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時の贈り物・夏の終わりのお買い物 2

可愛い石たちは、どうやら夏の夜の夢ではなかったようで(笑)、イリノイ州のお店から無事到着。

 *前回のお話はこちら

今回の買い物のきっかけとなったテネシー州のフローライトは、小さいながらもまさに!みたいな形の標本ですが、他の二つは今まで手にしたことのないタイプ。もしかしたら石としての市場における価値は低いかもしれないけれど(一つ一つがとても小さいから)、その造形美には払って有り余るものがあるように(私的には!)思います。

ということで、市場ならぬ私情価格基準で、新しい仲間たちを紹介したいと思います。

まずは、アメリカはテネシー州の鉱山。エルムウッドからのフローライト。白いドロマイトを伴った紫色の結晶が美しい標本。ロイヤルパープルとも言われる、エルムウッド特有の紫かどうかはちょっとわかりませんが、とても綺麗な紫です。

エルムウッド鉱山は、70年代、主に亜鉛やゲルマニウムを採掘していましたが、フローライトや方解石、閃亜鉛鉱などの美しい鉱物標本も産出しているのです。

「テネシー州といえば、真っ先に紫色の蛍石と閃亜鉛鉱やバライトとの組み合わせが美しいエルムウッド鉱山の物が思い浮かびます」「紫を主体に青や透明、黄色などのフローライトを産出し、様々な鉱物を伴ったマルチ鉱物が多く流通していました」「バイオレットやブルーのフローライトは他の産地には無い美しさがありコレクターの人気」などなど、多くの方が熱く語られていましたが、すいません、ちっとも知らなかった。

残念なことに、何度か閉山開山を繰り返したのち、2015年が最後になりました。けれど今も、コレクターが放出した商品が流通しているおかげで、運よく手にすることができるのです。今回の私がまさにそれ。

きちんとしたケースにお行儀よく入れられたそれはまさに「美しき標本」。2000年以前に作られたもののようです(今回の3点はともに2000年以前に作られたコレクターズアイテムの放出品です)。

昔はたくさんあったんだろうなあって思わせる小さな一品ですが、それでもこれは世界にたった一つ。回り回って私のところに来てくれてありがとう、と感無量。水没してしまった故郷の夢とか、私にも見せてほしいなあと思わずにはいられません。

続いて二つ目もフローライト。小さいながらもクオリティーの高いグリーンフローライトたちです。ころっとしたフォルム。なんでしょうか、この可愛さ、たまりません。そしてその土台となっているのがモスコバイトマイカ。雲母です。

中学の理科の時間に、雲母をはがすという授業があって、ものすごく興奮したことを覚えています。そっとそっとはがしたそれを大事に筆箱に入れる様子を見ていた同じグループの男の子から、自分は興味がないからあげるよ、ともう一枚もらって夢見心地だったことを覚えています。

しかし残念ながらそれ以降の記憶はなく、そんなに大事だったはずのあの薄くてキラキラした羽のような雲母は、どこに行ってしまったんでしょうか。けれどこれだけは確か。私の中には雲母の存在は限りなく美しいものとして刻まれたのです。

大好きなレピドライトもそうです。私、雲母のきらめきには、どうあがいても太刀打ちできないようです。雲母って宇宙だなあって見るたびに思うんですよね。

って、ちょっと脱線してしまいましたが、この石はアフリカのナミビア産です。ナミビアは南アフリカ共和国のすぐ上にある国。大西洋に面した地域はあの世界最古の砂漠、ナミブ砂漠です。私が大事にしているアスワンのサハラ砂漠の砂もそうですが、ここの砂もまた酸化鉄によって綺麗な赤を内包しています。幻想的ですよね。

ああ、またまた脱線してしまいましたが、そのナミブ砂漠よりも内陸部にあるエロンゴ山のウラン鉱脈、ここからアクアマリンやトルマリンなどが発見されて以来、鉱夫さん達が手彫りで作業しているとのことです。

かなり深い場所まで掘り進められているようですし、決して環境がいいとは言えないと聞きました。鉱山とは本当に大変な作業場所だと思います。ありがたく受け取りたいと敬虔な気持ちになってしまいます。鉱夫の皆さん、ありがとうございます!

先のエルムウッドが紫のフローライトなら、エロンゴは緑のフローライト。特にエイリアンアイと呼ばれるフローライトが有名だそうです。私が手にしたこの小さなモスコバイト・白雲母の上にのったフローライトは2018年前後によく見かけられたもので、そのため「よくあるエロンゴ」と言われることもあるようです。確かに、メインのフローライトの大きさが市場での価値を決めるとすれば、これは・・・ですが、このバランスが!私的には絶妙です。最高です。

フローライトも美しいのですが、このモスコバイト・白雲母の美しさと言ったら!鳥肌がたちました。素敵すぎる。色といい形といい。エロンゴの石は結晶の照りに高い評価があるようですが、まさにその点でも満点かと。宝箱の中の密かなる輝き!みたいな美しさだと思っています。

思わず、行ったこともないナミブ砂漠が見えたような気がしました(いや、エロンゴは内陸だから関係ありません)。ハートを鷲掴みされるとはこのことだと思いましたね。久しぶりに「打たれた」瞬間でした。

最後はドロマイトを主体とした茶褐色の母岩の上に、セレナイトに覆われたローザサイトが散らばるクラスターです。こちらも小さいですが、キラキラ感が恐ろしく可愛いです。

これもまたローザサイトを見るというよりはこの共生のバランスにため息するといった感じ。他のものと比べるとわかりやすいのですが、このドロマイト、茶褐色というよりはかすかに薔薇色なんです。若干鉄分を含んでいるのかもしれませんね。

しかし、モロッコ産の石というのは初めて手にしました(砂漠のバラは持っていますが)。「モロッコは鉱物の産地というよりも化石の産地として非常に有名な国ですが、水晶の他にフローライトやカルサイト、バナディナイト等のような様々な鉱物の産地としても知られています」という解説を見ました、なるほど。

石の産出地をよくよく見れば、トゥイシット ジェラダ州 オリアンタル地方 ボウベッカー。オリアンタル地方と言えば、私の愛するタンジールのお隣。そう、アトラス山があるとは言え、ここもまたサハラ砂漠。ナミブ砂漠には届きませんでしたが、ここでついに砂漠に着陸。

どれくらい砂漠が好きかはこちらをどうぞ

穏やかな午後の光の中で、小さなガラスドームに石たちを収めていきます。アメリカを出発し、輝く薔薇色の砂漠に到着した鉱石の旅は、やっぱり夏の夜の夢だったのかもしれません。日常の中の小さなロマンチックは最強なのだと、小さな石たちを眺めながら思う秋の日でした。




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