バーチャル蠱毒が一つの物語になるなら ~一連の流れのまとめ~

誰か漫画化小説化してくれ。そんな一心で纏めたのでこの記事の情報は自由にお使いください。

※この記事は九条林檎No.5のバズりから「最強バーチャルタレントオーディション~極~」を知った人間がその後を追いながら書いたものです。話題になる以前の事は分かりません。

※「バーチャル蠱毒」として話題になった一連のストーリー線上に存在した事象について記すので、ランキング上位者でもとりあげない事があり、また全員を網羅しない。そもそも自分が観測した事象の事しか取り上げられないのでご容赦ください。


<あらすじ>

第一章:蠱毒の幕開け

最強バーチャルタレントオーディション。

そう名付けられたオーディションはネットの片隅で静かに始まり、静かに終わる、その筈だった。しかしそのデスゲームのような設計のオーディションがTwitterで広がり始めると、いつしか誰からともなく古代中国に伝わる呪術・蠱毒として例えられるようになった。

その蠱毒で踊り始めたのが、九条林檎No.5。「九条林檎」というキャラクターのオーディションのエントリーナンバー5番の存在だった。ランキング下位の存在だった彼女のなりふり構わず媚びないロールプレイはTwitterというテーブルで映えた。そして彼女は多くの人間をこの当事者に引きずり込んだ。同時に彼女は2日経たずに総合1位の座に躍り出たのであった。

彼女を誰もがダークホースだと讃えた。しかしまだそれがほんの始まりにすぎない事を、この時誰も知らなかった。


第二章:最初の脱落者

九条林檎No.5を機にオーディションの視聴者層は大幅に増えた。しかし彼女はこう言った。「目移りしてこい」と。彼女のディナー(固定ファン)として留まる者も多かったが、そうして視聴者たちは徐々に各々の「推し」を探し始めた。配信者たちもまたこのバーチャル蠱毒としてバズった事を見逃さず、エゴサ―チや配信内容の工夫に力を入れ、自らの知名度の向上を目指した。

そうしているうちに、スタートダッシュイベントは幕を下ろした。しかしこのイベントはただの前座。せいぜいポイントを稼いだ候補のサムネイルが豪華になるぐらいで、まだ脱落者は発生しない

真の勝負はこれから始まる「予選」、半分の候補が選別されるイベントだった。……その予選が開幕するほんの少し、前の事だった。

白乃クロミNo.2(ゼロツー)が辞退を宣言した。

デスゲームの主人公格、そんな風にも言われた人だった。彼女は程なくしてカスタムキャストの画像が投稿された新しいアカウントを残してこの舞台から去ったのである。これがデスゲーム最初の脱落者だった。

彼女は最後に結目ユイNo.12(ユイーン)の配信を訪れた。彼女たちは特に仲が良かった。「白乃クロミとして最後に見に来た」、言葉と3本の薔薇を残して彼女は本当に消えた。結目ユイNo.12は運営への反旗とオーディションでの勝利を誓う。

同時期、九条林檎No.1もまた静かに辞退して消えた。

ルーム名「白乃 クロミ No.02」様及び「九条 林檎 No.01」様は、ご本人様のご意向により、予選以降の選考からご辞退されることになりました。(公式オーディションページ引用)

2人の候補を欠いて、オーディションはついに決戦の場面を迎える。


第三章:新たなるダークホース

いよいよ予選が始まった。しかし平穏ではなかった。殆どの配信者はスタートダッシュイベントである程度の固定ファンを獲得していたのにも関わず、驚くべき事に、今まで物語線上に姿を現さなかった存在が次々と現れたのである。

雨ヶ崎笑虹No.12。後に富次郎と呼ばれる事になる彼女だった。彼女はスタートダッシュイベント期間中に殆ど活動出来ず、全くその影が見えなかった事から「笑虹の12番は欠番である」という説すら流れていた。しかし彼女の配信は一言でいうと他のアイドルじみた配信者とは全く異質に面白く、ランキング上位に駆け上るという快進撃を見せた。そんな彼女がラスボス、遅れてきた主人公などと呼ばれた事は想像に容易い。

また巻乃もなかNo.1(もないち)はTwitterアカウントすら開設していない圧倒的に知名度が低い候補だったにも関わらず、口コミで知名度を広げた異質な存在だった。後に本選へ進むこととなる候補の中でなんと唯一Twitterアカウントがない。こちらも欠番説があった候補だ。

