キャリア・コンサルティングの未来 キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講座(42)

★2021年、再掲するに当たってのいいわけ

 2005年2月に書いた本号は、さすがにもう古い話だよなと思うので、掲載を躊躇ったのですが、まぁあの時はそうだったんだよということとを振り返りながら、これからを考える時の資料にもなりはしないかと思って載せることにしました。♪そんな時代もあったね♪笑っていただければ幸い…

★「キャリア・コンサルティングの可能性と未来」

 去る2月6日、キャリア・コンサルタント全国大会が東京ビッグサイトで開かれました(註:2005年のことです。キャリアの次に”・”がついているでしょ…)。テーマは「キャリア・コンサルティングの可能性と未来」。
 午前中のシンポジウムで浮かび上がってきたのは、まさにこのテーマでしたね。実はキャリア・コンサルタントにはそれほど明るい未来はないと思うのです。職業としてのキャリア・コンサルタントには・・・。

 キャリア・コンサルタントという名前が広まったのは、2001年に「厳しい雇用失業情勢の中においては、求人と求職の能力のミスマッチを解消していくことが喫緊の課題であるが、そのためには求職者に対して自らの職業生活設計を踏まえた的確なキャリア・コンサルティングを行うことにより、求職者等の円滑な再就職及び労働移動を積極的に支援することが必要である」などとして、厚生労働省職業能力開発局(当時)がキャリア・コンサルティング研究会を設置して、ほぼ一年をかけてキャリア・コンサルティングを担う人材の養成と、キャリア・コンサルティング実施に必要な能力要件や資格のあり方等を検討、「キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力等に関する調査研究報告書」としてとりまとめた辺りからではないでしょうか?
 この後、キャリア・コンサルタントを5年間で55000人育成するという計画がスタートしました(註:2014年の計画ではありませんのでご留意を。それ以前にもあったんですよ…)。
 以前からGCDFやCDAという似た内容の民間資格を扱っていた教育機関や、今では独立行政法人となっている雇用・能力開発機構(当時)など、研究会で検討した「能力要件」に沿っている団体を試験機関として認定して、これらを核として育成を進めたのでした。
 それから3年たちました。
 どのくらいの「キャリア・コンサルタント」が居るのか分からないのですが、順調に進んでいれば3万人近いキャリア・コンサルタントが生まれているはずです。

★コンサルタント稼業

 ところで、このキャリア・コンサルタントですが、資格名称かというとそうではありません(註:今は2016年の職業能力開発促進法の改正で「キャリアコンサルタント」という国家資格になっているのはご存知の通り)。
 GCDFやCDAなどは民間資格とはいえ資格なのですけれど、キャリア・コンサルタントというのは、極論をすれば、だれでも名乗ることができてしまいます(註:くどいようですが、今は”誰でも”が名乗ってはいけません。ちなみに2016年の改正でそれまで「キャリア・コンサルタント」と”・”が入っていたのですが、「キャリアコンサルタント」と連続することになりました。なのでこの記事で「キャリア・コンサルタント」と書いているときは2016年より前のことと思っていただけると幸い…)。
 コンサルタントといえばこれまではどちらかというと経営コンサルタントを指すことが多かったと思いますが、実はこれもだれでも名乗ることができます(だから新聞の三面記事なんかをみると「犯人は○○市にすむ自称経営コンサルタント○田×夫(43)」って出てるでしょう)。
 経営コンサルタントにも資格はあるんです。
 社団法人日本経営士会の経営士や社団法人日本能率連盟のマネジリアル・コンサルタント、あるいは社団法人中小企業診断協会の中小企業診断士などです。
 これらの資格は、それぞれ一定の要件、たとえば試験に合格して実習をすませているとか、実務経験が一定上あるだとかといった基準を満たしている人に対してそれぞれの団体から発行されています。
 ただ、弁護士や医師の資格と違って、なくても「経営コンサルタントです」と名乗って構いませんし、経営コンサルティングをしても構いません。
 中には経営コンサルタントとしては優秀なのですが、資格は「仕事の方が忙しくて取れなかった」という方もいらっしゃいます。
 お医者さんの場合は、いくら腕が立つからといっても、無資格でやるわけには行かないですよね。
 この意味ではキャリア・コンサルタントの参入障壁はかなり低いといっていいと思います。

