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デザイナーの転職:ポートフォリオで進路をこじ開ける

デザイナーの転職にとって最も重要な準備物がポートフォリオ、作品集です。ポートフォリオの審査があるというのが、デザイナーの採用試験の最大の特徴です。 

ポートフォリオは過去の実績や個人で制作したものを掲載します。 

こう書くと「職務経歴書をビジュアル的にしたものか」と思われるかもしれません。
しかし評価されるポイントは職務経歴書とは大きく異なります。

ポートフォリオの出来ひとつで、デザイナーの採用の確率は大きく変わります。
例えば、ポートフォリオが良ければ、そもそも採用募集をしていない企業のドアをこじ開けることも出来ます。
例えば、一部の企業で設けられている(と言われている)、学歴フィルターをくぐり抜けることも出来ます。
例えば、他に結構大きな欠点があっても、(多少の)フォローしてくれます。

それほど、ポートフォリオの効果は絶大なのです。

何故それほどポートフォリオが効果を発揮するのか?

それは、ポートフォリオ自体が一つの作品であり、応募者の能力を測ることができるからです。ポートフォリオは、応募者の最新の作品として評価されます。

中途採用のデザイナーを例にあげて、どういうポイントがあるかを説明していきます。
今回は中途採用のデザイナーを例にあげて説明させていただきますが、新卒のデザイン職志望の人にも参考になるはずです。

1. ポートフォリオ制作には高度な編集能力が必要

中途採用のためのポートフォリオの場合、当然過去に行った仕事を載せることになります。

では、数ある実績をつかって、どのようにポートフォリオの内容を構成しますか?

職務経歴書のように、時系列に沿って今までの仕事を列挙するのは得策とは言えません。

ポートフォリオの最も重要な役割は「自分にはこういう能力と実績があって、それがあなたたちには役に立ちます」ということを伝えることです。

つまりポートフォリオに載せる実績は、自分の強みが表れており、かつ志望する企業と繋がるもののみを基本的にはピックアップすべきです。
ポートフォリオを見る側は、どのような実績を掲載しているかということも意識的、無意識的にかかわらず評価しています。

すべての実績を冗長にひたすら載せている人と、5つの製品に絞って、さらに重要度に合わせてページを変則的にして編集している人とでは見え方がかなり変わります。

これは雑誌の編集をイメージしてもらうとわかりやすいかと思います。
「私の特集はこれです!」という内容には本の半分ぐらいをかけて写真も大きめにページを割いていきます。
「実はこんな能力もあります」という内容には1、2ページぐらいでコラムのページのように淡々と載せておく程度でいいかもしれません。

読み手がリズムよくページをめくれるように、ポートフォリオが設計されていると、「良いデザイナーだなぁ」と感じさせることができます。

2.  ポートフォリオのかたち自体も評価のポイント

例えば、データではなく現物の紙のポートフォリオを提出する場合。

よくあるのはA3タテのクリアファイルに、印刷した紙を差し込んでいくスタイルです。


これ自体は悪いものでありませんが、クリアファイルは自分の良さをプレゼンテーションすることが難しい媒体です。

1. で上げたように、自分の強みを最大限表現する方法を、ポートフォリオのかたちでも検討すべきです。

例えば、「質感の表現力が自分の強みである」とプレゼンテーションするのであれば、A3タテのクリアファイルは使うべきではないでしょう。
既製品ではなく、まるで実際に売られている画集のように表紙の紙にまでこだわって製本されたポートフォリオを提示されれば、「私の強みは質感の表現力です」という言葉にもかなり説得力が増します

実際に私がポートフォリオのかたちで取り入れた工夫をご紹介します。

私は、過去のキャリアのなかでプロダクトだけではなく、ランドスケープデザインの仕事もしていました。
そのとき志望していた企業の仕事を考えると、そのことが重要なアピールポイントになると捉え、どのように見せるべきかを検討しました。

ランドスケープはプロダクトと違って、スケール感が大きいものです。
自分のデザインした施設が完成した後に撮影した写真を見かえしていても、パノラマのようにワイドなものが多いことに気づきました

