「水道民営化」という誤解 -水道法改正-

1,はじめに

 昨日、水道法改正案が衆議院で可決、参院へ送付された。与党は今国会での成立を目指している。

水道法改正案が衆院通過 広域化で老朽化対策急ぐ:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32640940V00C18A7PP8000/

※2018年12月5日 追記
 参院厚生労働委員会は4日、市町村などが手掛ける水道事業を広域化する水道法改正案を自民、公明両党などの賛成多数で可決した。

水道法改正案 参院委で可決 与党、今国会成立めざす:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO38522890U8A201C1PP8000/

 この水道法改正案のポイントは、①関係者の責務の明確化 ②広域連携の推進 ③適切な資産管理の推進 ④官民連携の推進 ⑤指定給水装置工事事業者制度の改善 の5点だ。

水道法の一部を改正する法律案(平成30年3月9日提出)概要https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-16.pdf

 このうち ④官民連携の推進 は具体的には、

 "地方公共団体が、水道事業者等としての位置付けを維持しつつ、厚生労働大臣等の許可を受けて、水道施設に関する公共施設等運営権を民間事業者に設定できる仕組みを導入する"(いわゆるコンセッション方式の導入)

ことである。この点について、いわゆる「水道民営化」であり、その弊害として、①水メジャーに代表される外国資本の参入、②営利目的による水道への悪影響、③不採算地域の水道事業停止 等の批判が主張されており、SNS上では多数に拡散されているのが確認できる。

 果たしてこのような批判は妥当であるのか、検討したい。

2,水道事業の実施主体と第三者委託制度

 そもそも、水道事業は原則として市町村が経営するものとされている(水道法6条2項)。

 また、水道事業者は、政令で定めるところにより、水道の管理に関する技術上の業務を委託することができる(水道法24条の3)。

 この第三者委託制度によって、水道施設の運転・保守点検・維持・修繕、水質検査、水質管理、給水装置の検査 等は既に民間へ委託可能である。

 ※第三者委託を行う場合であっても、水道事業を経営するのはあくまで委託者である水道事業者等(水道事業者は原則として市町村)である。

3,水道事業を取り巻く厳しい現状

 日本の水道は、97.9%の普及率を誇る一方で、水道事業は市町村経営が原則であり、①人口減少に伴う水需要の減少、②水道施設の老朽化等、③職員数の減少、④必要な水道料金原価の見積もり不足のおそれ、等の課題に直面している。これらの課題を解決し、将来にわたり、安全な水の安定供給を維持していくためには、水道の基盤強化を図ることが必要である。

 そのために水道法改正案では、法律の目的における「水道の計画的な整備」を「水道の基盤の強化」に変更している。そしてそのための具体的な制度の一つとして、水道事業の公共施設等運営権を設定可能とするコンセッション方式の導入が規定されている。

4,現行制度の問題点

 そもそも、現行法制度上でも、先述した第三者委託制度の枠内にとどまらず、施設の所有権を地方公共団体が所有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定することは可能である。その根拠法は 民間資金法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)2条1項1号である。

・民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律
第一条 この法律は、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用した公共施設等の整備等の促進を図るための措置を講ずること等により、効率的かつ効果的に社会資本を整備するとともに、国民に対する低廉かつ良好なサービスの提供を確保し、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
第二条 この法律において「公共施設等」とは、次に掲げる施設(設備を含む。)をいう。
 一 道路、鉄道、港湾、空港、河川、公園、水道、下水道、工業用水道等の公共施設

 しかし、民間資金法を活用した水道事業委託には「大きな問題点」があり、これまでに導入事例は無い。
 まず、水道事業を経営しようとする者は、厚生労働大臣の認可を受けなければならず(水道法6条1項)、市町村以外の者が経営を行う場合には、給水しようとする区域をその区域に含む市町村の同意を得た場合に限り、水道事業を経営することが可能、というのが現行法制度である。
 認可基準は水道法8条に列挙されており、その全てに適合していなければ、認可は得られない。