スタートダッシュで既にかなり揃っていたが、この時点でほぼ全ての候補にナンバー管理以外のニックネームが付けられ、ファンの総称も確定したり独自の挨拶や合言葉も浸透しつつあった。スタートダッシュから予選にかけて徐々に「魂」の個性も発揮され始め、ポイフルが好きな九条林檎No.6(ポム様)やエビが好きな結目ユイNo.1(エビ)などアイテム・好物付きとして浸透しきっていた。

また運営のガバガバ感や異常性も徐々に露呈してきて、候補が怒りを示す場面も少なくなかった。前述した結目ユイNo.12(ユイーン)をはじめ、巻乃もなかNo.6(もなむ-)結目ユイNo.2(黒しらす)などが運営に対して苦言を呈したり運営disに走る事も増えた。純粋に運営に媚びてデビューさせてもらおうというのとは流れが変わってきたのである。


第四章:札束レースとアーカイブ

そんな賑やかな予選も早くも終了しようとしていた。候補の体調など、徐々に疲労感も見え始めていた頃だったがここで一区切りつこうとしていた。

しかしそれは敗者のTwitterもルームも、その痕跡が跡形もなく消えてしまうというリミットも意味していた。

もはやこのオーディションは各候補が個性を発揮し始めた瞬間に「元のキャラに誰が一番似てるか選手権」ではなく「どの個性が最も優れているか」という、ある意味元よりも余程残酷な話になり始めていた。元のキャラに最も忠実なのが誰かを選ぶというなら勝敗というものをまだ飲み込みやすかった。しかし視聴者はもはや「自分の愛した個性」が消えていくところをを黙って見守る事が出来なくなり始めていた。

そこで視聴者はアーカイブ化を始めた。それまでもある程度有志によって行われてきたのでこの時始まったという訳ではないが、配信の録画をYoutubeやニコニコ動画に残したり、Twitterのトゥギャッターを利用してそれまでの物語を何とか纏めようとしはじめる人間が格段に増えたのである。

自身の記事が立ち上がった九条林檎No.5などをはじめとして、ピクシブ百科事典に各々の個性を残し始める動きも現れ始めた。


それでも、だとしても視聴者はなんとか自身の推しを生き残らせたかった。勝ちあがらせたかった。予選最終日、これを最も顕著に表した出来事があった。

最下位だった結目ユイNo.7(ユイナナ)に大量のタワーが立った。タワーというのは最上級の課金ギフトだ。具体的な金額を言えば2、30万円単位の投資をした人間が現れたのであった。全ては彼女の配信を再び見たいがために。補足するとユイナナはハッキリ言ってやる気のない候補であり、実はこの予選中も殆ど配信をしてこなかった。それがとりあえず最後にやりますとなった時に、彼女の才能に惚れこんだ人物が巨額の課金をしたのである。

そう、蠱毒は課金による札束レースに突入した。本選へ進めるのは12人のうち上位5人。皆なんとかして上位5位に推しを入れたかった。当落線上をさまよう者は順位が大きく変動した。雨ヶ崎笑虹枠は特に激戦区で、雨ヶ崎笑虹No.1(エコワンコ)が終了一分前に3位から7位まで一気に落ちるレベルの大接戦が繰り広げられた。結目ユイNo.1のヘリウム配信などの奇行も多かったという。


第五章:蠱毒に残す爪痕

予選は終わった。視聴者たちは疲れ切った様子でふうと息を吐く。

翌日、審査員特別賞が発表された。これは5位以内に入れなくても本選に進出できる特別チケットだった。選ばれたのは雨ヶ崎笑虹No.1とNo.11、白乃 クロミ No.11、結目ユイNo.5。出来レースも疑われたこのイベント、はじめて見えてくる「運営の意志」に注目されたものだが、実際この候補たちは全て惜敗していた者たちであり、「数字しか見てないんじゃね?」と視聴者は思うしかなかった。

