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解熱薬飲んでもアウトカム変わらないって言ったやつ,出てこいよぉぉ!!

先日,COVID-19 のワクチン 4 回目を接種しました。もう 4 回目かあ,もうそろそろワクチン慣れして欲しいなあ〜というところなのですが,自分は毎回副反応で発熱しています。今回も接種翌日はほとんど使いものにならないくらいの症状でした。

一方,世の中に目を向けてみると実際のコロナ感染も相まって代表的な解熱薬のアセトアミノフェンが枯渇し,別系統の解熱薬のロキソプロフェンも出荷制限がかかるほど解熱薬の使用量が爆増しています。

そこで,今回はこの「発熱」について患者と医者の両方の立場から考えてみました。

「発熱」とはなにか?

そもそも「発熱」が何かを理解する必要があります。医療者でもごっちゃになってる人がたまにいます。

発熱( Fever )と似たような言葉で高体温( Hyperthermia )があります。この両者は明確に異なる点が 1 つあります。それは,自分の体が自分で体温をあげようとしているのが発熱で,無理やり体温を体外から”上げさせられている”(またはその可能性がある)のが高体温です。

人間の体温は視床下部というところで制御されており,発熱時にはその基準となる温度が上げられることになります。これをセットポイントの上昇と呼ぶこととがあります。普段は 37℃ 付近にあるセットポイントが,発熱時には 38 ~ 39℃ に上げられます。セットポイントは基準となる温度であるため,現在の体温がセットポイントから見て相対的に「高い」か「低い」かで「暑い」か「寒い」かを感じます。 したがって,熱の出始めに寒気を感じたり悪寒戦慄とよばれる現象が起こるのは,セットポイント(たとえば 38℃ )から見て現在の体温(たとえば 37℃ )が相対的に「低い」ため,「寒い」と感じるのです。逆に熱が下がり始める頃に汗をかくのは,セットポイントが降下して相対的に今の体温が「高く」なるため「暑く」感じるのです。以上のように発熱時にはこのセットポイントのコントロールが重要なのです。

一方,高体温の代表は熱中症です。外気や環境により,体温を無理やり上昇させられたときに起こります。これはセットポイントとは関係ないので最初から暑いと感じています。

この両者の区別は熱をコントロールする際の大前提なのでまずはおさえておきましょう。

「発熱」は治療対象か?

そもそも発熱は治療対象なのか?という面白い臨床的な疑問が昔からあります。

「発熱」治療の絶対適応

人間の体は数多くのタンパク質でできた酵素が働くことで維持されています。この酵素は至適(ちょうどいい)温度の幅が決まっており,そこから大きく外れると機能しなくなります。そればかりか,ときには酵素自体が破壊されてしまうことさえあります(これをタンパク質の変性といい,たとえば卵を熱すると白身が透明から混濁した白色に変化するような現象です)。

体温がこの至適温度から外れるということは生命維持に支障を来すことにもつながり,絶対的な治療対象となります。このときの温度を特別に異常高体温( Hyperpyrexia )なんて呼ぶことがあります。一般的に異常高体温は 41.5℃ より高い温度とされており,この温度を超えると致死的な合併症(例,横紋筋融解症)などを起こすことがあります( N Engl J Med. 2002;346(25):1978 )。

また,発熱自体が元病に有害な影響を与える場合も積極的に解熱を試みる場合があります(例,頭蓋内圧上昇のリスクがある場合,蘇生に成功した心肺停止で意識が回復していない急性期,重症頭部外傷など)。

一般的な「発熱」はどうなの

とはいえ,人生で一度も熱が出たことがない人はいないでしょう。特に小さい頃はよく熱が出ました。生き物として発熱した際に毎回簡単に異常高体温を超えているようでは,ヒトという種族はすぐに絶滅していたでしょう。自分で発熱している以上,タンパク質が壊れない程度のセットポイントにしているはずです。

ICU などでは重症感染症をよく治療しますし,発熱患者も毎日のように診ます。そんななかで発熱に対して集中治療はどうしているかというと,ルーチンでは解熱しないというのが一般的です( Arch Intern Med. 2001;161(1):121. )( Crit Care. 2003;7(3):221. )( Surg Infect (Larchmt). 2005;6(4):369. )( Crit Care. 2012;16(1):R33. )( Curr Opin Crit Care. 2002;8(2):106. )。

