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雪組「夢介千両みやげ」感想

 そろそろ何かしら書かないと忘れてしまいそう。(私が)ということでとっくの昔に無事千秋楽を迎え、次の別箱公演も終わりが見えてきそうですがこの公演を。
 まぁ色々発表もありましたので、それについても。

作品の感想

 この公演私はとっても楽しかった!主役2人より周りが目立つ作品だし、「宝塚らしくない」というのはごもっともだし、それでいいんかいと思うところもある(総太郎とか総太郎とか総太郎とか)けれど、登場人物みんな好きになる作品でした。まあ夢さん大抵お金で解決してたけど笑
 ただ、じゃあ金があればいいのかといえばそうではないんだろうな、というのが夢介を見てると分かる。お金ってやっぱりどの時代も人の本性が見えるものだし、やっぱり金持ちと貧乏人だったら金持ちの方が立場が強くなるのはこの世の常で、お金で人を意のままに操ることだって出来るわけですよ。でも夢さんって本当にお金の見返りを求めないよね。舎弟を増やしたいわけでも、女性にモテる為でもなく相手が困っているから、相手に申し訳ないことをしたからあげている。金の見返りに物事を意のままに操ろうとする人たちが多い中で純粋に「世のため、人のため、人生修行のため」に大金をポンと出すのは見ていて気持ちがいいというか、そりゃモテますわ旦那といったところですかね。
 この作品に出てくる女性って巾着切り、芸者、手妻師という割とお金に左右されてきたというか、オープニングで早乙女ちゃんたちが歌う「色恋沙汰も金次第」を地で行っている人たちな訳ですよ。あとは問題児総太郎も完全にこちら側ですよね。
 そんな人達の中で夢介の持つ公平さと強さが光っていた作品でした。


キャスト感想

 キャスト感想というか各登場人物について掘り下げる形になりそう。あとショーでの印象もチラホラと。

夢介(彩風咲奈)

 「牛のようにボーッとしている」と評されるけれど誰よりも機転が効くし頭もいいよね?とツッコみたくなる不思議な人物。最初お銀に「悪い人に付けられている」と言われた時ちらっと金の字達を確認するのだけれど、ひょっとしてその時にもうお銀の嘘に気付いてたのかな?誰彼構わずお金をあげているように見えて一つ目の御前達には抵抗するあたり、彼はただのお人好しではないよね。

 咲ちゃんってのんびり穏やかなキャラクターをやっていてもどこかに賢さが見えるなぁ。それが今回の夢さんをより魅力的に見せていたと思います。あと総太郎とお松の祝言の後のお銀との銀橋でお銀を見る目が本当に優しくてときめきました。芝居、ショー通して滲み出る安心感というか、この人に任せておけば大丈夫みたいな風情がとても素敵でした。お気に入りはニョーヨークとオーロラとデュエダン。ニューヨークは出てきた瞬間スタイルの良さに度肝を抜かれました。あと今回のショーの時の髪色がすごく素敵でかっこよかった‼︎

お銀(朝月希和)

 巾着切りから押しかけ女房へ華麗なる?転身を遂げたお銀さん。宝塚のヒロインかと言われると微妙だけど確かに夢さんの大切な恋女房でした。
 何より夢さんの道楽修行に意義をもたらしたのは彼女でしょう。「世の中に擦れて悪の道に進んでいた人たちが夢介と出会うことで改心する」というのがこの作品のお約束でその改心する人第一号がお銀さんな訳だけど、他の人とお銀さんの違うところってお銀さん自分から改心するんだよね。(他の人は割と夢さんが諭しているイメージ)いやはや恋の力は素晴らしいといったところでしょうか。
 けれども夢さんが三太や悪七、総太郎を改心させようと迷いなく諭すのは夢さんの人柄もあるけれど自分に惚れて足洗って着いてきたお銀さんの存在は大きいのではないかな。人間は自分の意志で生き方を変えることが出来る。そして人の一生に影響を及ぼす事も出来る。このただただ楽しい作品で「学び」があるとすればそこだと思っているのですけれど、そんな作品を象徴するヒロインでした。

