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ニンジャスレイヤーTRPG入門用ソロアドベンチャー第5回:「ツキジ・ダンジョン深部へ潜れ」: リプレイ【マグロ・アンド・マーケット・ルインズ】#0

……昼なお薄暗い安アパートの一室。部屋の住人と思しき男がノート型UNIXのキーボードを一心不乱に叩いている。窓の外は、今日も今日とて重金属酸性雨に濡れそぼつネオサイタマの街並み。UNIXの液晶パネルのバックライトに照らされる若い男は一見するとハッカーのようにも見えるかもしれない。

かれこれ二時間ほど前から、その男は何らかのタスクをこなすべく死に物狂いである。液晶に映るのは複雑怪奇な折れ線チャートでもない。得体の知れないワイヤーフレーム三面図でもない。とあるメガコーポの顧客名簿でもない。インサイダー情報でもない。何の変哲もない、一般的な文書ファイルである。

では彼は間近に迫った締め切りに苦しむ小説家であろうか?或いは、レポート提出期限に悪戦苦闘する大学生であろうか?観察を続けよう。彼がしたためているのは上位者に対する何らかの報告書のようであった。油断なき読者の皆さんには、それがケジメ逃れの方便めいた文章であることが読み取れるだろう!

【マグロ・アンド・マーケット・ルインズ】

トコロザワ・ピラーにはソウカイニンジャの本拠地あり。その一角を占めるトレーニング・グラウンドでは招集された末端ニンジャが雁首そろえて互いの顔を見合わせていた。ある者は落ち着かない様子で周囲を見渡し、ある者は周囲を威圧し、ある者は泰然と構え、ある者は叱責とケジメの予感に怯えている。

「スミマセン、遅れました。ドーモ、スミマセン」整列しているサンシタニンジャの集団に、遅れて混じる満身創痍のニンジャあり。彼の名はノーマーシー。(ソニックブーム=サンは……まだ来ていないようだな)彼らサンシタを呼び寄せた張本人である上位ニンジャ姿は未だ見えない。(間に合った、のか)

何らかの緊急性の高い任務であろうか?それならばトコロザワ・ピラーに集められるのは不可解である。十分なブリーフィングも行われないまま、現地に近いニンジャから逐次投入されて消耗するのが彼らサンシタの日常であるからだ。ならば重要度の高い任務が課されるのであろうか?その線も薄そうである。

ここに並んでいるのは、自分も含めて目立った実績もカラテも持たない標準的なサンシタばかりであることがノーマーシーには瞬時に理解できた。重要度の高い任務に駆り出されるには考えにくい。……あるいは、任務にあたる主力部隊は別におり、その囮を命じられるということならありえるかもしれないが。

考えられるとすればザイバツの侵攻、それも大規模な作戦であろうか?規模では劣るが身近で現実的な、厄介な敵も存在する。平時には市民に紛れるイッキ・ウチコワシである!ネオサイタマで暴れる悪い奴らと言えば(我々ソウカイヤを除外すれば!)こいつら以外にはありえない、とノーマーシーは考える。

(緊急性は高くないが放置すれば危険な潜在敵を人海戦術によるローラー作戦で探索、撃破する任務とか?いくら我々サンシタが暇だからと言って現実的とは言えないな。既に目星が点いているなら話は別かもしれないが)そこまで考えた彼のニューロンに残酷な結論がスパークした。……懲罰的な任務である。

その時である。ソウカイニンジャ達の視線が、ある一点に注がれる。音もなく開かれた自動ドアをくぐり抜けて、サラリマンめいたスーツ姿の胡乱な男性がエントリーした。「ドーモ。全員集まったみたいですね?サンシタニンジャの皆さん。初めまして」「……ア?」サンシタ呼ばわりで殺気立つニンジャ達!

「私の名前はフマトニ。皆さんの教育係を任されています。血気に逸るサンシタニンジャの皆さん、名刺は必要ですか?皆さんを集めたのは今から任務の説明を……」慇懃無礼なサラリマンめいた男の態度に短気なサンシタニンジャ達の我慢は限界に達した!「アッコラー!!」「誰がサンシタだオラー!?」

列を飛び出したサンシタは四人!他のサンシタもフマトニと四人の勇者を囲むように円陣を組み始めた。「ヤッチマエ!」「ガンバッテクダサイ!」即席のストリートファイト・リングである!あまりの事態にノーマーシーは取り残される。(フマトニ?オイオイ、どう見てもソニックブーム=サンとしか……)

「ドーモ、アイスエッジです」「俺の名はフレイムサイ!」「バレンシアです」「……パープルタイトロープ」アイサツを済ませると四人の勇者は各々の武器を構える!カタナ、奇妙な形状のジュッテ、ヌンチャク、ボー!「フマトニ=サンとやら!ニンジャを舐めるとどうなるか、思い知らせてやるぜ!」

一分後!オツヤ・リチュアルめいた静寂の中、四人のサンシタニンジャは地面に伏していた!頭目と思しきアイスエッジの背中をフマトニが念入りに踏みにじっている。「任務の説明をしてもいいですか?」「グワーッ!」「いいですね?」「グワーッ!」フマトニが周囲に向き直る。「皆さんもいいですね?」

「「「「アッハイ」」」」

そういうことになった。

(続く)

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