくるはずだ。
しかも、年代によっても、出るお金の内訳はきっと変わってくる。
60歳の時、70歳の時、80歳の時、90歳の時・・・
そのときの住まいや楽しみ方が、年齢とともに変わっていくに違いないから。

もともともらえる年金の額が多い人と少ない人とでは、考え方が違うかもしれない。
年金額が少ない人は、定期的に入ってくる金額を少しでも増やしたいと思う人が多いだろう。そのために受給時期を遅らせようと長く働くことで、将来の入るお金と出るお金のバランスを整えようという考え方もある。
低金利の時代で貯金よりも年金を増やした方が利率がいいから、貯金から使うと言った人もいた。

一方で、健康に自信がない人の中には、少しでも早くに仕事を辞めたい、ゆったりとした生活に入りたいからと、年金を早めにもらいたいと考える人もいる。
いつ何があるかわからないから、もらえるものは早めにもらっておきたい、という考え方もあるだろう。

こうなるともう本当に人によってまちまち。
その人の価値観そのものだ。どんなふうに生きていきたいか、そのものとも言える。

では私自身はどう考えているかと言えば、どちらかと言えば繰下げしよう、という方向だ。
年金をもらわなくても、使いたいお金の分だけ収入があれば、繰下げをしていこうと考えている。つまり働くということだけど、でも無理はしない。
年金は、一度もらい始めたら後から繰下げすることはできないので、可能なら繰下げし続けていきたいという程度だ。
幸い私は、大きな金額の買い物をあまりしないし、物欲もそんなにない。お金をかけずに満足を感じることが多く、「金のかからないオンナ」とよく言われる(苦笑)。
それに私は働くことが好きだし、仕事を通じてのつながりができることは、私の人生を豊かにするように思える。時期が来れば毎日働かなくてもいいし、終日働かなくてもいい。
しかも定年まで待たずに早期退職した私は、年金額が少ないので、繰下げ期間が先になればなるほど、年額が増えていくのもちょっと嬉しい。

あくまでも、「私」の幸せのために何が得かを選ぶのだ。
受給累計額がどうか、いつまで生きれば得か損かではなく。
だから、「○○の方がいい」なんていう共通解などあり得るはずがないのだ。
その人が、その時その時で使いたいお金を、使い続けられるようにできる(それに近づける)ためにはどうするのがいいか、を軸に選択したいものだと私は思う。

私には、何に使うか、使いたいか、ということなしに、資産を増やすことが是で、投資とか資産とかに注目させる流れが、あまり気持ちよくないのだ。老後の貧困問題があることも知っているけれど、資産を増やすことばかりを目指すのはどうなんだろう?という気がしてならない。ましてや自分が死ぬときの資産がたくさんあってどうしようというのだろう。
お金の不安を感じている定年女子の中には、未来のお金の試算なしにやみくもに資産を殖やさねばと考える人が多い現実を目にすると、なんだかもったいない気がする。効率やお金ばかり優先させる世の中が長く続いたせいなのかもしれない。

最後に、年金はご存じのように2階建て。
繰上げ・繰下げは、基礎年金と厚生年金は一緒にやらなくてはいけないわけではない。基礎年金だけ繰下げ、など別々に繰上げ繰下げができることもお忘れなく。

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