そこで、ファイルサイズはB4ヨコを選択し、ヨコ方向に長い写真をより魅力的に見せることを狙いました。

さらに、キメるページでは見開きで写真を見せ「この写真に写っている範囲すべて、私がデザインしたものです」と視覚的にもインパクトを与えつつ説明できるようにしました。


これはA3タテのクリアファイルを使っていては同じ効果は得られなかったと思います。

ちなみに、B4というサイズはあまり一般的ではありません。
何故B4にしたかというと、面接で自分がファイルを手にもって相手に説明するシーンを想定したからです。

ポートフォリオを作っている過程で様々なサイズを試しました。

試しにA3横で印刷して手に持ってみたら、かなり横に大きくてページをめくりにくく、「動作がスマートではない」と感じました。
次にA4横でやったら、今度は「小さくてあまりインパクトがないな」と感じました。

結局、ページのめくりやすさや、読みやすさ、見た目のインパクトを考えると「B4ヨコが妥当だ」という考えに落ち着きました。

自分の強みを最大限活かせるファイルのかたちは人それぞれ違います。効果的なポートフォリオをつくるためには、まずは自分自身の強みを整理することが重要です。

3. ポートフォリオのデータの作り方

企業によっては、ポートフォリオをPDFデータにして送付することを求めてきます。ある企業は「5ページ以内、2MB以内で」という条件をつけていたりもします。

この条件をつけている理由はあまり長いファイルを見たくないから、ということと、メールで社内に展開するからでしょう。多くの会社はメールに添付できるファイルサイズに制限があります。

この時、データづくりで重要なのは、極力データを軽くしながらも、画像の品質を下げないことです。

特に、JPEG特有の画像の荒れをコントロールにことには気を使うべきです。

例えば、お洒落なアパレルブランドのWEBサイトは大きな画像を多用していることが多かったりします。そのようなサイトを見ている時に、たまに荒れた画像を見るとがっかりしたりしませんか?

大切なのは画像の中の魅力的な世界観を伝えることです。そこで画像の荒れが見えてしまうと、「画像データを見ている」と読み手は無意識に捉えてしまいます。

そのような画像データの圧縮のさじ加減も、デザイナーにとって必要な技術の一つだと言えます。

4. 文字組も評価のポイント

読みやすさを考えて、美しく文字組がされているかどうかも重要なポートフォリオデザインの評価ポイントです。

これはグラフィックデザイナーにとっては当たり前なことですが、プロダクトデザイナーは割とこの辺りをないがしろにしがちです。

文字組みでは、「フォントに統一感があるか?」「読み手の目線の流れを考慮してるか?」「文字の改行のタイミングは適切か?」など、チェックすべきポイントはいくつもあります。

また、使う言葉にも気を配るべきです。
同じ音の言葉でも、文字の表現によって印象は大きく変わります。代表的な言葉としては「かたち」「カタチ」「形」がよくあげられます。

正直言って、文章の中身はあんまり読まれていないと思います。読まれていたとしてもそこまで印象には残っていないでしょう。しかし、文字組の良し悪しの印象は残っていたりします。

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今回紹介した項目に共通しているのは、「伝える内容にふさわしい表現を選択、創出しているか?」という点です。

それはデザイナーにとって必要不可欠な能力です。ポートフォリオはまさにそれを最大限観察できる成果物なのです。

自分自身で客観的にそれが判断できるのが良いとは思いますが、もしも不安な場合は、転職エージェントや転職を打ち明けられる人にポートフォリオを見てもらって指摘してもらうといいでしょう。

読み手によっては「デザインのことなんかわからない」といわれるかもしれません。
そんな時は、「文章がスムーズに読めなかったところはなかった?」「読み飽きたと感じたのはどのあたり?」など、デザインの改善に繋がりそうな具体的な質問をするといいでしょう。

冒頭で書いたとおり、ポートフォリオは作り方によってはとても大きな効果を発揮します。
既成概念にとらわれず、自分の強みを最大限発揮できるかたちを模索しましょう!

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