一方,データ上では拮抗した結果が出ており,治療した方が良いとも悪いとも言えない状況です。

Septic shock の患者に対して外的冷却を実施した無作為化コントロール試験では,血管収縮薬の必要性と 14 日死亡率は治療群で低下が見られた( 19 vs 34% )が,アウトカムにおけるこの差は後のフォローアップで続かなかった。

( Am J Respir Crit Care Med. 2012;185(10):1088. )

報告された感染によるものと疑われる発熱のある重症患者 698 名のもう一つ別の無作為化試験ではプラセボと比較して,解熱,抗菌薬の中断,ICU 退室,または死亡までの静注アセトアミノフェンの投与が ICU フリーの日数や死亡率を増加させなかったと報告したが,このアウトカムの評価は不十分であった。

( N Engl J Med. 2015;373(23):2215. )

もし解熱するとしたらどうするの?

体温が高い場合,「発熱」なのか「高体温」なのかをはっきりさせることはすでに述べたとおりです。そのうえで,「発熱」である場合はセットポイントを下げることに焦点が置かれます(一方,熱中症などでの高体温はセットポイントへの介入,具体的には解熱薬の投与は無益とされています)。

セットポイントを下げるためには,視床下部でそのトリガーとなっているプロスタグランジン E2 ( PGE2 )の産生を阻害する必要があり,PGE2 はアラキドン酸カスケードにおけるシクロオキシゲナーゼ( COX )を阻害することで産生が抑制されます。

COX 阻害薬にはアセトアミノフェン,非ステロイド性消炎鎮痛剤( NSAIDs )などがあります。アセトアミノフェンは末梢では COX 阻害の能力は低いのですが(だから抗炎症作用がない),脳では P450 シトクローム系によりアセトアミノフェンが酸化され,その酸化物が COX 阻害の効果を発揮します。

アセトアミノフェンはこのように末梢での COX 阻害作用が弱いため,(末梢では)注目に値するほどの能力を発揮しません。しかしそれが NSAIDs で問題となるような副作用を避けることになるため,解熱目的のみだとアセトアミノフェンが優先されています。

解熱薬は投与経路でも注意が必要です。たとえば NSAIDs の坐剤では用量が多すぎると血圧がストンとさがることがありますし,静脈投与でも同じような現象が起こる場合があります。投与はなるべく経口(経腸)投与が良いと思います。

いくつかの研究では,低血圧(収縮期血圧が 90 mmHg 以下,またはベースラインから 20% 以上の低下)の発生率は経腸アセトアミノフェンと比較して静注アセトアミノフェン後に高かった。

( Anaesthesia. 2016 Oct;71(10):1153-62. )( Crit Care Med. 2016 Dec;44(12):2192-2198. )

クーリングについて

クーリングだけで解熱を試みようとする場合もありますが,解熱という点ではほとんど無力です。これまで説明ししてきたように体自身が体温をあげようとしている状況なので,体の向かいたい方向と逆行します。また,発熱して温度が上がり始めている状況(セットポイントが上がっている状況)では理論的にはその時の体温を「暑い」と感じておらず「寒気」すら感じているかもしれません。そのような状況で冷却は「焼け石に水」状態でしょう。この場合、前述の解熱薬と併用することでより効果的になる方法と言えます。

「冷えピタ」について

そもそも冷えピタには解熱効果はおろか、冷却効果さえありません。たとえば室温のジュースの缶に冷えピタを貼ってキンキンに冷えるでしょうか?冷えピタは完全に気分的なものなのです。とはいえ冷えピタを貼るかどうかは個人の自由です。それで気分が少しでもまぎれるなら使用するのは全然いいと思います。

患者目線に立ってみると(本論はここから?)

いろいろグチャグチャ言ってきましたが,いざ発熱してみるとめちゃくちゃしんどいです。熱だけじゃなく節々も痛くなり,倦怠感も強く,何とも言えない強烈なつらさがあります。発熱真っ只中の状況で上記のようなうんちくを元気な頃の自分言われたら,

「ごめん,まずは熱下げてくれる?話はそれから」

と言っていたでしょう(笑)。ほんとにしんどかった。ただ,しんどいがゆえに冷静な判断もしづらくなるだろうなあとも思いました。多分自分が患者になると厄介な患者になりそうです。

なるべく患者目線に立ちつつ,医者としては冷静な選択をしたいところです。

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