見出し画像

優しく、力強く、かっこいい「夜」:大神ミオ1stアルバム『Night walk』の感想

〇ミオちゃんの1stアルバム『Night walk』の感想

「聴こえますか」という呼びかけで始まる、「夜」をコンセプトにした10曲のアルバム。優しく、力強く、かっこいいミオちゃんの歌声を活かした珠玉の曲揃い。


〇『夜光通信』

1曲目から「儚い」「さよならの曲」「何光年はなれていても繋がっていることを描いた曲」。出会っていられる今の儚さ、いつか来る別れ、それでもそれは悲しいものではないという思いを感じる。
切なさを抱えながらも前向きな気持ちを「ふんわり 君を/抱きしめてあげるからね/泣かないで」と語り掛けてくれる曲。ミオちゃんの豊かな情緒や優しい強さが感じられ、特にミオちゃんらしいと思う。
ミオちゃんの『永遠の銀』coverが大好きなので、それをきっかけに作詞作曲してもらったこの曲もすごい好き。「永遠の夜光 虚空に歌う」の前で盛り上がる間奏が好き。
夜空の星とははるか遠く遠く隔たっているけれど、か細く優しい光で繋がっている、そういう夜の一面かなと思う。

〇深く紺になる

チップチューンっぽいイントロとかっこいい曲調の2曲目。
夜のドライブをイメージした曲ということで、疾走感のある一曲になっている。歌詞も「ハイビーム」「標識」「曇った窓ガラス」など車らしい感じ。一方、「僕は駆ける」「今を生きる この加速度」など速さを感じる点もある。「深く紺になる」というタイトルも、夜の世界の中を走っているイメージか。
「思い切りかっこよさに振り切って」歌ったということで、ミオちゃんの歌声のかっこよさが特に表れている。

〇ナイトループ

リリース後の5周年記念ライブのタイトルにもなった曲。
ミオちゃんのこれまでになかった魅力を引き出すいわば「異色作」。ラップやセリフが入っていて、ミオちゃんこういうのもいけるんだ、こういうのもいいな、と思わせてくれる。
「深夜にコンビニで缶チューハイを買って公園で飲んでる二十歳になったばかりの若者が「社会ってクソだよな」って言っているような雰囲気の楽曲」というオーダー(解像度高いな)ということで、大人という自認と周囲からの子供扱いのギャップからの、どこにぶつけるでもない苛立ちや、大人と子供のどちらとも言えない、どちらでもある不安感が込められてるのかなと思う。そういう気持ちになっちゃう夜のやるせなさの一面か。
ため息で始まり、「誰も彼も馬鹿みたい」「うだうだ 脱線したい」という刺々しいネガティブなテイストも普段のミオちゃんからは想像できない雰囲気なので面白いなと思う。

〇サヨナラは、まだ

「夜の街の中をひとりで歩きているときに聞いたら盛り上がる曲」というオーダーで、夜景のおしゃれさや夜の不安感の中で再認する大切なものといったことを感じる。
ミオちゃんに似合うかっこよさと「夜」というコンセプトのふさわしさという点で、個人的にはこのアルバムの中心というか象徴というか、王道的な一曲。

〇カメリア

きれいで優しい全力のバラード。
曲調的には、ぜんぶを包み込んでくれる眠りの優しさ、みたいなものを感じる。
「つかれたね かなしいね/もうやめたいね でもふりしぼって/私へと辿りついてくれてありがとう」という歌詞がミオちゃんの歌声とあいまってめちゃくちゃに優しい。
2021年のライブ『Bloom,』におけるミオちゃんのイメージフラワーである白い椿(Camellia)由来の曲名であり、冬に咲く椿らしく「ひらひら舞い降りる雪」「春に覆い尽くされても憶えていて」という歌詞がいい。
春夏秋冬を朝昼夕夜と喩えて、冬の椿と夜が繋がるという点も好き。
『ナイトループ』の吐き捨てるような「馬鹿みたい」に対して、沁みこむような「ありがとう」のセリフがすごい。

〇夜と雨

あやめ嬢とのデュエット曲。
比較的高めと低めの二人の歌声が織りなすハーモニーが心地よい、しっとりと落ち着いた曲で、癒し効果がすごい。
静かに降る雨音の中、夜が明けた翌日のことを思っている歌詞が「明るすぎず、暗すぎず」ちょうどいい。
ミオちゃんも「特別」というあやめ嬢の声による歌が筆者も大好きなので、二人がデュエットしたこの曲は本当に歌ってくれてありがとうという気持ち。初期の、FAMSの頃から仲のいい二人が、こうしてミオちゃんの1stアルバムに収録された曲を一緒に歌うということが、実に尊い。

