さよなら徳島そごう。
ラブレターを書くような気持ちで書いている。書いたことないけど。
デパートが好きだ。どこでも同じようなテナントが入るショッピングモールやアウトレットと違って、歩んできた歴史にそれぞれの人格があるような気がするから。
最新とは言い難い業態で、時代からは完全に取り残されようとしているとしても。
父の転勤で幼少期を5年間徳島で過ごした。
言葉にも馴染めず、知り合いもいない。母はさぞかし苦労したんだろう。町で唯一のデパートによく行った。
徳島そごうとの思い出はそこに詰まっている。よく行った地下のうどん屋、閉店間際に鳴る音楽、雨が降ったことを知らせるあの曲。絵本を買ってもらった本屋。そして屋上のひなびた遊園地。一度だけ祖母と自転車で行った時に入ったパスタ屋さん。ミートソースに乗っていたミキプルーン。昨日のことのように覚えている。町に一つだけの少しワクワクする場所だった。
徳島を離れて15年が経ったある時。
社会人になってから不意に徳島へ行きたくなった。思い立ったが吉日。何も考えずに飛行機に飛び乗った。思い出の場所を巡ろう。もちろん徳島そごうにも足を運んだ。
屋上遊園地はまだあるかな。さすがにもうないかなんて思いながら。15年ぶりに足を踏み入れたら、びっくりするくらい何も変わらなかった。
15年分色あせたパンダやアンパンマンががまだいる。昔乗った小さな機関車も。
ここだけ時が止まったのだろうか。なんてことはない。徳島の中心街全体で時が止まっていただけなのだけど。
地下に行って、家へのお土産で鳴門金時を買うことにした。住んでいた時には絶対に買わなかったような上等な鳴門金時にした。
お店のおばちゃんは勤続何十年のいかにも年季が入った人だった。
お礼を言った後に思わず「つぶれんといてな」とつぶやいていた。おばちゃんは「もうちょい頑張るわ」と言ってくれたんだっけ。
どんな言葉が返ってきたか忘れてしまった。ただしあの穏やかな顔が忘れられない。誇りを持って働いている姿はとにかく素敵だった。
勝手に安心した。この場所がなくなるはずがない。町に唯一のデパートなのだからと。今思えば信じたかっただけなのかもしれない。
こういう名もなきプロたちが支えて、守ってきた場所なのだ。なくなるのはあまりに惜しい。
お世辞にも綺麗とはいえない建物だけど、こんな一人一人の思いが、壁に、売り場に、控え室に染み込んでいる。ずっと心の中には生き続けるんだろうなあ。本当にありがとう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?