 希和ちゃんは「美人」というより「可愛い」タイプだし姐さんより妹タイプだと勝手に思っていたのですが、姉さんタイプのお銀さんがハマっててびっくりしました。啖呵を切る所の威勢の良さも嘉平さんに「粋」と評される着物の着こなしも素敵でした。もちろん夢さんとのラブラブっぷりには当てられたし、三太やお松、お糸など自分より年下の人たちに向ける優しさが良かった。

 ショーでは「艶」が出てきたというか、本当に彼女の娘役としての矜持を感じるシーンがたくさんありました。印象的なのはやっぱり赤いベルベットドレスで男役を侍らせていたシーンとデュエダンでしょうか。1つ1つの仕草が本当に綺麗で、特にデュエダンは素晴らしかった。最後銀橋でポーズをとった時にドレスの広がりが本当に芸術的でうっとりしました。

 退団発表についての思いは前回書きましたが、とにかく健康で充実した最後の5ヶ月間を過ごせることを心の底から祈っています。いなくなったらきっと寂しくなるなぁ…ODYSSEYみたいなぁ…

総太郎(朝美絢)

 まぁどうしようもないボンボンでしたね。もうそうとしかいいようのないキャラクターなのだけれど、あそこまで突き抜けられると気持ちいいというかお見事というか。確かに顔はいいし。あーさといえば地上波出演のたびにバズっているイメージ個人的に今回の総太郎がビジュアル的には過去一好きでした。本編終了後は各方面から睨まれながらお松の尻に敷かれていてください。
 ショーでは充実ぶりを発揮していましたね。前回のFFの時より出番が少なかった分、歌にもダンスにも余裕が感じられたのがよかったなぁ。一番好きなのは中詰めかな。和希&夢白ペアから歌い継いで咲ちゃんの登場をグワッと盛り上げるあそこの部分の声圧が素晴らしかった。あとは夢白ちゃんとのシーンも最近色物っぽいのが続いていたから久々の正統派な軍服姿が見れて良かった。

三太(和希そら)

改めましてようこそ雪組へ!本当なら1月に「雪組の和希そら」には出会っているはずだったと思うとやりきれないですが、それはまあ置いておきましょう。
 とりあえず一言で表すならば安心安定の和希そらといった感じでしたね。何やっても上手いなぁ。観る前に前情報として三太が17才だとは聞いたとき結構若いなぁでも彼女ならいけるかと思っていたけれど、実際見ると想像以上のクオリティの高さでした。そもそもあんなに「子供!」って感じの声出せるのか… そしてそのまま歌えるのか… コメディの間も良かった。「けなしてんのかほめてんのかどっちだ?」というセリフが何回聞いても笑えるのだからすごい。
 ショーでも大活躍だった。やっぱりオーロラとプラズマの場面が一番好き。冒頭のプラズマだけの時もちろんいいけれど、途中コーラス部隊の美声を堪能していたら恐ろしいスピードで走りこんできてキレッキレに踊りだすのが毎回ツボでした。
 あと咲ちゃん、あーさ、そらくん という並びってバランスいいな。「FF」の時の咲ちゃんが真ん中でドンとしていて、あーさがギラギラしていて、その周りに柔らかい綾さんと若さ!スパークリング!みたいな縣がいる、という布陣も大好きだったけれど、今回そこにそらくんが入ったことで各々のよさがさらに引き立った。咲ちゃんとそらくんのバランスが結構好き。咲ちゃんとあーさだとあーさが持ち前の熱さというか圧というかで咲ちゃんにぶつかり咲ちゃんが受け止めるというイメージだけど、咲ちゃんとそらくんってそれぞれの厚みが増すようなイメージ。どう表せばいいのか分からないのだけれどオーロラの場面の最後二人で踊っているのを見ていいバランスだなと思いました。

金の字(縣千)

