人気作となった不道徳なオペラに見る男と女の真実

ドン・ジョバンニ

クラシックに詳しい人なら、この単語を聞いて思い浮かべるのは、調子に乗った女好きで地獄へ落ちた人、だろう。

もしくは、この女好きが地獄へ引きずり込まれるまでを描いた、200年以上多くの人に愛され続けてきたオペラ「ドン・ジョバンニ」だ。


現在上演されるオペラのほとんどが18世紀〜19世紀のもの。なぜこんな数百年も国も民族も選ばずに愛され続ける作品があるのか、それはやはり人の本質をついた作品が多いからだと思う。

観客は無意識にもその本質に共感してしまい、結果魅了されるのだろう。


今回は、男と女の関係からナンパ師が主人公のオペラがなぜこんなにも愛されるのかを話し手みたい。


村上春樹氏の新作、「騎士団長殺し」でも話題になったこのオペラは、あのモーツァルトが作った作品だ。彼は男女間の関係を描くのが実にうまく、優れた台本作家と共に、思わず男女関係について考えさせられる台本と音楽の融合を行ってきた。


オペラ「ドン・ジョバンニ」は、女好きの貴族ドン・ジョバンニが、夜ばいをかけた女の父親、騎士団長を殺してしまうところから始まる。彼の女遊びはそれでも止まらず、ついには騎士団長に地獄へ引きずり込まれる、といった内容だ。

かつてはあるキリスト教会に伝わる「浮気ダメ絶対」という教訓を教える有名な説話を元に話は作られたが、ドン・ファンことドン・ジョバンニの性格は当時実在していた凄腕ナンパ師へのインタビューが元となった。

その名はカサノヴァ。水の都ヴェネツィアを中心にSクラス美女だけを狙い100人以上と愛し合ったとされている。ヨーロッパ中に名前が知れ渡っていたので、当時としては相当だったのだろう。


「今夜だけで私のカタログに10人以上の女の名前を増やしてやろう」

さて、そんなオペラ「ドン・ジョバンニ」だが、オペラのほとんどがジョバンニが女をハメるために画策するシーンでもあるにも関わらず、非常に人気のあるオペラの1つとなっている。しかも女性ファンも多い。女性軽視のような内容にも関わらず、だ。

彼は自分の屋敷に多くの村人招き、酒を飲ませ、ダンスを踊らせ、その隙に女を次々をハメようとする。その時に今まで愛し合った数千人の女の名前が書かれている「恋のカタログ」にこの一晩で10人は名前を加えてやろう、と歌うようなシーンもある。羨ましい限りの絶倫である。

下記がそのシーンの動画。歌っているのは世界的なオペラ歌手だが、くそイケメンである。


さて、こんなジョバンニがなぜ観客の女性人気なのか、それを説明付けようと、「ジョバンニの歌詞、音楽、演じる歌手が女性好みだからという点は確かだ」などという大学生並みの解説をしていた、半世紀以上も生きているオペラ研究家がいたが、これは論外だ。確かなのは、こいつがセックス不足の祖チンということぐらいだろう。


ナンパ師界隈では当たり前のことだが、世の中のドラマやらは嘘の恋愛を描いている。一途な恋だとかの理想のような妄想的な恋愛だ。そういうのが一般受けしていて、人気があるのは確かだが、果たして200年後までそういう作品を覚えている人はいるだろうか。


その答えは考えるまでもない。だが、オペラ「ドン・ジョバンニ」は語り継がれてきた。そこには、本当の恋愛模様が描かれている、だからこそ、「ドン・ジョバンニ」は不滅なのだ。


このオペラにはエルヴィーラという一般的には「よくわからない」女性がいる。

彼女は高い身分を捨ててまで、自分を捨てたジョバンニを追いかけてくる。彼女は彼が地獄に落される直前まで、彼に愛を伝えようとする。劇中、ジョバンニが新婦を自分のベットに誘うのを目の当たりにするが、彼女の想いは決して変わらず、ジョバンニが地獄へ落ちると、修道院に入ると宣言までしてしまう。


一見すると彼女の行動は異常であり、多くの演出家が彼女をどう描けば、一般の大衆に違和感なく受け入れられるかを思案してきた。

だが彼女の行動は生物学的な恋愛観から見れば何の不思議もないことは、ナンパ師界隈、特に恋愛工学生にはよく分かるだろう。


他の女からモテる男は、どこまでも魅力的に見えてしまうものだ。


この考え方は、まだ一般には根付いておらず、だからこそ多くの人が不思議がっているのだが、おそらくみんな心の奥底、無意識のうちにはわかっているのだ、この女たらしが好かれてしまう理由が。


この不道徳なオペラが数百年も愛され続けてきた理由は、モーツァルトの天才的な音楽もあるだろうが、このように恋愛の本質を、真実を描けているから、無意識に人はそれに共感してしまっているからなのだろう。

オペラは総合舞台芸術や、究極の芸術などと言われているが、なんてことはない、私達はまだ本能に従う動物でしかないのだ。

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