予選に敗れた30人の魂は潰えた。


と思われた。

程なくしてポイフルが好きな新人Vtuberしらすと名乗るアカウントも出現した。そう、敗者たちは各々器を変えて再生しようとしていたのである。特に巻乃もなかNo.6(もなむー)はこのオーディションを中から外から見守る存在として影ながら舞台袖に残り続け、こうしたアーカイブ化にも貢献した人物である。一方こうした転生をしないと宣言して消えた候補もいた。それでも負けた先にあったのは死の呪いではなく、再生と再会への希望だった。

そして予選終了とほぼ同時期、非公式wikiが立ち上がった。アーカイブ化の最終地点だった。

あらゆるところに散らばった各候補の情報が一か所に集まるものとして非常に重宝された他、ある意味他の人の目に留まりやすい推しのプレゼンテーションの場としての役割も持った。実際記事の充実性を見ただけでいかに愛されているか十分に伝わるものだった。


第六章:最終決戦開幕

ついに本選が始まった。

61人の候補を追うのは大変なものだったが、半減した結果皮肉にも各候補1人1人を追えるようになった視聴者も増えてきており、各候補の個性やアーカイブはさらに充実するようになった。また視聴者の財布も本気を出し始めており、結目ユイNo.12(ユイーン)雨ヶ崎笑虹No.2(エコツー)へのタワー10本(10万円分)を始め特に開幕初日は多くの金銭が飛び交う事になった。ファンアートなどのファンの動きもさらに加速した他、ファン間の統率も完成してくる。

また予選で一人の石油王により大逆転した結目ユイNo.7(ユイナナ)と石油王本人のやりとりにも注目された。また本選の最後にも同じような事を行うのかという事は他の視聴者も注目するところだった。

配信者の中には長時間の耐久配信を行う者も少なくなく、そうでなくても短い配信をこまめに行った。予選とは全く桁違いのポイントが本選ではどんどん追加されていく。喉の調子を元に体調を崩す配信者もちらほら現れる他、視聴者側にも疲労が出始めた。

応援を煽る候補がいる一方、逆に九条林檎No.5をはじめ高額の課金を諫める者もいた。彼女は課金にある程度の制限を設けていたし、九条林檎 No.09(Q様)のようにもはやランキング上位でいる事よりも配信を楽しむことを重視しようとする候補も現れ始める。SHOWROOM全体のランキングにもこのオーディションが多くの割合をしめ始め、いよいよ盛り上がりは最高潮となった。


第七章:変化する勝利条件

本選も早くも中盤に差し掛かり時、九条林檎 No.09(Q様)のようにもはや課金での支援に区切りをつける候補も出現し始めたが、ここに来てオーディションに勝つ事以外の勝利方法について検討し始める事が増えてきた。

そもそもこのオーディションは課金して推しを勝たせるという形式にはなっているものの、その金銭は推しには一銭も入らない。全て運営の懐に入って終わりである。何万円貢ごうと彼女の財布には入らない。当初から理解してはいたものの、巨額の金が動くレースに成り果てた時にその事が配信者にも視聴者にも徐々にモヤモヤの種として成長していった。配信者は純粋に視聴者を心配し、視聴者は配信者に直接貢げる方法を探ろうと思い始めた。

審査員特別賞で本選に進んだ結目ユイNo.5(ユイ姉)は「視聴者が運営に搾取され続けるのを見るのが耐えられない」と吐露し始める。彼女は自身の夢とオーディションでの勝利が一致していない事に気が付き、このオーディションを降りる結論を出した。

石油王の支援で本選に進んだ結目ユイNo.7(ユイナナ)だったが、石油王本人は彼女の性格の自由度からしてこのままオーディションを勝ち上がる事に価値を置くかという事について考え始める。運営に払う金があるならば、その金でVtuberとしてのLive2Dないし3Dモデルなりを用意できるのではないかと思い始めたのである。

予選落ちした候補たちは転生先で割と楽しくやってもいる事から、視聴者たちはオーディションによほど勝ち進みたい・勝ち進める候補以外については、居場所を用意して逃がした方が今後の為に良いのではないかという考え方に至るようになる。

しかしその結目ユイNo.7(ユイナナ)、なんと最終日を控えてTwitterが垢バレしたことから逃亡。最後に狂気的な機械音声を残してオーディションから消滅した。(これに関しては見てもらった方が早いので動画をどうぞ)

それまでロールプレイにおいては最高峰だった九条林檎No.5と並ぶと言っても過言ではないこのエンターテインメントは、最終的に九条林檎No.5結目ユイNo.7(ユイナナ)がエゴサーチ合戦になるという形にまで発展した。