〇君と星の夜に

ミオちゃんが作詞作曲(サポートあり)した一曲。
ピアノの音もあってか爽やかな感じ。「片思い的なイメージ」ということで、青春を思わせる。
美しい星空の下、一緒にいる「君」へ想いを告げる、という夜のエモーショナルな一面。
「こんな自分にいいよと/笑ってくれた」と自分を認めてもらい、「弱い心なんだ/だけど、全部僕だ」と自分を認める、そして、思い悩んだ上で、「僕は、君が好きだよ」と伝えるという歌詞は最高に青春している。自分に自信がないと語るミオちゃんの気持ち、それでも支えてくれるファンへの感謝と親愛の気持ちを感じる。

〇夜明けのメロウ

収録曲の中で一番最初にできたという一曲。
おしゃれでリラックスした、まさにメロウな雰囲気が漂う。間奏からかMVのせいかなんだか宇宙的なイメージもある。
ミオちゃんの歌の魅力のひとつに力強さがあると思っているが、ミオちゃん自身が語るように、この曲ではそれとはまた違う歌い方で、しっとりというか、新しい魅力を発揮している。
「変わらないで、と/終わらないで、と」どうあっても変わってしまう、終わりのあることについて、夜明けと重ねて惜しみながら、「君といる時間の中で/呼吸をするんでしょう」や「私は此処にある」と今現在を喜び、「どうか忘れないで」と眩しい光に照らされて消えていく夜(終わりあること)を歌っている歌詞が見事にきれいである。
夜の一種平穏で儚い一面か。

〇Sirius

アルバムの終盤の盛り上がりを担うバラードロック。
感情のこもった力強いミオちゃんの歌声の魅力をたっぷり活かした一曲。歌と曲で心を動かしてくる、めちゃくちゃエモい曲。5周年ライブの最後を飾るにふさわしい。
歌詞を読むと、ミオちゃんが言うように恋愛ソングであり、インタビューでは「別れの悲しい気持ちを切々と歌い上げる」と表現されているように、別れた「君」への気持ちの歌であるのだが、これは愛し合っていた二人の死別のあとの歌なのではないかという気持ちになる。「彼方へとゆく君を想うよ」や「こぼれた涙は 君がゆく/あの空を飾るよ」は死んでしまった恋人を描写しているように見える。すると、「僕らまた めぐり逢う日まで」というのは「僕」が死んでしまう日のことを指すのだろう。
同じ恋愛ソングの「君と星の夜に」が青春だとすれば、こちらはもう少し年上の恋愛のようにも感じる。
シリウスは、太陽を除いて地球上から見える最も明るい恒星で、その名前はギリシャ語で「焼き焦がすもの」「光り輝くもの」を意味するセイリオスに由来するとのことだが、それを踏まえれば、シリウスの名前を冠したこの曲が熱烈な感情の歌になるのも納得である。

〇溶けない結晶

アルバムを締めくくるバラード。
美しい、その一言に尽きる。ピアノの旋律とミオちゃんの繊細な歌声によってその美しさが出来上がっている。
タイトルの「溶けない結晶」とは何か。それは歌詞に出てくる「触れても消えない温もり」ではないだろうか。辛いことも悲しいこともある世界、疲れながらも歩き続けなければならない日常、そんな中の支えになる、確かにある「日々の優しさ」こそが「溶けない結晶」である。
夜はそんな歩みを優しく見守っている、そんなふうに思えるのだ。
この「溶けない結晶」解釈から連想するのはミオちゃんがインタビューで語っていたホロライブのメンバーとの関係性である。ミオちゃんの好きな椎名林檎の『ありあまる富』から、ミオちゃんの思う"目に見えない富"をそのように答えたのだ。5年間活動してきたミオちゃんが培い、支えられたその「富」についての曲が、1stアルバムの最後を飾るということもまた、実に美しい。

〇さいごに

『Night walk』の曲はどれも素敵な曲で、ミオちゃんの歌声のいろんな魅力が詰まっている。トラックの順番もしっかり考えて構成されている。
ゲーマーズという所属から歌うことを最初は控えていたミオちゃんが、ソロライブを夢に、作詞作曲を勉強して、次のアルバムへ意欲的だということが本当に嬉しいし、応援したいと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?