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君が名勝負を振り返らないから、私が名勝負を振り返る -かるた展望第77号「名勝負を振り返る 第3回」の裏側

 かるた展望第77号に掲載されています「名勝負を振り返る 第3回」を執筆しました競技かるた研究家です。今回は、今村元クイーン×金山元クイーン×久保永世クイーンのトリプル対談です。読み応え抜群の内容なので、是非読んでほしいのですが、今回は持っていない方や読んだ方がもっと楽しめるようにということで、裏話を書きたいと思います。

対談のきっかけ

 今回も奈良県の北野さんの協力のもと、トリプルクイーン対談企画が指導しました。今から40年以上前の話ということでなかなか現代と結びつけるのは難しいのですが、今村さんがあと一歩で永世クイーンを逃した話、かるた史上初の永世クイーンである久保さんの話、また小林先生という今村さんと久保さんを育てた凄い指導者がいたという話は、今振り返っても興味深いでのはと思って、前情報を調べて準備しました。また、当時はかるたをする女性選手の立場も大変なことが多かったと予想されましたので、そのあたりを盛り込めればと思いました。

今村元クイーン×金山元クイーン

今回の記事の冒頭で取り上げた今村元クイーン vs 金山元クイーンは、今村さんの永世クイーンがかかった試合でした。しかしながら、金山さんが2連勝で奪取しました。やはり二人にとって印象深かったのか、いろいろ話が聞けて興味深かったです。中学からかるたを始めた今村さん vs 大学からかるたを始めた金山さん、山口 vs 東京 or 神奈川のような構図もあり、様々が対比的なのが興味深かったです。当時はクイーン戦でバチバチした関係でしたが、今は仲の良い友人関係であり、年月の推移が感じられるのも素敵でした。

小林先生

 ある意味、今回の対談の影の主役と言える方です。今村さん、久保さんをクイーンに育てた指導者です。野球部の顧問でもあったという異色の経歴です。記事でも言及していますが、かるた部での練習で大声を出すところから始めたり、自宅に呼んで練習させたり、年末年始に1日8試合のメニューを組んだりと、昔ながらの体育会系といいますか、今なら考えられないような取り組みをしています。同じく記事で言及している久保さんを説得させるための言葉は、熱意と狂気を感じられるほどです。久保さんが8期目を防衛した後に亡くなられましたが、今回の対談でものすごく存在感がありました。40年以上前に小林先生のような方がいたことが、いたからこそ、競技かるたの世界も少しずつ発展しているのかなと思いました。

久保永世クイーン

実は対談の時は、序盤は久保さんはあまり話に関わっていなかったのですが、後半は久保さんの話でもちきりでした。中高生時代の久保さんの心情の変化というのは想像を絶するものがあったのではないかと思います。記事では、久保さんが初めてクイーン位を獲得した時のかるた展望の記事を一部引用していますが、高校生でこんなにも大人びた文章を書けるものだと驚嘆しました。永世クイーンを取ったときの話や、8期目を小林先生のために頑張る話なども非常に劇的で、久保さんが主役のドラマをTV番組や映画にしても全く問題ないほどだと感じました。

まとめ

そんなわけで、対談自体は非常に楽しく、勉強になりました。
ただ、かるた展望に掲載するためには記事として起こさなければならず、正直今回は大苦戦しました。取材してから第1稿を書き上げるまでに、一か月以上かかりました。というのも、3人での対談であり、かつ内容によっては全員が同じ分量を喋っているわけではないので、記事の構成とバランスに苦戦しました。さらに、小林先生の話をどこに持ってくるかにも悩みました。言及しないと不自然だが、言及しすぎると山口県勢の話になり、金山さんが浮いてしまう。今村 vs 金山、金山 vs 久保のクイーン戦に加えて、結婚、出産、子育ての話もどこに取り入れるか、久保さんの昔のかるた展望の引用記事をどのように入れるかなどなどめちゃくちゃ悩みました、最終的には、自分でも納得する構成となり、安堵しました。

名勝負を振り返るは、当初は渡辺永世クイーン vs 荒川元クイーンのクイーン戦を取り上げる単発企画の予定でしたが、北野さんの意向もありシリーズ化しています。勿論対談は楽しいですが、負担もかなり大きいです (今回の記事は14Pの大作となりました)。最近思うのは、誰も名勝負を公の媒体で振り返っていないので、自分が振り返る必要があるのかなということです。競技かるたアマチュアであり、メディア媒体に残ることはほとんどありません。野球とかであれば、甲子園レベルであれば何度も何度も取り上げられますが、競技かるたでは名人戦・クイーン戦であっても、振り返られません。ましてや、映像にしっかり残り始めたのも、近年のWeb配信が始まってからと言えるでしょう (NHK BSで配信されてた映像もみたいですねぇ)。伝説と言われる、西郷-三好戦の映像が観られない状況は、競技かるた界において大きな損失と言えるでしょう。
そんなわけで、この企画を続けるのは微力ながらも意義はあると思っています。ただ負担も大きいので、あと何回続けられるかは正直わかりませんし、かるた展望という紙媒体の限界なのか、あまり反響が感じられないのも寂しい気持ちがあります。歴史的意義はありますし、クオリティーも上がっているので  (特に第三回)、もう少し注目されるようにしたい気持ちはあります。何かいい知恵ありましたら、ぜひご紹介ください。

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