なおこのユイナナの正体が別のVtuberだったのではないかという説も浮上しているがそちらに関してはここでは深追いしない。どのみち彼女はこのバーチャル蠱毒を笑って去っていった恐るべき奇才だった。


第八章:終戦

あっという間の本選最終日。分かりやすく来るべき札束合戦デーだった。

雨ヶ崎笑虹No.12(富次郎)も課金制限を設けるなど、穏健な配信者はこの札束合戦が泥沼する事を恐れ対処しようと考えた。既にこのオーディションを勝ち上がる意志のない者たちの本選最後の配信は実に穏やかなものだった。

本選最後の1時間、それは凄まじいデットヒートだった。特に結目ユイ上位4人(1、6、10、12)と白乃クロミ上位3人(3、6、11)は大接戦を繰り広げ、10万円という金額がいともたやすく飛び交った。予選の最後よりも余程お金の地獄がそこにはあった。一人で100万円レベルの金額を消費する視聴者も発生するぐらいだった。

最後の配信は泣く者、応援を煽る者、静かに終わる者と様々だった。しかしどれもこれが最後という事を視聴者も配信者も深く刻みつける配信だった。

本選から最終審査へ進めるのは上位2人。さっきまで1位だった候補が平然と次の瞬間3位に落ちるような壮絶な争いが繰り広げられた。簡単に追いつけないように20万を入れて引きはがす1位、しかし次の瞬間30万を入れて食らいつく2位、そういうレベルの戦いが行われた。

20:00、本選が終了。1位確定通過した者は祝勝会モードになり、惜しくも3位で終わった者はお通夜ムードでその時刻を迎える事になった。死闘の末「頑張った」「お疲れ様」、もはやそんな言葉しか出ないその時だった。

20:30、「九条家の食卓」と題した企画がスタートする。九条林檎の本選候補者5人全員が30分ずつリレーで放送するという、九条林檎No.9(Q様)の発案した企画だった。この恐るべき死闘を繰り広げた後に、この数週間同じ身体をかけて競い争った戦友と共同で配信するというあまりにも平和な企画だった。さらに九条林檎のキャラクターイラストを描いたイラストレーターを「母」として招き、他キャラクターの候補や予選で落ちた候補たちも一同に会してそこでお疲れ様回を行った。(※最もイラストレーターのLAM氏はイベント期間中から時々12人の娘の配信を眺めに来ていてマパ上様とか呼ばれていた)

デスゲーム・蠱毒と称されたこのイベントが、この平和な放送によって大団円として幕を下ろす事が出来たのであった。完。


第九章:終了後の余暇

本選終了翌日、審査員特別賞が発表された。巨額の金が動いたあの戦いで惜しくも敗れた白乃クロミNo.6(クロック)結目ユイNo.1(エビ)No.6(ユイロク)がこの審査員特別賞によって救われた。その他九条林檎No.10巻乃もなかNo.5、雨ヶ崎 笑虹No.2もまた2位と大きく差がついているにも関わらずこの賞により面接進出を決めた。順位よりポイントで足切りしていくのではという説もあっただけに、相変わらず最後まで運営の思惑は良く分からない。

とはいえ面接会場はバーチャルではなくリアル。候補者たちは会場で出会えることを心待ちにしたり、ご飯を食べに行きたいオフ会をやりたいと候補者同士の交流にも期待を膨らませていた。

最終面接はあれど、視聴者が見守っていける事象はここで終わった。特に「九条家の食卓」のお陰でこの物語は大団円で終わる事が出来た。視聴者たちは勝者にはおめでとう、敗者にはまた会おうと声を掛けた。「蠱毒デスゲーム」と呼ばれるおぞましい戦いはもはやそこには無かったのであった。

そして最終面接の日、面接候補のTwitterを見るとどうやらバラバラに面接された様子であった。内容については視聴者視点では不透明だったがその日の夜、結目ユイNo.12(ユイーン)による面接お疲れ様配信が「九条家の食卓」と同じ形式で行われ多くの配信者が集まった。配信者たちもやはりオフ会をやりたい意志は強いようで、今後に期待を馳せた。