 遊び人姿のかっこいいことよ。よく一緒にいる斎藤兄弟が「ザ・武士」な袴姿だからか、着流しに下駄の金さんが粋っぽくてスターさんだわぁとしみじみ眺めておりました。最後のお白州はだんだん良くなっていったなぁ。もっとたっぷり間があってもいいのに!と思っていたら東京楽は間も迫力も素晴らしかったです。(余談ですが私が劇場で観劇した回には高橋英樹夫妻もご観劇でして「うっわー!本物!頑張れ縣!」と観劇中心のなかでエールを送っていました)
 芝居、ショー通して宝塚と雪組は本格的に縣千特訓プログラムを組み始めたのね、と言いたくなる構成でしたね。綾さん、あみちゃん(彩海せら)と彼女と肩を並べていた人たちが一気にいなくなった上に新人公演学年も過ぎたことで色々と節目の年になるのでは?
 あくまでスカイステージでの印象ですが、彼女は抜けている部分もあるけれど基本的にすごく真面目なんだろうなと思います。ナウオンステージで役のこととか話している姿を見ると考えていること、表現したいこと沢山あるんだなと再認識します。(当たり前だろというお言葉は甘んじて受け入れます)以前にも書いたことがありますが私彼女の技術面の難点(特に歌)はあまり気にならないのです。ただ番組でたくさん話している彼女を見るとその表現したいことがたくさんの観客にきちんと伝わるようになってほしいな、東京楽でのお芝居が宝塚の時から出来るようになればもっと魅力が広がるんだろうなと成長を願う気持ちも確かです。まだまだ道はこれから。頑張れ縣!

悪七(綾鳳華)

こういう役出来たんだ…という発見がうれしいような、もっと早くこういう面を見せていればあるいは…と少し悔しいような。何にせよいいサヨナラ公演でしたね。初見で何に驚いたって。あんな野太い声が出せることをサヨナラ公演でやっと知りました。綾さんはどうしてもいい人キャラが廻ってくることが多かったし、そういう役やらせたら絶品だとも思っていたけれどやっぱり芝居だといい人って影薄くなるのよね…綾さん悪役廻ってこないかなとも思っていました。と同時に綾さんの男役にしては高くて柔らかい声質は悪役には向かないから仕方ないか…と諦めてもいました。それが最後の最後でこの役。初登場でお銀に絡みに行く時のガラの悪さに驚きました。悪七はそこまで悪い奴ではなく、途中で改心するし奥さんとはラブラブ。そういう話の展開も含めいいサヨナラでした。お糸ちゃんのお蕎麦屋さんの前でみんなと話しているのが本当に楽しそうで、それを見ながらちょっと泣きそうでした。
 ショーでは綾さんのダンス好きだなぁとしみじみ感じていましたね。何というか柔らかくて軽い。結構難しそうなことをしているのだけれど余計な力が全く入っていなくて、だからこちらも息を詰めずに見ていられる。そんな綾さんのダンスが大好きでした。

その他

 とりあえず一つ目の御前ご一行の濃さは忘れてはならない。真那さんの絶対セリフの前にタメがある御前はほんと最高だし、あとシティーハンターの時も思ったのだけれど久城さんのあの「ザ・悪役チームの中間職」みたいなセリフ回しがかなりツボです。あとは猪崎先生(星加梨杏)はずるいよね。あんなクールキャラでいて最後長ネギ頭にブッ刺しているんだもの。彼女は結構素顔可愛い系なんだけど、メイクでだいぶ変わるからいつもびっくりしています。
 それからとにかく強かった女性陣!一見嫋やかそうなのに見えて延々キャットファイトを繰り広げている梅次さんと浜次さんは美しかった。もう浜次さんの身の上話(弟が蜆漁するところ)は本当大好き。あそこで急にミラーボール回るのが絶妙に茶番感を出していていいよね。あとは同じくよくミラーボールを回していた春駒太夫。愛すみれさんの色っぽい声が三太の言うところの「玄人の女」感を出していたな。

 とにかく見どころたっぷり細かいことは気にするなの楽しいコメディでした。次は久しぶりの一本物芝居。そちらも楽しみです。


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