それでも及び腰の最高裁

2010年4月6日



今日、最高裁が、名張毒ぶどう酒事件の再審判断を、名古屋高裁に差し戻す決定をした。
(この事件の私見は、過去ログ 「社会派ではないけれど」を参照して下さい)
当然のこととは思うけれど、それでも最高裁の判断には不快感が残る。
今回は裁判官5人による全員一致の意見だったようだが、1972年6月には同じ最高裁が上告を棄却し、死刑を確定させている。
この180度の転換は何だ。
それとも、差し戻しは白黒の判断がつかない自信のなさなのか。


「事件発生から50年近く、今回の再審申し立てから8年近く経過しており、証拠調べは必要最小限にして効率よくなすことが肝要だ」

「名古屋高裁決定は科学的知見に基づく検討をしたとはいえず、いまだ事実は解明されていない」


裁判官の補足意見だが、これは名古屋高裁刑事1部の再審開始決定を取り消した、同高裁刑事2部(異議審)の「たわけ」どもに向けられた発言だ。
それでも「差し戻し」とは納得がいかない。
なぜ最高裁自らが、再審開始決定を出さないのか。

差し戻された名古屋高裁の「たわけ」どもは、過去の判断をどう審理し、どう総括するのだろう。
差し戻し審に入る前に、「たわけ」検察も、くだらない面子を捨てて異議申し立てを取り下げるべきである。
その「たわけ」どもに差し戻した最高裁も、再審開始決定を出せない「たわけ」だ。
足利事件とは違い、収監されているのは、38年間ずっと、明日の命をも保障されずに84歳の高齢になる今日まで、自由を奪われ続けて来た生身の人間である。

流れは「再審開始」に向かうだろう。
ぜひそうあって欲しいものだ。
毎回言うが、絶対に冤罪を作ってはいけない。
絶対に真犯人を逃がしてはいけない。
それが国家権力の、正義への信頼を回復する唯一の方法だ。


以前、ボロクソにこき下ろした毎日新聞の記事を、今回は敢えて以下に引用する。
一方、足利事件報道を検証した、系列のTBSテレビをこき下ろした《足利事件報道の検証は検証になっているか》を参照してください。



名張毒ぶどう酒事件:再審の可能性 84歳「後がない」 奥西死刑囚、確定から38年

毎日新聞4月6日 夕刊


 死刑確定から38年。名張毒ぶどう酒事件の第7次再審請求は、三度(みたび)、名古屋高裁に舞台を移すことになった。大正生まれで事件当時35歳だった奥西勝死刑囚は既に84歳。今後、高裁差し戻し審の決定が出ても、再び弁護側か検察側が特別抗告することも想定され、司法の最終的な判断はさらに先となる可能性もある。奥西死刑囚は支援者らに「年齢的にも後がない」と訴えている。
 
 3月上旬、名古屋拘置所にいる奥西死刑囚と面会した「愛知・奥西勝さんを守る会」事務局長で特別面会人の田中哲夫さんによると、奥西死刑囚は支援者から贈られたセーターを着て「だいぶ暖かくなった」と元気そうな様子だったという。
 
 「布川や足利は良かった。私も最高裁決定に非常に期待している」。再審開始が決定した布川事件や、再審無罪が確実になっていた足利事件に話題が及ぶと、笑顔を見せた。田中さんは「奥西さんも、再審の結論を待たずに亡くなったお母さんの年齢を超えた。今のところ、健康に問題はなさそうだが、早く救い出さないといけない」と話す。
 
 奥西死刑囚は3月27日付の支援者グループへの手紙で「(捜査官は)否認すると上司を調べ室に連れて来た。上司は自白しろと大声を出したり、ムチで机を打ったりした。やってないから後で無実が分かってもらえると信じて自白してしまった」「40年余の長い間の苦しみと残念さは、いいあらわすことができない。年齢的にも後がなくなったし、一日も早く冤罪(えんざい)を晴らしてもらいたい」と記した。
 
 手紙では「父母は今はいないが、生きている時は私をよくよく全面的に支えてくれたことに感謝している」とも触れた。支援者によると、今も妹が奥西死刑囚の健康状態を心配しながら、別の地域で暮らしているという。


 ■解説

 ◇最新の科学的見解を尊重

 最高裁決定は、弁護側が「新証拠」として科学鑑定結果を提出したのに、名古屋高裁が再鑑定など科学的検討をしないまま退けた点を「審理不尽」と指摘した。3月に再審無罪が確定した足利事件でも、弁護側の独自鑑定をきっかけに東京高裁がDNA再鑑定を行い冤罪が晴れた。

 最高裁は、有罪確定の根拠を揺るがす最新の科学的見解が示された場合、丁寧に再検証する必要性を説いたと言える。
 
 第7次再審請求で弁護側は、専門家に依頼してペーパークロマトグラフ検査や分析などを行い、奥西死刑囚が所持していた農薬「ニッカリンT」には事件で使われた農薬にはない成分が含まれていると指摘し、事件に使われたのは別の農薬だと主張した。
 
 名古屋高裁は積極的に評価して再審開始決定を出したが、検察の異議を受けた同高裁の別の部は「ぶどう酒で薄まるなどして検出されなかった」と書面の検討だけによる解釈で退けた。これについて最高裁決定は「推論過程に誤りがある疑いがある」と指摘した。
 
 足利事件では、上告審で弁護団が独自鑑定を基に警察のDNA鑑定の誤りを主張したが、最高裁は再鑑定の必要性を認めず退け、再審請求でも宇都宮地裁の判断は同様だった。その結果、菅家利和さんの社会復帰は約9年遅れた。

 80年代に死刑事件の再審無罪が相次いで以降、重大事件の再審請求に対する司法判断は厳しかった。しかし、ある現職裁判官は「科学鑑定は典型的な客観証拠だが、科学は日進月歩。足利事件を踏まえ、説得力のある見解があれば、確定判決といえど慎重に再検討しようとの考え方が広まりつつあるのだろう」と変化を指摘する。
【伊藤一郎】

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 ◆名張毒ぶどう酒事件の経過表◆

61年 3月 事件発生

    4月 奥西勝死刑囚逮捕、起訴

64年12月 津地裁が無罪判決

69年 9月 名古屋高裁が逆転死刑判決

72年 6月 最高裁が上告棄却

    7月 死刑確定

73年 4月 奥西死刑囚が第1次再審請求

74年 6月 第2次再審請求

76年 2月 第3次再審請求

    9月 第4次再審請求

77年 5月 第5次再審請求

       (日本弁護士連合会が支援開始)

97年 1月 第6次再審請求

02年 4月 第7次再審請求

04年 4月 名古屋高裁(刑事1部)が証人尋問を実施、16年ぶりの証拠調べ

05年 4月 名古屋高裁(同)が再審開始決定 検察側が異議申し立て

06年12月 名古屋高裁(刑事2部)が再審開始を取り消し

07年 1月 弁護側が特別抗告

10年 4月 最高裁が差し戻し決定


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