最終章:結果発表

面接翌日、17:00。結果が発表された。合格者は以下の通り。

雨ヶ崎笑虹No.6(SNOW)

結目ユイNo.10(ボス)

巻乃もなかNo.7(もなな)

白乃クロミNo.3(ミミ)

九条林檎No.5(林5様)


以上5人に決まった。

蠱毒のストーリー性の上には居なかったが、持ち前のアイドル性からスタートダッシュイベントから圧倒的な人気を誇っていた笑虹No.6もなかNo.7、そしてこのバーチャル蠱毒の「バズり」の中心にいた林檎No.5

そして大接戦だった枠を勝ち取ったのはユイNo.10クロミNo.3だった。このクロミNo.3は唯一ランキング2位から取られた事も話題になった。クロミの候補だった3人はほぼ互角。どこから選ばれてもおかしくなかった。

ちなみに勝者となったもなかNo.7ユイNo.10クロミNo.3の3人は元から「酒笹漫」とユニットのように称されるほど仲が良く、接戦枠を揃って勝ち取った事やクロミが2位から採られた事もあり「出来レース」や「ユニット優先採用」を疑われた事もあったが、真実は運営のみぞ知る。

そしてこの日、最終面接での敗者たちの最後の配信が行われた。敗者たちが配信できるのはこの日の23:59が最後。唐突な別れだった。

配信者と視聴者は各々別れを行った。雨ヶ崎笑虹No.12(富次郎)は0時スレスレまで配信し「このオーディションは私にとってまだスタートダッシュだ」と未来への展望をエモーショナルに語った。白乃クロミNo.11(シロクロ)は配信者を集めて人狼ゲームを行った。予選落ちした者から最終面接まで残った者までキャラクターの垣根を越えて遊び、この戦いを終えた。そんな中、結目ユイNo.12(ユイーン)は徹夜の耐久配信を行った。本来配信して良いのは日付が変わるまで。しかし彼女は運営にBANされるまで耐久で配信を続けようとしたのだ。結局運営のBANはないまま体力が尽き、朝終了した。


そして惜しくも最終面接で落ちた配信者たちは口々に配信で、Twitterで、こう語った。

あと1週間、あと1週間待ってて」


第十章:蠱毒の終焉

「蠱毒」が終わり、最後に5人が残った。

とはいえ、これはある意味呪いの始まりでもあった。

「負けた残りの11人のファンが勝者のアンチになってしまうのではないか」

こんな事ははじめから懸念されていたことだった。自分が「その器」だと思った魂と性格も声も何もかも違う。参加キャラクターは5人。自身の推し、あるいは許容範囲である魂に5人全てが収まったという視聴層はどれほどいたのか、逆に拒否反応を起こした視聴層はどれほどいたのか。数える事は出来ない。しかし負の歴史も観測した以上は正しく刻むべき、として全て記す。

巻乃もなか(元No.7)結目ユイ(元No.10)白乃クロミ(元No.3)の3人は元から「酒笹漫」とユニット的に称されるほど仲が良く、リレー配信企画やコラボ配信企画も行っていた。そんな中やはり3人全てが推しではないという層も少なくは無かった。1人は推していても残り2人は別の魂を推していたという層は本人たちのユニットムーブを受け入れられなかったり、特に結目ユイ・白乃クロミ枠は激戦区だったにも関わらず揃って受かったのは本当に実力か?という疑惑も少なからず存在していた。

ある意味こうしたユニットムーブは、誰か一人でも受からずに欠けたら悲しいし、全員受かったら受かったで要らない疑惑を生むものであると苦言を呈したファンも存在していた。

DM・マシュマロなどによる批難が殺到し始めたとして、特にユイクロミは釈明のツイートが増えた。徐々にヒートアップし始めて言葉が強くなってくるのを落ち着かせようとしたファンも存在した。

また、この頃は本選や最終面接で敗れた候補者の移動先アカウントも増え、彼女らのツイートを視る事も出来るようになった。「1週間待て」と言われて「公式転生か?」とファンたちが期待を寄せる一方で、徐々に不穏なツイートが増えた。

富次郎(元 雨ヶ崎笑虹No.12)木村牡丹(元 結目ユイNo.5)など転生を望まれている人気候補者から徐々に「舐めている」「法律相談」「良く思っていない」「どうしよう」「戦う」など不穏なワードが飛び出し始めたのである。