 経営コンサルタントとキャリア・コンサルタント-資格があればそう名乗れる、あるいはそう名乗るためにはこの資格がなければというものがないという意味ではとても似通っているわけですが、大きな違いが一つあります。
 それは、経営コンサルタントは一応、職業名として成り立っていることです。
 「お仕事はなんですか」と聞かれて「経営コンサルタントです」というと、具体的に何をしているかは想像つかなくても相手には通じます。
 大前研一さんだとかといった有名人のおかげでもあります。
 しかし、キャリア・コンサルタントの方は新しいだけにまだそこまでに至っていないようです。
 では、これからそれが職業名となっていくか? というと、そういう職業があると浸透していくまでにはかなり時間がかかりそうです。

★キャリア・コンサルタントよりキャリア・コンサルティング

 なぜかというと、キャリアに関わるコンサルティングの場面というのは、職場だけでなく、学校でも、地域でも考えられるし、そのようにいろいろな場面で実施されるのが望ましいと思うからです。
 誤解を恐れず敢えていうと、キャリア・コンサルティングは個人を支援するものです(個人のキャリア開発を支援するためには組織への働きかけが当然必要になってくるので、個人だけを対象にするという意味ではありません)から、できるだけいろいろな場面でキャリアについて相談できる方がよいのではないかと思うのです。
 そうすると、いろんな場面でキャリア・コンサルタントという職業の人を増やすよりも、いろんな立場の人がキャリア・コンサルティングできる方が現実的なような気がするのです。
 つまり、55,000人のキャリア・コンサルタントとは、55,000人の「キャリア・コンサルティングを生業とする人」を生み出すのではなくて、他に仕事や役割を持っていてかつキャリア・コンサルティングのできる人が55,000人いるということになります。

 ただ、このように考えると55,000人では足りませんね。
 大会で厚生労働省職業能力開発局キャリア形成支援室の室長が指摘していらっしゃったように、少なくとも企業に一人、学校にも一人と数えていくと、まだまだです。
 ではどんどん増やせばいいかというと、キャリア・コンサルティングの質を高めていくことも一方では考えておかなければいけません。
 昔、ある漫画を読んでいて、「藪医者よりひどいのを”ひも医者”という。なぜならものが紐だけにこれに掛かったら死んでしまう」という話が出ていましたが、キャリア・コンサルティングも「やぶ」や「ひも」が増えては困ります。
 しかし、先に記したように「キャリア・コンサルティングできる」ということだと、本来の活動もやりながら、キャリア・コンサルティングの質も一層高めるための学習をするということになると、なかなか大変なことではあろうかと思います。
 一方で、喜ばしいことにそうした人が増えて、キャリア・コンサルティングがいろんな場所で利用できるようになると、今度はそれ自体が「職業」として成り立つのかな、ということにもなってきます。それ本業の人がいなくても、身近に相談できる人がいるということですから。

 そこで、冒頭のお話です。
 「キャリア・コンサルタントの未来」--職業としてみるなら、これだけで自立していくというのは大変かもしれません。でも、一方でキャリア・コンサルティングという活動は、どんどん広がっていくと思います。
 シンポジウムのテーマが、キャリア・「コンサルタント」の可能性と未来ではなくて、キャリア・「コンサルティング」の可能性と未来となっていたのはそういう意味?~と思いながら会場を後にしました。

★雑報

 そんなことを書いている間に、もう長くなってしまいました。
 思いつくままに書いているといけませんね。
 これでは「キャリア開発、キャリア・カウンセリングと人事制度」というめるまがのタイトルとずれてしまいそうなので、ちょっとした人事トピックスを一つ。

 プラスチックで極小精密部品では国内トップメーカーの株式会社樹研工業の松浦元男社長は、日経ビジネスのメールニュースにもコラムを持っている、ユニークな経営者として知られています(「日本でいちばん大切にしたい会社2」=坂本光司、あさ出版=にも取り上げられているようです)。
 この会社では採用は先着順なのだそうです。
 3人と決めたら先着3人まで。
 後から優秀な人がきても入れない。
 人の能力には最初から大差はなく、やる気を持って取り組み周囲が教育すれば必ず力を発揮するからだそうです。
 わずかな面接の時間で合格、不合格を判定することの難しさ、それで人の一生を決めてしまうことの怖さもあるとか。
 一理ありますよね。

★2021年時点での追加のいいわけ

 さて、こうして6年前のことを読み返してみると、キャリアコンサルタントは国家資格となり、ほかの○○コンサルタントとは別格なものになって参りました。隔世の感がありますねぇ。こんな展開になろうとは思ってもみませんでした。
 次に課題となるのはその内容です。資格があるから職業、生業として成立するわけではなく、そこには社会からの必要性というものが欠かせません(利用者からの必要性と同義ではありません。潜在しているニーズというのがありますからね)。
 キャリアコンサルタントな方々にとっては社会に必要とされる職業として確立されるよう、これからの活動が問われることになりますね。

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