第八条 水道事業経営の認可は、その申請が次の各号に適合していると認められるときでなければ、与えてはならない。
四 給水区域が他の水道事業の給水区域と重複しないこと。

 そして現行の水道事業者たる市町村が行っている水道事業を、他の民間事業者に委託しようと思うと、その委託民間事業者が水道事業の認可を得る必要がある。
 しかし認可基準には「給水区域が他の水道事業の給水区域と重複しないこと」という条件があるため、これでは現行水道事業者が認可を保持している限り、民間水道事業者は認可を得られない事になってしまう。これを回避するためには、現行水道事業者が認可を返上し(水道法11条)、民間水道事業者が新たに認可を取得する必要がある。

 そして、市町村たる水道事業者が水道法上の認可を返上した場合、民間水道事業者に対する水道法上の監督権限を失うことや不測の事態が発生した場合の対応が困難になり、この点が先述した「大きな問題点」と言われてきた。
 この問題を解決するために、水道法に公共施設等運営権を規定し、市町村が水道事業認可を保持したまま、また、民間水道事業者が認可を受けることなく、運営権を委託する事を可能とするのが、この水道法改正案である(水道法改正案24条の四 3項)。この場合でも、民間水道運営者は厚生労働大臣の許可を受ける必要がある(水道法改正案24条の四)。

 つまり水道法改正案は、完全な水道事業の民営化を可能とするものではなく、むしろ民間事業者への監督を維持するための内容ではないか。

5,誤解と批判への反論

 水道事業を民間が行うと、水質が悪化し、水道の維持管理が疎かになるという批判が見受けられる。しかし、そもそも現行の第三者委託制度においても、「水道の管理に関する技術上の業務」たる 水道施設の運転・保守点検・維持・修繕、水質検査、水質管理、給水装置の検査は第三者委託が可能であり、もし水質悪化等の弊害が発生すると言うならば、現にそのような被害が発生しているはずである。このような主張は立たないのでは無いだろうか。

 また水道料金が暴騰し、水難民が発生するという主張もある。
そもそも水道料金の規定は各市町村の条例に基づいて定められるところ、その条例の範囲内で水道料金が定められることになることから、民間水道運営者の恣意的な判断によって水道料金が引き上げられるということは考えられない。また、厚生労働大臣が民間水道運営者に与える許可の許可基準について、水道施設運営等事業の対象となる水道施設の利用料金が適正であること 等も定められており、不適正料金は不許可の対象となる

 不採算地域の水道供給停止 等の弊害についても、起こりえないのではないか。そもそも、不採算地域に民間水道運営者は参入しないであろうし、運営権取得後に不採算地域になったとしても、民間水道運営者の判断で水道供給の停止はできず、水道事業者が厚生労働大臣の許可を受けなければならない(水道法11条)。

 また水道という公共インフラに外国資本が参入することによって、日本の水資源が奪われる、という主張もある。
 しかし現行の法制度枠内においても、いわゆる外国資本系に業務委託をしている例は存在する。またそのような外国資本が参入したとしても、水道法、民間資金法上の監督を受けることになり、不適正な業務は行えない。さらに、民間資金法に基づいて民間に運営権を設定する場合には、地方議会の議決を経なければならず(民間資金法19条4項)、そこで排除することも可能であろう。
 水道事業を民間へ委託することに反対するなら、民間資金法を改正すべきと主張するべきではないだろうか。

6,まとめ

 今国会で提出されている水道法改正案は、完全な水道事業の民営化をするものではなく、現行制度の業務委託制度を拡張するものである。
民間事業者が運営権の設定を受けたとしても、国・地方公共団体と市町村から水道法、民間資金法上の監督を受け、民営化とは言えない
 週刊ゲンダイの記事鵜呑みにして「水道民営化」というワードがtwitterでは多数拡散されているが、それに釣られず、知識を持って賛否を判断すべきだ。

もちろん「水道の民営化」には反対。


» 水道法改正に向けて 厚生労働省 医薬・生活衛生局
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000179020.pdf
» 水道法の一部を改正する法律案(平成30年3月9日提出)法律案新旧対照条文 https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-19.pdf









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じわ

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