加えてクロハチ(元 白乃クロミNo.8)しらす(元 結目ユイNo.2)からは公式運営からスルーされるというLINE晒しが発生し、めりめり(元 巻乃もなかNo.6)などから公式から転生を提示されているもののその条件があまりにも酷いものであるという事も明かされた。結目ユイ(元No.10)クロハチ(元 白乃クロミNo.8)しらす(元 結目ユイNo.2)と上記の事についてかなり強い口調で喧嘩腰の会話を始めたりしはじめた時は、あまりの険悪ムードにファンが諫めに入ったり、もなは(元 巻乃もなかNo.8)が落ち着かせようと配信を始めるような場面もあった。

これには希望溢れる1週間後の発表を待ち望んでいたファンたちも口々に、「蠱毒よりよほど酷い事が起こっているのではないか」と囁くようになる。

このような事態から遠ざかったファンや、蠱毒終了後飽きてしまったファンも少なくはなく、九条林檎(元No.5)が中心となってファンを引き留める策などに工夫を凝らす事になる。


そうしているうち、ついに公式Twitterから知らせが来る。

「オーディション極 afrer開催!」

「after」と書こうとして「afrer」に誤字ってしまう運営は、結果発表日のHPで「オーディション」を「オーデション」と誤字った時から全く何の進歩も無かった。さてこのafterは、同じキャラクターの候補者同士が集って座談会をするような所謂「九条家の食卓」の公式バージョンのようなものだった。

このafterは土曜日に開催され、ややマイクの接続不良などの放送事故こそあったものの、様々な懸念を越えて無事に楽しいものとなった。2人での配信であったことから1人1人が前に出ていた林檎枠、わちゃわちゃカオスだったクロミ枠、ひたすら癒しの時間だったもなか枠、個性がバランスよくまとまっていた笑虹枠、ヘリウム地獄だったユイ枠……。

そしてこのafterの最後に雨ヶ崎笑虹(元No.6)が司会となってこう告知される。


2019年1月、公式転生プロジェクト決定!



→第二部へ続く




番外編:病気(やまいけ)氏とユイナナ

この短いバーチャル蠱毒という文化の中では、ほんの急速な文化形成が行われた。ポイントやランキングをせっせと集計する者。アーカイブを残そうとする者。転生先で生かそうとする者。実況をしていく者。様々な視聴者間のコミュニティを形成された。

その中でとりわけ著名になった視聴者が病気(やまいけ)氏だった。

このやまいけ氏というのは件の結目ユイNo.7(ユイナナ)に高額課金した人物である。氏もまたVtuberであり、ユイナナの才能を買って「こんな面白い奴にここで消えて欲しくない」、ただその一心で彼女に高額課金して本選へと進ませた。実はそのレベルの金額を課金したのは何も氏だけではない。しかし氏のユイナナへの真摯さはこの蠱毒の中で輝いていた。

予選を「また聞きたい」その一心で進ませた氏だったが、本選でも必要性があれば同じように金の力で彼女を勝たせるつもりだった、そうだ。しかし徐々に氏は迷い始める。このオーディションで勝たせるよりももしかしてその金で転生を勧めた方がいいのではないかと。

ユイナナはなんと厚かましくも「課金するぐらいならニンテンドースイッチを買ってくれ」と言った。氏はそれでもいいと思った。しかしオーディションの上に居る以上、直接の金銭のやり取り、欲しいものリストを晒したりするのは難しい事だった。とはいえその彼女の自由さを見ると転生を勧めてもふらっと消えてしまいそうな力強い儚さがあり、それを氏はもっとも恐れた。

その杞憂は正しかった。ユイナナは突然謎の音声とTwitterに暗号を残して消えた。それを見て「気持ち悪いストーカーから逃げたかったんだろうな」と氏を責める者もいた。氏もまた距離感を測りかねた事も自身の言動も自責していた。実際距離感の近さは事実だった。

しかしユイナナは戻ってきた。それは彼女自身がそうした方が面白いと思ったからか、或いはやまいけ氏への恩義だったのかは分からない。ひとまず友達になれてよかったね。と終わった。

ちなみに氏はユイナナの才能を評価したVtuber・DeepWebUndergroundにもなぜかスイッチを送った。コネづくりだったとの事だが即売られた。


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