『立ち入り禁師』#ショートショート

「線路内に人が立ち入ったため運転を見合わせます」 誤って入ったのか、意図して入ったのか。 たかが電車一本、されど一本。 多くの人が関わるエリアなら尚更。 たくさんの人たちの時間を奪い人生を狂わせる。 大事な人との約束。 一分一秒を争う事柄。 大事な人を失った実体験からホームドア設置員になった。 「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 【あとがき】「そこに線路があったから」vs「絶対に線路に入らせない」 「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 【自己紹

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モノクロ桜吹雪 シロクマ文芸部

花吹雪を浴びた。このところ毎晩だ。 理由はわかっている。 終わりそうなこの関係のスタート地点を、わたしの脳が再生し修復させようともがいているのだ。 *** なんで笑っているのかと、わたしはヤツにかみつく。 「あーうん。オヤジたちもおんなじことやってたなあって」 「おなじこと?」 しょうもないことでケンカし、わあわあじゃれていたと彼は言う。 「じゃれてねーぞ」 「しあわせそうだなって思ってた」 彼の父親は妻より先に旅立ち、母親は約2年、見ていられないほど落ちこんでいたらし

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居眠り猫と主治医 ⒒獣医の休息 連載恋愛小説

迎えにいくと言われ困惑していると、本当に駅前に現れた。 数時間前に会ったばかりなのに、今日の彼は変だ。 途中下車した駅で勝手がわからず、文乃は所在なく待っていた。 合流できたときはほっとして、ご主人様を見つけたわんこのごとく駆け寄ってしまった。 「仕事は?終わった?」と祐。 早番じゃなければ、今頃、授業真っ最中だった。 「疲れてますよね?大丈夫ですか」 車のハンドルにもたれたあと、祐は文乃の髪に指を通す。 「この前、中途半端にさわったから、飢餓感すごい」 「え…起きてた?」

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深呼吸と煙

わたしはその時、緑が生い茂る場所にいました。 桜はすでに全ての花びらを散らしていて、にょきにょきと生えてくる葉っぱが空を覆っていました。 その場所に一歩足を踏み入れると、少し空気が冷えているような気がしました。 よく考えてみると、冷えているとは違う気がします。熱がこもっていないというか、風通しがいいというか。 世の中は様々な熱に浮かされていますから、その一帯だけはしんと空気が澄んでいることが心地いいと、わたしは感じているのです。 はぁっと大きく息を吐くと、すぅっと息が

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看取り人 エピソード3 看取り落語(7)

 師匠は、節目の多い白い天井をぼんやりと見つめていた。  痛みはない。  苦しくもない。  力も入らない。  耳障りだと思っていた鼻に繋がれたチューブから酸素を送る機械の低く唸るような音ももう気にならない。  ただ、もの凄く眠かった。  頭の奥の奥を温めるように心地よい眠気が優しく撫でてきて何度も意識を失いそうになる。  しかし、寝てしまったらもう二度と起きることはないのだろうと漠然と感じた。  師匠は、視線を枕元に向ける。  女性が立っていた。  五十過ぎくらいの、栗毛に白

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あの頃を思い出す街

その日、ウサギとカメは下北沢の街を訪れていた。東口改札口を抜けたウサギは目を見張った。「駅前がずいぶん変わったわね。小田急線の改札も、井の頭線の改札も、以前はもっと迷路のようだったわ」 二人は慎重に周囲を見回しながら足を踏み出した。街にはなんとなく懐かしさを感じさせる景色が残っていた。路地には昔ながらの古着屋が軒を連ね、その個性的なファッションが風に揺れていた。 一方、雑貨屋の店頭には奇妙な形のオブジェが並びふと目を奪われる。街全体にカオスと整然とが混ざりあい、そこはかと

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言牢

■まえがき通常の更新は本日はお休みさせていただきます。 なにぶんばたばたとしてしまっていたもので。 代わりに再びXにあげていた140字小説の補足版をアップしたいと思います。 ■本編 私は読者のために物語を書いていた。  それが至上の喜びであると信じていた。だが、彼女は私のそんな理想を惰弱なものとして非難し、私から読者を奪った。即ち、私を牢に捕らえ、私が書いたものを世に出さないようになさしめたのだ。無数の読者の一人一人から読む権利を奪うことは不可能だが、それを提供する私を捕ら

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題名 「初夏の夢」

夏へと渡る隙間に 季節が漂い この空を 彷徨うように揺れ動く 春の香りが静かに消え 四季は風に運ばれ ゆっくりと移ろう 見つめる空に 夏を彩る星たちが控え 涼を感じる 初夏の夜は ほのかに香りを乗せて 瞳の中に魅せながら 夢へと続く メモリーラインが ページを刻む 時が止まるように それを追い越す夏の夜が すぐそこまで訪れる 熱視線へと変わるまで もう少しだけ このままで 余韻に浸っていよう          紗羅 疲れやストレスを 抱えたりして 無になって身体を癒そうと

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今晩する?

これは藤家 秋せんせが企画された『炭酸刺繍』に参加させていただいた『BOSTON COOLER』が生まれるきっかけとなった物語です あのさぁ俺は仔猫を拾ったわけじゃねえのよ 雨の中、足首痛めたようでツラそうだったから 目の前にあった俺んチにどうぞって言っただけなんだけど もう何時間ここにいるんだよ だって行くとこないんだもん だからってさぁ だから労働でお返しするって言ってんじゃん とりあえず今夜していいから バカかお前は していいってことは動くのは俺じゃねえか そ

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迷信 #毎週ショートショートnote

おいマサ、それオバケだろ。やめとけよ。 誰のものかわからない、かなり大きなサイズの白いレインコート。頭からかぶって着けると、子どもがシーツをかぶってオバケになったようだ。だからオバケと呼ばれていた。 それ着てると、事故るらしいぜ。結構みんな言ってるだろ。この前もあったじゃん。 んなこと言われても、傘さして自転車乗れないからなぁ・・。自分しか聞こえない反論をして、オバケレインコートを着て、配達に出る。 雨粒が当たる。ビニール地の表面がバラバラと音を立てる。ルートはいつも

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