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魔法の天使は魔法の「聖母」になった-高田明美展

吉祥寺東急で開催中の「高田明美個展 Angelic Moment –anniversary」に行った。高田明美さんの個展は4回目。今年は高田さんのデビュー40周年と「クリィミーマミ35周年」のアニバーサリーということで、マミの放映開始日の7/1を含む開催日程になったとのこと。

クリィミーマミについてさらっと触れると、魔法の力で少女がスーパーアイドルに変身するストーリー。クレープ屋・トップテンといったリアル世界と「夢の世界フェザースター」が交差する、夢と現実の間のアニメだった。

可愛いものに興味を持ち始めた年齢の少女は絶対的に通るのではないかと思われるほどに、私の周りの女の子はみんな、マミちゃんに夢中だった。圧倒的に可愛く、そしてどこかちょっと小悪魔で、独特のしゃくりと鼻にかかった甘い声で恋心を歌うマミちゃんは、絶対的なアイドルだった。

誰もが、不思議な髪型とひらひらレースのミニスカ衣装に苦労しながらマミちゃんのイラストを描いた。その中でも執拗に模写をし続けた私は、友達の中で「一番うまい」と称賛された。思えばイラストを描いて褒められたのはあれが最初の出来事かもしれない。調子に乗った私は、ノートがいっぱいになるほどにマミちゃんを描き続けた。

そんな圧倒的マミファン、そして高田さんの描かれる絵に影響を受けまくり今でも手癖は高田さんの絵を真似た絵ですと言い切れる私だが、実は恥ずかしながら個展に足を運んだのは今回が初めてである。今回こそは絶対に行くぞと心に決め、ゆっくりと見られるであろう平日昼間を狙い、会場に向かった。

さて、マミちゃんは「魔法の天使」という冠・タイトルがついている。当時は「天使」については深く考えず、ただ何となくのイメージで、ふわふわと可愛いものだというカテゴリーに入れていたのだと思う。「魔法だし天の使いか、スティック持ってるし」くらいのノリだったかもしれない。

今私は立派なおたくになり、ついでに腐女子になり、はやりの言葉で言えば「推しが天使すぎて尊い」という状況だ。この場合の「天使」は純粋無垢・素直・可愛い・けがれを知らない、などの意味を含み、とりあえず可愛いものは全て「天使」として取り扱い、尊ぶことにしている。

当時からさすがに年も取り、いろいろなものを見て考えて生きてきた。でもきっとマミちゃんはあの時のマミちゃんのまま、そう思って原画展の一枚目の絵を見た。

うん、マミちゃんだ。相変わらず可愛い。

そしてカラー原画展示のトップは、この個展のために高田さんが描きおろされた、つまり2018年のマミちゃんだった。

※この会場用パネル・チラシ・チケットなどに使用されている絵の原画※

美しかった。そして圧倒的に可愛かった。ぱっちりとした目、ふわふわの髪、そして何と言っても唇。今にも、あの甘い鼻にかかった歌声が聞こえるようだった。当たり前に原画は美しく、印刷された物には無い白の存在感、質感、どんなにデジタルが発達しても表現のできない色、そういったものが絵から伝わってきた。

しかし何となく、ほんの少しだけ何かが違うと思った。嫌な違和感ではない、でもそれが何なのか分からない。そしてそれは、2枚目、3枚目の絵と進むにつれ、はっきりと自分の中の違和感が確信に変わっていった。

「"あの時"のマミちゃんじゃない」

当たり前だ。あれから計算上35年の時が経っている。自分の感性も変わり、高田さんの絵の描き方も変わられた。しかし「マミちゃんではない」ではなく「"あの時"のマミちゃんではない」と自分が感じた、その理由を知りたかった。

順路を進むにつれ、当時のイラストも飾られ始めた。マミちゃんだ。当時私が好きだった、可愛くて可愛すぎて、小悪魔的なものさえ感じた、そしてちょっとハードなロックも似合いそうな16歳のマミちゃんだった。

80年代。アイドルの時代。確かにマミちゃんは1人のアイドルとして、現実のアイドルとも対等に渡り合えるアイドル性を持っていた。二次元だけれども現実にもいるアイドルだった。そして私は、ひとつの結論にたどり着いた。

マミちゃんも年齢を重ねたんだ。

こうして文字にしてみると「いやいや」「は?」と思われるかもしれない。それでもあのマミちゃんは、2010年代に描かれたマミちゃんたちは「天使」ではなかった。自分の中にある「天使」の定義から外れ、もっと違う要素を持っていた。美しい、尊い、可愛い、それに加えて感じる何かがあった。そして、ふたつ目の結論が出た。

聖母だ。

わがままな所もあるかもしれないアイドルではない。このマミちゃんなら女優もこなすかもしれない。俊夫のことは、「俊夫くん」や「としおぉ!」ではなく「俊夫さん」と優しく呼びかけるかもしれない。何なら、結婚して子どもの1人や2人産んで育て、アイドルに復帰をしたのではないかとさえ感じた。

優は年を取っていないじゃないかという突っ込みやアニメ最終回のことは置いておいて、私は自分の出した結論に納得した。

「やっぱりこれはマミちゃんだ!」

マミちゃんの誕生日は1983年7月15日。つまり現実に置き換えれば35歳。

そう考えると2010年代に描かれた絵も、「なるほど」と何の違和感もなく見ることができた。そうだ、マミちゃんも年齢を重ねている。アイドルだもんな。文字にするとだいぶヤバい人のようにも思うが、会場で生原画を見ればきっと、そうだねと納得してくれる人が1人くらいはいるかもしれない。

会場には、マミちゃんの他に、ラムちゃんや野明のイラストもあった(野明は遊馬とすっかりいい感じになっていた)。すべてのイラストをじっくりじっくりと見、平日午前で空いていたのをいいことに会場を2周3周とした。1枚、また1枚と、見るたびに新しい発見があり、感じ方が変わり、繰り返し同じ絵を眺め続けた。

高田さんご自身は、あの時のままのお気持ちでマミちゃんを描かれたと思う。けれども私はそこに、マミちゃんが芸能界で過ごしてきたかもしれない時間を感じた。イラストの中に時間の経過と、描かれたキャラクターの人生を感じ、受け取った。

私の個人的な勝手な思い込みには違いないが、魔法の天使は時を経て、きっとあれから恋と愛を知り、聖母になった。マミちゃんはマミちゃんであり、そしてこれからも、いつまでも私のアイドルだ。

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