番外編その3 ニゲラ・クロタネソウ

画像1 初めてその花を見た時、船が来たのだと思いました。美しい装飾を施された、軽やかで足の速い船。風に乗るように時間を捉えて、どこか遠くから、まだ知らぬ人を連れて来てくれる船。もしくは私自身を、そんな未知なる旅へと誘い出してくれる船。
画像2 母の庭に咲いたのはどこからかの零れ種で、私がその種をもらって初めて蒔いたのは秋。しかし春を迎えても兆しはなく、ここではダメなのだと諦めていました。それでもこの春、思い立ってまた種を蒔きました。季節外れの種まき。密かに希望を託して。
画像3 小さな芽吹きがあった時、心が震えました。でも欲張りはいけないと思い、ただ淡々と日々の成長を見つめてきました。小さくて繊細な株は夏の陽射しの中、今にも溶けてしまいそうに見えました。この庭に生まれてくれたことだけでも大きな喜び。そう思っていた日、小さな先端に揺れる蕾を見つけたのです。
画像4 花開いた朝、ため息が漏れました。夢見てきた花。小さな小さな私のニゲラ。季節外れに生まれたせいか、通常の半分にも満たない私のニゲラ。でも、船は完成したのだと思いました。見知らぬ先へ向けて、港が開かれていくような気がします。青いゆらめきの中で、出航の時を待つ船たち。私のローズガーデンに、素敵な人が訪れてくれる日も近いかもしれません。

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